七
――害のあるものではないのですね。
――大丈夫でしょう。
――何かあれば娘も陰陽師、自分で何とかするでしょう。
――渡来のものですが大丈夫でしょうか。
――呼び出せたのなら、その逆もできるでしょう。
――それもそうですな。
付喪神と決めたとたん、なんの憂いもなくなったかのように、男たちが陽気に話始めた。その警戒心のなさに、気持ちがざわつく。
はっはっはっと、笑い合う声が響く中、
「朔子様ご退出。皆様、お帰りお気をつけくださいませ」
女房の声が聞こえたと思ったら、
〈……に〉
囁きを耳の内側に残して、目の前が真っ暗になった。
急に変わった明暗に慣れると、入った時にいた町家作りの細い土間で、玄関に向かって立っていた。振り向いても、もう何もない。
背筋が冷たく波打つ。ほんの一瞬前の事なのに、何が嘘で本当なのかわからなくなりそうで混乱する。
「おい」
声をかけられて、驚いて振り向く。
そんな私を呆れた顔で見ながら、光誠様がさっさと玄関を開けた。
「終わったから戻るぞ。帰ったら、説教だな」
にやりと嗤う光誠様の、どこがおかしいのかさえわからない違和感。
それでも玄関を出て、昼の明るい空の下、人の行きかう往来に出ると少し落ち着いてくる。
お祖父様は「試練」と「己の心を信じろ」と言った。あれがお祖父様の先読みならば、まだ何もしていない今を安堵してはいけない。
そして、肩の上でリボンを抱いたまま、私をにこにこと見上げるこの童子にも、安堵してはいけないのだろう。
家に帰って、こま子や仁史さんにも謝って、怒られた。
光誠様にも怒られて、父様と二人がかりで夕餉まで式神の怖さと術師のおごりの危険を説教された。
お祖父様は神事があるからと会っていない。だから、確かめられないのが余計に気にかかる。
なぜ、こんなにもあっさりとことは納まったのか。
なぜ、誰もがこの異国の付喪神を「無害」と思い込んでいるのか。
最後に聞いたあの囁きを言ったのは誰なのか。すべてを知っているとしたら、おそらくその誰かだろう。
〈今夜、月の一番明るい刻に〉
私は夜を待った。
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