大体、見開き1ページくらいの小説集

朏 天音

少女

「何してるの?」


 突如目の前に、白いワンピースに麦わら帽子を被った、一人の少女が現れた。


「別に、何も」


 流していた涙を拭いながら、強がるように答える。

 振られたぐらいで泣くなんて、そんなところ子供に見られるなんて、情けない。


「強いね!」


 満面の笑みで少女は言い、意味もわからず驚いた。

 情けなく泣いている僕の、何が強いのだろうと、疑問ばかりが飛ぶ。


「大好きだった?」


 僕を振った彼女のことだろうか。


「あぁ、大好きさ。今でもね」


 そう簡単に忘れられるはずがない。

 心の底から、彼女を愛していたことには変わりはないのだから。


「ほら、強い」


 再び僕の頭の中にハテナが飛ぶ。

 何が強いんだ?

 むしろ情けないはずなのに?


 答えは、少女が言ってくれた。


「好きは強いんだよ?」


 はっとして、頭の中のモヤモヤが晴れた気がした。


「お兄さん。知ってたんでしょ? 好きな人」


 曖昧な言い方だが、僕には何を言いたいのかがわかる。

 僕が恋した彼女には、別に好きな人がいる事を僕は知っていた。

 知っていたが、それでも僕は伝えたかったのだ。

 ただ、『好き』だと。

 想いだけでも伝えたくて。


 案の定僕は振られた。

 振られると分かっていながら告白したのに、溢れた涙は止まらない。


「わかってて言える人は少ないよ」

「そうかな……」

「うん!」


 優しく、しかし強く肯定する声に、胸がギュッと締め付けられて、堪えていた涙が叫び声と共にどっと溢れ出す。

 同時に、張り詰めていた糸が切れて、き止めていた感情が、次から次へと溢れ出した。


 『好きだ』

        『振られたくなかった』

 『君が幸せならそれでいい』

                『振り向いてくれるかもしれないと思った』

          『君の横に立ってみたかった』

 『望み薄だなんて知っていた』

        『それでも想いだけは知ってほしかった』


 『君が好きだ』

 『今でも好きだ』


 『きっとこの恋は、一生忘れられない』


 涙も収まり、落ち着いた頃。


「お兄さんは、強い人!」


 その声を最後に、少女の姿は消えていた。

 もう秋だと言うのに、夏の格好をしていた不思議な少女。

 彼女のおかげで、僕は前を向けそうだ。


「ありがとう」


 ベンチに腰掛け、公園で一人、呟いた。

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