第二章 初心者向けダンジョン――グリーン・ガーデン(4)

 ともかく、イルナの言っていたチェック柄の宝箱の利点とやらを知るため、早速開けてみた。

「おおっ!? アイテムが二つ入ってるぞ!」

 ひとつの宝箱にふたつのアイテム。

 なるほど、これがチェック柄宝箱特有の利点ってヤツか。

 中でも俺が気になったのは、宝箱の中で輝く光の球。

「な、なんだ?」

「凄いじゃない! 魔法の素よ!」

「これが……魔法の素……」

 聞いたことはある。

 人が魔法を覚えるためには、宝箱からドロップする魔法の素を使わなくてはならない。それ以外にも、例えば俺が手に入れた龍声剣のように、特定のアイテムを装備することで使えるようにもなるらしいが、それは一般的な方法ではないらしい。

 その魔法の素の色は白。

「色が白っていうことは……無属性か」

「そのようね」

 イルナはカタログに目を通し、さらに詳しい情報を調べた。


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アイテム名 【魔法の無属性・Eランク】

希少度   【★★☆☆☆☆☆☆】

解錠レベル 【27】

平均相場価格【1万~5万ドール】

詳細    【使用することにより、Eランクの無属性魔法ヒーリスを取得可能】


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「ヒーリス?」

「回復魔法ね」

 回復魔法、か……これまた戦闘には欠かせない魔法だな。

 ちなみに、人にはそれぞれ生まれ持った魔法属性というものがある。

 例えば、イルナは風属性。

 炎属性も覚えようと思えばできないこともないが、威力は落ちるし魔力は余計に食うといいとこなし。そのため、自分の属性にあった魔法の素を選ぶ必要がある。稀に、ひとりで複数の属性持ちの者もいるらしい。

 また、俺みたいに武器自体が魔法を覚えるものであるならば、複数の魔法属性を持つことが可能となる。

 その中でも、無属性魔法に関しては、誰でも覚えられるという利点がある一方、このヒーリスの希少度で示された通り、あまり高価ではないのだ。イルナ曰く、一説には魔法の素がドロップした際の約半分がこの無属性魔法らしい。

