二
そもそも何をしようとしていたのか。
式札を作ろうとしていた。それも、イギリスの精霊を模した式神を。
きっかけは、光誠様が四年間の洋行から戻った土産にと持ってきた絵本。それはイギリスの精霊のことが書かれた絵本で、手にした途端に私は魅せられてしまった。
こんなことあまり言ってはいけないんだけど、私には見鬼の目がある。
私の家――橋元の家業は京の都で千年以上続く神社で、その昔から陰陽師を多く排出してきた家系だ。だから見鬼の才を持つ者も珍しくはなく、男ならば禰宜か陰陽師、女ならば巫女の修業をさせられる。
私が見鬼だと知られたのは、物心つく前。だから、小さなころから巫女の修業はしていた。
でも、私は見えるものが怖くて、大嫌いだった。
それを退けたくて、とある事件を起こしてしまったのは数えで九の年。そこから私の修業の内容は変わってしまい、一年前に数え十六で女子では初の《陰陽寮から正式な役職として陰陽師を名乗ること》を許されてしまった。陰陽寮で陰陽師を名乗れるのはわずか六人。その才を見込まれ七人目の陰陽師になった才媛なんて言われているようだけど、実際は陰陽師なんかじゃなくて、見張らなきゃいけない危険人物ってことなのだと思う。
とはいえ、この国を江戸の幕府が支配し、泰平が続いてもう十四代。黒船がやってきてから物騒は増えたけど、陰陽師でなければならないような大事件なんてあるわけもなく、最近は占いや病の祈祷ばかりの日々。下賜された、大鬼を払ったいわれのある退魔の太刀――花椿と、このまま何事もなく過ごせればと思っていた。
なのに、出会ってしまった。
イギリスの言葉で書かれたその本は子供向けとはいえ難解で、光誠兄様から借りた辞書を片手にやっとわかったのは、西洋の精霊も五行のように力の属性を持っていて、それを魔女という術者が使役するということ。そして、魔法という術を使う者には、精霊という自然の霊を従える者もいるということ。
なんか似てるから、これ、できるかな?と思ってしまった。
フェアリーやスピリットと言われる精霊達はみなかわいい絵が添えられていて、これを使役できたらと心が躍った。そして、かわいくない怪異に私が花椿でとどめを。いいと思ったのだ。
だから、まずは精霊――フェアリーを式神にしてみようと思って、準備に三月もかかってしまった。
でも、失敗したらしい。原因はあの違和感? あの時心が一瞬逸れたから?
怒られるのは覚悟していたけれど、本当に失敗なら心が折れる。
そして、疑問がわく。
何で、そんなにフェアリーを使役したいと思ったのか。
疑問のたびにぼんやりとして、失敗に悲しくなって、また疑問がわく。
ふわふわぐるぐる、上手くまとまらない思考の彼方、ずっと声のような雑音が聞こえているような気がしていた。
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