第二章 新たな出会い-6

「カイン、急げ!」

「だけど、そんなことしたら。武器が……」

 ヤムの言葉にまだたじろぐカインにジョールの姿が近づいてくる。

「カイン!」

「くそっ!」

 ヤムの最後の叫びにカインは剣を投げ捨てる。ヤムはそれを見てからカインに「よし!」と声をかけ、カインの体をジョールから遠ざける。

「ん? どこへ行った?」

 ジョールは目の前から消えた二人の姿を探す。二人はジョールの目の前から消えて、森の方へ向かっていた。


「ここは?」

 一瞬でジョールと対峙していた断崖絶壁から森の中に移動した自分の置かれている状況が分からなくてカインはきょとんとする。

「カイン。よく自分の殻を破り捨てたな。剣術だけではチャンシンケンは得られない。さっきの決意がお前を変えた。ついてこい!」

 ヤムはカインを連れて森の奥へと入っていく。

「カイン。まずはお前の全神経を両腕に集中させろ。構えは俺のやるとおりマネをすればいい。いいな?」

 ヤムの言葉にカインは、戸惑いながらも「あぁ」と頷く。ヤムは初めてチャンシンケンをハザードとカインに見せたときのように足を肩幅に広げ、両腕を上げて、肘を曲げて、拳を握りしめる。


「ヤム! これでいいのか?」

 カインは同じ型を作ると拳に全神経を集中させる。

「あぁ、そのままだ。動くなよ。今から俺がチャンシンケンの元となるウォックスをお前に授ける」

 ヤムはまたカインの知らない言葉を口にする。

「ウォックス?」

 カインはオウム返しのように聞き返すが、ヤムはすでに神経を集中し、カインの拳を自分の拳と「コツン」とたたき合わせた。すると、カインの拳は光り輝き始める。


「うぅ、この力。まるで体の奥からエネルギーがみなぎってくるようだ。だけど、この力に喰い殺されそうになる。うぅ」

 カインはウォックスの力に体が浸食されて全てが乗っ取られそうになる。

「カイン。あとはウォックスを自分の中で倒せ。お前なら出来るはずだ」

 ヤムは構えを解き、隣でウォックスと対峙しているカインを見守ることにする。


「ここは?」

 カインは剣道場にいた。そこにはハザードとザーギンの姿もある。

「カイン! やっと目が覚めたか。ずっと寝てたんだぜ。もう起きないかと思ったよ」

 ハザードは小さなマグカップにお茶を入れて持って来てくれた。

「ありがとう。それにしても、よく寝てた。変な夢を見た。俺は疲れてたのかな?」

 カインは少し頭をブルブルと振った。

「カイン。起きたのなら、このあと剣道場でハザードと一つ交えろ。カインもハザードも剣の技術は未熟だからな。剣がなければ何も始まらない。分かったな」

 ザーギンの言葉にカインは少し引っかかる。

「剣がなければ? いや、剣は必要ない。剣術だけでは先に進めないんだ。夢はこっちの世界か!」

 カインは剣を投げ捨てる。

「カイン? どうしたの?」

 ハザードの言葉にも見向きもせず、カインは目を閉じた。


「くっ! あー!」

 目を開いたカインは拳を見つめた。拳には光が灯り、エネルギーでみなぎっていた。

「よくやったな。カイン」

 その場にはヤムが立っていた。

「ヤム。俺は……」

 カインは自分の中にほとばしるエネルギーを感じながらウォックスを自分の中で押さえ込んだことに気がつく。

「カイン。俺がさっき見せて構えたようにチャンシンケンの技を自分なりに出して見ろ。今のお前なら出せるはずだ」


 ヤムの言葉にカインは両足を合わせて、両手で小さく弧を作る。間は少し空間をあける。そこに光の玉が出来上がっていく。その両手を後ろに引くと光の玉はさらに輝きを増す。カインはそのまま前に光の玉を大声と共に放つ。

「ハー!」

 光の玉は目に見えない速さで森の木々の間を駆け抜けていく。

「うぉ!」


 遠くの方で悲鳴にも似た苦しそうな声が聞こえた。それは森の方へ向かってきていた先ほどのジョールに光の玉が当たり、ジョールが息絶えた声だった。

「なんて奴だ。ここまでチャンシンケンを使いこなすとは」

 ヤムはカインのチャンシンケンに驚きを隠せなかった。同じくカインも自分で放った光の玉がチャンシンケンだということに気が付くまで少し時間がかかった。


「これがチャンシンケンなのか?」

「あぁ。お前のチャンシンケンだ。よく会得したな。もう俺から教えることはない。ハザードとリンネの元へ戻るとするか」

 ヤムはカインに微笑んで言葉を紡いだ。カインは自分の手をずっと見つめたままヤムの後について洞窟への道を進む。

「ヤム。ありがとう。チャンシンケンを教えてくれて」

 カインはヤムに初めて感謝の言葉を口にする。

「俺は何もしていないさ。カイン、お前の力だ。よくやったな。俺のチャンシンケンには及ばないがな。はっはっは」

 ヤムは大きく笑うとカインの頭をくしゃくしゃと触った。カインは少し嫌そうな顔をしたが、一緒になって笑った。


「おかえりなさい。ヤム様。カインさん」

 洞窟に戻るとリンネがお出迎えをする。ハザードはまだ眠っていた。

「ただいま。ハザードは寝てるのか」

 カインはハザードの眠り顔を見ていたずらがしたくなり、ほっぺをギューとつねってやった。すると、痛かったのか目を覚ます。

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