武器と過ごす日常ぉ!

@youhachikujou

武器エクスカリヴァー

第1話 少女、降臨

 五月半ば。時折吹く風に春の涼しさを感じつつも、照り付ける太陽の光に夏の到来を感じる、そんな季節。


 帰路である住宅街に阻まれた道には沈みゆく太陽によって伸ばされた影が映し出されていた。手首の腕時計を見なくとも、だいたい五時頃だろう。


 本来ならば、高校に入ってできた新しい友達とゲームセンターやら書店やら、少し小腹がすいたらレストランに寄ったり、あとは俺か友達の家に寄って、そこで変なゲームでもしている時間なのだろう。


 そして、そうそうに彼女とかが出来たであろう二年生あたりはカラオケに向かい、そういうことをし、家に行き、そういうことの続きをし、翌日の朝にはそういうことをした関係になっているのである。そうして世の男子たちは大人の階段を上っていくのを阻止する公序良俗に反する条例に怒りを抱くのである。


 しかし、俺は俺で、今日も今日とて一人帰路をとぼとぼと歩いていた。履いているシューズはスニーカーのため足音も目立たず、大通りから離れたこの道を走る車はほとんどない。


「あ~あ、女の子でも降ってこないかなぁ~」


 なんつって。

 ここまで出会いに恵まれないと、こんな空虚な願いを持ってしまうのも無理はない。まあ単なるゲームのやりすぎと漫画の読みすぎなんだけど。


「カー、カー、カー」


 カラスが一匹鳴いたところでうるさいとも感じず、むしろ、静かな帰り道に花を添えてくれたようなもんだ。


 ぽつん、と鼻先に何かが落ちた。


「ん? 雨か?」


 空を見上げると頭上には雲は一つもなく、ちょうど視界をカラスが通り過ぎて行った。

 鼻先に指を当てて確認すると、信じがたいほど白い液体が付いていた。友達の一人でも

隣にいれば笑い話にでもできたのだろうけれど、そんな相手はおらず、一粒の糞に対して怒りすら感じない俺は、ポケットティッシュから引っ張り出した紙で拭った。


「はぁ」


 ぽつん、と。今度は肩に。


「おい、二回目はズルだろ!」


 カラスは笑うようにカーカー鳴いて頭上を通り過ぎた。


「っくっそ……俺が余りにも惨めに見えるからってウンコの標的にしなくたっていいだろうが!」


 カラスの去った空に怒りの声を上げた後、俺は再びティッシュで肩に落ちた糞を拭う。


 いや、待てよ。二度あることは三度ある。俺は空を見上げた。またも頭上に黒い何かが飛んでいた。


「やっぱり、なんなんだよ今日は! ……ん?」


 しかし、その点は一切動くことはなく空に浮いていた。そして、何となくの気持ち程度に大きくなっているような気がした。


 嘘だろ、糞が鼻に落ちた時に目にゴミでも入ったのかよ……。ばっちいなぁ。


 瞼をこすって汚れらしき汚れを落として再度上空を確認する。黒点は先ほどよりも大きくなっていた。ていうか、それは大きくなっていると表現するよりも、段々とこちらに近づいているように思えた。


「落ち……てる……のか?」


 俺は額に手を添えてよくよく目を凝らしてみる様にした。黒いのは影のようで、大きくなるにつれて影は薄まり、自然と全貌がうかがえるようになった。観察している場合ではないものの、どうしも何が落ちてくるのか見ておきたかった。


「まさか隕石なんてこと、ないだろう。燃えてないし。じゃあ、あれは、なんだ?」


 近づくにつれてその全貌が明らかになった。銀髪と白い服を着た、そう、人。長い銀髪を尾を引くように靡かせながらこちらに向かって落ちてきている。


 ……え? やばくね?


「人ッ⁉ 人! 人? ひと……。ひと? 人! 人ッ⁉」


 思考が一巡し、差し迫った事態の緊急性について理解した。


 やばいやばい、どうすりゃいいんだ! 救急車か? いや間に合わないだろ。じゃあ警察か? いや間に合わないんだって! なら消防? だから働く車は意味がないんだってば!


 じゃあ、待って……。


「俺がやらなきゃいけないってことか? あんなこと言ったから?」


 ――女の子でも降ってこないかな~。

 いやそんなつもりで言ったわけじゃないし! 神、なんちゅう時になんちゅう雑さで願い叶えてるんだよ!


 だが、女の子をキャッチするなんて、できるのか? そもそもキャッチしないとどうなる? このままはるか上空から落ちてきた女の子は、コンクリート地面にぶつかって……Ohマイゴッド。R⒙展開は純粋無垢の俺には早すぎる。


「よし、やるか」


 気合を入れて、手を大きく広げて女の子を抱きとめる姿勢を構える。体全体で包み込むように抱きかかえれば、少しの骨折ぐらいで済むだろう。(少しの骨折ってかなりの大怪我じゃないか? いやいや気にするな。気にしたら負けだ。うん、なんとかなるだろう)


 準備万端の体制で待ち構えた後に、上空を見上げた。


「さあ、こぃ……白いパンぐおぉ⁉」


 俺の視界は真っ白のショーツらしき白幕を最後に暗転した。


 


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