第2話 事の発端
事の発端は、『頬杖を突く少女』という絵画の紛失だった。
この絵は、片田舎のみかん山の一部が崩れた際に、土の中から発見されたもので、特に有名な画家の手とは思われなかった。だが、そのみかん農園の辺りは、有名な化学者、
そんな情報が拡散された途端、発見者から件の絵画が消えたと言う届け出があったのだ。
科学者、
当時はエネルギー事情が逼迫しており、温暖化現象も加速していた。
そんな中、彼の発見が救世主となる。
その上少量で大きなエネルギーを生み出すことがわかり、急速なエネルギー事情の変化をもたらしたのだった。
当然、世界貢献の高い化学技術を湛える『エクスカリバー賞』の受賞も決まっていた。
だが……授与式の直前、彼は実験の事故によってこの世を去ってしまう。
どんな実験だったのか、それは今も謎のままだ。だが、だからこそ、人々は彼を神格化して、尊敬していた。
そんな彼の絵だとしたら……しかもこの女性は彼とどんな関係があったのか。
人々の関心がスキャンダラスな方向に進んだ途端、肝心の絵画が消えてしまった。
どんなに噂好きな世論でも、関心は直ぐに移り変わっていく。
だが、世の中が忘れても忘れない人もいる。
うちの事務所としては、協力費も雀の涙なので、あってもなくても良い案件なのだけれど、玄子さんは嫌な顔一つせずに引き受ける。それは、時々、こんなでっかい山に繋がる時があるからだ。
紛失した絵画の行方については、片田舎のことなので情報が少ない。
だが、情報屋、迦楼羅の技術を持ってすれば、行先はすぐに確認することができる。周辺道路の監視カメラの情報をパズルのように組み合わせて、たった一台の車を割り出したのだ。
その行先は、物流界のドン。
一代でこの
彼がどのような手で物流企業を買収していったのか、その裏で動いた莫大な金の資金源はどこにあるのか……不思議に思う人は少なくなかっただろう。
だが、触れてはいけないことのように、マスコミも騒いではいなかった。
まるで暗黙の情報統制でも敷かれたように。
だから、俺たちも迂闊に手を出せずにいたんだ。
「この人、前から胡散臭いと思っていたのよね」
「でも、紹介されている姿は若くてイケメンですよ」
「別に。私は鈴村君の方がカッコいいと思っているもの」
「はいはい。ありがとうございます」
そう言って俺は首を差し出す。
「違うわよ」
玄子さんはそう言ってツンとそっぽを向いた。
血を飲みたくてお世辞を言ったわけでは無いらしい。
「そうじゃなくて、若作りしててキモイって言ってるの!」
「もっとデカい証拠が欲しいな」
ギシギシと椅子を揺らしながら筋トレ中の來田。
「この映像だけでは難しいですかね……」
しょんぼりと耳を下に向けた迦楼羅。
そんな重苦しい空気を変えてくれたのは、迷いネコの捜索依頼だった。
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