姫陰陽師、なる!

野之ひと葉

《……に、頑固なんだから!》

 ずっと聞こえていた雑音だったものが、その時急に言葉になって聞こえてきた。

 いつもと同じまどろんだ中途半端な意識の中、耳と一緒に目もぼんやりと戻ってくる。とはいえ、実際の目で見えているのとは違うことはわかるそれは、色はわからないまま、物の輪郭だけを写した。それでも、そこにいるのが背を向けた女性だとはわかる。ふわふわと揺れるのは、長い髪。足もとに向かって広がる着物は馴染みのない形をしていた。

《自覚が必要ってこと、かな?》

 また、声。

 動きを止めた女性は、しばらくすると、頭の高さに右手をかざした。その手のひらから空中に波紋の様に金色の光が広がった。

 それと同調するように、私に中の何かが動いて、ざらりと全身が内側から撫でられる。肌がざわめいたのは錯覚だろうけれど、生々しい。

《リンクは、できてるわね》

 驚嘆に何もできずただ彼女を見た私に聞こえてきたのは、安堵の声。

《仕掛けは順調に機能してるし。できれば、仲介者なんていない方がいいんだけど、しかたないか》

 今度は左手が、空中に金色の光の波紋を描く。

 とたん、浮遊感にすべてが曖昧になっていく。

《ねえ、聞こえてたりするのかな? お節介なのはわかってるけど、でも、苦しそうなの、見てるのつらいから。あなたはね、もっと自由になっていいんだよ。自分をかわいそうにしちゃだめなんだからね》

 小さくなっていく声がとても優しかった。


 そして、私は――

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