第一章 旅立ちの時-4

「ハザード、ザーギンさんもあのアランってやつも剣が光ってる。何か術でも使ってるのか?」

「いや、分からない。あんなの初めて見るし、父さんが本気でやりあっているのを見るのも初めてだ」

 ハザードとカインは物陰に隠れて、その様子を見ていたため二人の会話は聞こえていなかった。それでも剣が発色して二人がやりあっているのは、はっきりと見えていた。


「やるな。アラン。会わないうちに剣の腕を上げたか?」

 ザーギンはアランの剣術に少し驚いていた。

「バカを言うな。貴様の腕が落ちただけじゃないか! 一つ聞きたいことがあったぜ。貴様にあってな」

「なんだ? あの二人のことなら話すことはない」

 アランは少し剣を下げて、ザーギンと距離を置く。

「フッ。そんなことではない。コンコルドソードのあり場所だ。この村にあるんだろう? お前がここにいること。そして、あの二人がここにいるってことは」

 ザーギンは、再びアランに向かって剣を振り抜く。とっさにアランはそれを避けるので精一杯になる。

「コンコルドソードについても教えるつもりはない。去れ。ここは貴様が来る村ではない」

 ザーギンはそう言って一振り「マーレンフィッシャー!」とアランに言い放った。


「ふぅ。去ったか。アランがここまで来るとはな。しかも、コンコルドソードを狙いにとは。うかうかしていられないな」

 ザーギンの心には、少しこのコルコット村に予期せぬ事態が起こるかもしれないと不安がよぎっていた。


 コンコルドソードの在処。アランの襲来。これから起きることの予兆にしては出来すぎていた。ザーギンはこの場所を離れることは出来ないと思っていたが、アランの目的はコンコルドソードだけではないような気さえもしていた。ハザードとカイン。この二人に隠された秘密さえも知っているアランだからこそザーギンの元へやってきた。それは考えすぎている気もしていたが、二人の存在を知られた今、再び襲来してくるのは時間の問題なように思えた。


「ハザード、カイン! 出てこい!」

 隠れてみていることを感じ取っていたザーギンは二人に声をかける。

「父さん。アランは?」

「撒いたようだ。それより、大丈夫か?」

 ハザードとカインに怪我がないことを確認してホッと胸をなで下ろす。

「あいつ、なんなんですか?」

 カインがザーギンの顔を見て、質問をする。

「あいつは俺の悪友だ」

 ザーギンは刃こぼれした剣をスッと撫でる。

「悪友?」

 今度はハザードがクエスチョンマークを投げる。


「そうだ。それよりもあいつがまたいつこの村を襲ってくるか分からない。その前に二人にやってもらいたいことがある」

 ザーギンは悪友という言葉の真相を語らずに二人にお願いしたいことを先に告げようとする。二人も「悪友」に引っ張られそうになったのだが、ザーギンからのお願い事に胸を踊らされる。


「アランの襲来があった以上、私はこの村から離れることは出来なくなった。そこで、二人にはアランがまた来た際に私の加勢をして欲しい」

「俺たちが、ザーギンさんの力に……」

 カインは少し嬉しさよりも戸惑いすら感じてしまう。

「カイン。俺たちも父さんの力になれるんだ! 父さんの言うことをここは静かに聞こう」

 ハザードはザーギンの指示に従うことを薦める。

「あぁ。ザーギンさん。俺らはどうすれば?」

「ありがとう。二人とも」

 ザーギンは再びホッとする。


「俺はコンコルドソードやこの村を守るため動くことは出来ない。二人はこれから旅に出て欲しい」

 コルコット村にある宝物「コンコルドソード」、そして、アランの襲来から村を守るためにザーギンの力はもう借りられない。ザーギンを加勢するためにも二人は自分たちの剣術の腕を上げる必要があると認識したのだ。

「分かったよ。でも、父さん。旅に出て、僕らは何を?」

 ハザードは旅で具体的に何を掴めばいいのか分からなかった。ただ単に剣を振り回すだけなら、剣道場にいるときと同じなのだ。何も変わらない旅に出るのと何か目的を持って旅に出るのでは大きな違いがあることは誰の目から見ても一目瞭然だった。


「私とアランの戦いを見ていて気づいただろう。剣術の技術を」

「うん」

 ザーギンの言葉にカインはすぐにあの剣術を思い返す。

「そうだ。この技術に匹敵する力を身につけて欲しい」

「確かにすごい力で満ちあふれていた。でも、どうやって会得をすれば……」

 ハザードはついつい弱気になる。

「それを会得するための旅に出るんじゃないか! ハザード!」

 カインはそんなハザードを見て奮起する。


 ザーギンもそんな二人を見ながら大きく笑った。

「はっはっは。その通りだぞ。ハザード。そのために二人で旅に出てもらうんだ。引き受けてくれるな?」

「もちろんです! 行ってきます!」

 カインは大きな声で旅に出ようとする。

「おいおい。カイン。どこを目指すか分かっているのか?」

 ザーギンの言葉にカインは足を止める。

「いけねっ! どこに行けばいいんだっけ?」

 カインは頭を掻いた。ザーギンはまた大きく笑った。

「はっはっは」

 こうして、カインとハザードはコルコット村を出て、旅立ちの時を迎えるのだった。


第一章 旅立ちの時 ―完―

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