#5 スタートラインに立てばいいんですよ
「えぇっ! この人、バーチャル配信者を知らないの⁉」
んだよ。無知はそんなにも悪でございますか?
相沢に連れられて、先ほどまでいたマンションの一室の隣の部屋――この『仮想配信研究会』の男子部屋に着いた俺は早速、この研究会の男性メンバーである
「ま、知らない人がいても不思議じゃないよね。動画サイト見なければ、知ることもないかもしれないし」
にしても、この男。なんか見ていると癒しを感じるな。
はっ⁉ これが萌えか!
「なんか今失礼なことを考えたでしょ?」
いえいえ? そんなことはないです。
「とりあえず、本格的にやるならすぐにはできないよ? Vのデザイン発注したり、機材の準備とかあるし。名前や設定も考えないと」
ふぇぇ、なんか難しそうだよぉ。
「大丈夫ッスよ。ツルさん、悪くない声をしていますし」
そ、そうかな? えへへ! 照れ照れ、照れワーク!
「うわぁ、寒っ」
うるせえ! 照り焼きにすんぞ!
俺は何を言っているのだろう。
「細かい相談はモデ奈姉ぇが帰ってきたらにしようか」
榊が口にした名前。モデ奈姉ぇ。
さっきの部屋で話に出てきた横浜さんのことらしい。
横浜モデーナ、いったい何者なんだ?
その人がこの『仮想配信研究会』の長である。高校生の時に、祖父が生まれた日本、その文化を求めてわざわざイタリアから来たらしい。だが、その直後にウイルス騒動が勃発。すぐに自宅でもできる配信者を始めてスパチャ? やら、広告収入? やらで手に入れたお金で高級マンションを購入し、このサークルを作ったようである。
スゴク行動力がある人だと感じた。無気力な俺とは大違いだ。
俺はあのとき、何をしていたっけ。
思い出せるはずがない。何も、していなかったのだから。
「大丈夫ッスよ」
気が付くと相沢が俺の両頬を引っ張っていた。
そんなに引っ張っても、あんぱんは生成されないぞ?
それともアレか? 「引っ張るヒッパルコス~」っていうギャグをやりたいのか?
俺は何を言っているのだろう。
「最初は不安なことって、誰にでもあると思うんです。まずはスタートラインに立てばいいんですよ」
相沢。たまには良いことを言うじゃないか。
ま、今日初めて会ったんだけどね。
「ツルさんみたいな人は、変にキャラを意識するよりもありのままの自分に少しだけ隠し味を混ぜるような感じで活動したほうがいいかもしれないッス」
ふぇぇ。
「ケセラ・セラ、ッスよ」
「なんだっけ、それ」
「さあ? 昔やったゲームで出てきた、やたらルーレットを回すことになるバトル施設のおねえさんのセリフにそんな感じのがあったなぁ、って」
る、ルーレットゴッデスさんじゃん。俺はそこまでたどり着いたことない。
「その反応、ツルさんゲームとかアニメとか好きッスよね?」
「昔ハマッていただけだ。最近のは何もわからんよ」
だから最近流行りの、異世界なんたらとか、なんたら転生とか、わからない。
インターネット自体、俺にとっては毒だったんだ。
あのウイルス騒動のとき、俺は極力自宅にいて早めに受験勉強を進めていたが、遊びに行く人間は、それはそれで存在したし、自粛も人それぞれだったから、SNSとかで発信されるお出かけアピールツイートとかがタイムラインに流れる現象、そういうのが辛かった。
だから流行とか本当に、まったくわからない。
そういうことにしておいてくれ。
「じゃあ今度ゲーム買いに行くッス。ソケモンとかモンパンとか、ね?」
ま、その二つなら、昔のタイトルやったことあるし。
「ついでにキャプチャボードとか、パソコンも見るッス」
パソコンは――従弟に作ってもらったやつがあるんだが。
「スペックは?」
「よくわからんけど――」
俺は従弟とのメッセージアプリのやり取りを相沢に見せる。
「これ――持っていたのに、今まで何もしてなかったんッスか?」
そだねー。
「十分すぎる性能のパソコンッス! ツルさんの従弟何者なんすか⁉」
「うん、何者なんだろ」
俺の大学入学直後に『はいすぺパソコン』とやらを組んでくれて、部屋に置いて行った従弟。最近会っていないけど、元気にしているだろうか。
今度、夜霧市に遊びに行こうかな。
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