 希少度はともかく、今の俺たちにとってはありがたい魔法だ。

「回復なら薬草もあるし、こいつは売っても――」

「いいかな」と言い切る前に、手にしていた龍声剣が強い光を放った。

 そして、目の前にあった魔法の素を剣へ取り込んだのだ。

「「えっ!?」」

 まさに魔法の素を食らうって感じで、俺とイルナは思わず声をあげた。

「なんだか、魔法の素を食べているって感じだったわね」

「あ、ああ……でも、分かるよ。これで龍声剣はヒーリスを使えるようになった」

 なるほどね。

 こうやって龍声剣を強化していけるのか。

 これからも宝箱から魔法の素を入手したら、同じように龍声剣へ取り込んでいくとしよう。もちろん、それが風属性ならイルナと相談だ。

 さて、何が入っているかな。

 チェック柄の宝箱を覗き込み、もうひとつのアイテムをカタログで調べる。


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アイテム名 【聖女の拳】

希少度   【★★★★★★★★★☆】

解錠レベル 【873】

平均相場価格【測定不能】

詳細    【装着した拳によるダメージを大幅にアップさせる】


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「うおっ!?」

「超レアアイテムじゃない!」

 ここでまさかの★9の超高額アイテム。

 しかもこれ、形状は完全にナックルダスターだ。

「ね、ねぇ、フォルト……」

「分かっているよ、イルナ。これは君が装備してくれ」

「! あ、ありがとう! 絶対にこの武器を生かしてみせるわ!」

 嬉しそうに装着するイルナ。

 うん。

 やっぱりイルナにはナックルダスターが似合う。

 ……女子に対して抱く感想じゃないな。

 とにかく、これでチェック柄の宝箱から出現したアイテムは回収できた。

 ――と、さっきからやけに静かだと思ったら、月影の若手さんたちが口をポカンと開けながら呆然と立ち尽くしていた。

「あ、あの、どうかしました?」

「いやいやいやいやいや!」

 ハッと意識を取り戻したシュミットさんたちが、俺へと迫る。

「き、君は解錠士だったのか!?」

「しかも解錠レベル59の宝箱を開けられるほどの実力者だったのか!?」

「も、もしかして、王宮解錠士なのか!?」

 怒涛の勢いで質問攻めを食らう。

 なんとかみんなを落ち着かせて質問に答えていくが……いつまで経っても興奮冷めやらず。

 とりあえず、一緒に出口へ向かうことになったのだが、その間も俺はシュミットさんたちから質問攻めに遭ったのだった。


   ◇◇◇


 グリーン・ガーデンを出て、若手冒険者のシュミットさんたちと別れた俺たちは、戦果である竜の瞳と聖樹の根、そして聖女の拳を手土産に宿屋へと向かった。

 シュミットさんたちは俺たちの戦果を見て、「我々も負けていられないな!」と奮起していた。

 それは俺たちも同じだ。

 霧の旅団の一員として、もっと実績を積まないとな。

 宿屋に入ると、ロビーにはリーダーのリカルドさんがいた。どうやら、向こうもついさっき戻ってきたばかりのようだ。

「よぉ、いいタイミングだな。他のヤツらは食堂で盛り上がっているよ。そこで今日の戦果を聞こうじゃないか」

「まだ夕食には早いんじゃないの?」

「飯を食いたくなった時に食う。それがうちのしきたりだ」

「そんなの初めて聞いたんだけど?」

 すっかりお馴染みとなった親子のやり取り。

 それが終わると食堂へ移動し、空いている席へ座ると、早速リカルドさんの視線が俺に向けられる。

「で、どうだった? 初めてのダンジョンは?」

「あっ、えっと……」

「お? なんだ? 成果があったのか?」

 俺がリュックから本日の収穫を取り出そうとすると、他のメンバーも集まって来た。二番隊隊長を務めるエリオットさんによると、みんな俺のことを気にかけてくれていたらしい。

 ……新入りの俺をそこまで気にかけてくれていたなんて、前のパーティーじゃあり得なかったことだ。

「勿体ぶっていないで早く見せてくれよ」

「あ、は、はい。これです」

 メンバーのひとりにせっつかれる形で、俺は今日最大の戦果である竜の瞳を取り出す。その瞬間、ワッと歓声があがった。

「おまえこれ、竜の瞳じゃないか!」

「え、えぇ、なんとか運よくドロップしました」

「運よくって……運とかのレベルでどうこうなる物じゃねぇぞ?」

「しかし、買おうと思って気軽に手に入る物でもないぞ?」

 なんだか騒然としてきたな。

 すると、ひと際大きな笑い声が店内に響き渡った。リカルドさんの声だ。

「いいじゃねぇか。強いヒキを持っているヤツっていうのは、そういうもんさ。自分の意思とは関係なく、お宝の方からホイホイと出向いてくる。やっぱり君を誘って正解だったな!」

 リカルドさんは席を立ち、俺の前に立つとポンと優しく肩を叩いた。

「これからも期待しているぞ、フォルト」

「! は、はい!」

 必要とされている。

 それを強く実感させてくれる言葉と眼差しだった。


 それから、リカルドさんの「今日は俺の奢りだ! 飲んで食って騒げ!」という言葉をきっかけに大宴会へと発展。ついにはパーティーと関係ない一般客まで巻き込んでの大騒ぎになっていた。

 店側に迷惑になると忠告しようとしたイルナだったが、宴会の中心に宿屋の主もいたため、あきらめた様子だった。

「ふぅ……」

 俺は一旦喧騒から離れようと外へ出て、夜風に当たっていた。

 ここでこうしていると、まだちょっと信じられないな。俺があの霧の旅団の一員になったなんて。

 すると、そこへ、

「ああ、もう! 酔っ払いの相手なんてしていられないわよ!」

 怒りながらイルナも出てきた。

「お疲れ様、イルナ」

「はあ……毎度のことながら疲れるわぁ」

「毎度なんだ……」

 レックスたちはこんな騒がなかったからな。

 初参加の俺はとても新鮮な気持ちだったけど……さすがに毎回だったらちょっと疲れるかもな。前に出てワーワーと騒ぐタイプじゃないし。

「……あ、あのさ」

 ぼんやりとそんなことを考えていたら、イルナが真面目な顔でこちらを見つめていた。

「明日も頑張ろうね、ダンジョン攻略」

「うん。まあ、今日みたいなラッキーはそう続かないと思うけど」

「……どうだろう。ほら、あなたって凄く運が強そうだし」

「そうかなぁ」

「きっとそうよ。――ほら」

 イルナは拳を作って、それを俺に向ける。

「これはうちのチームの決まりごとのひとつで、拳を軽く打ちつけ合うのよ。お互いの健闘を祈るために」

「な、なるほど」

「……もしかして、殴ると思った?」

「ま、まさか!」

 ちょっとだけそう思ったのは内緒だ。

 ともかく、意図を理解し、俺も拳を作ってコツンと軽くぶつけ合う。

 ……なんだろう。

 不思議と明日もうまくいくかもって気になってきた。

 よぉし、明日も頑張るぞ!


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試し読みは以上です。


続きは2021年10月29日(金)発売

『絶対無敵の解錠士』

でお楽しみください!


※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。

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絶対無敵の解錠士【増量試し読み】 鈴木竜一/角川スニーカー文庫 @sneaker

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