第9話 泣かせたな

 夏休みも近い7月中旬、俺は、静香しずかを屋上へ呼び出した。

 静香は

   「ここは暑いでしょ、教室で話できないの。」

俺は、静香に深く腰を折って頭を下げた、静香は察したのか

   「何、それ、聞きたくない。」

と言う、俺は

   「すまない、俺と別れてくれ。」

   「聞きたくないって言っているでしょ。」

   「頼む。」

   「新が良くなったの、できちゃったの。」

   「新は悪くない、全て俺が悪いんだ。」

静香は泣き出した、そして

   「私、あきらめない、分かれないわよ。」

俺は答えず、屋上を後にした。

 校舎内に入ると克樹かつきがいる。

 克樹は俺の胸ぐらをつかむと

   「若宮さんを泣かせたな。」

   「克樹、お前の言う通りだった、静香の分、殴ってくれ。」

   「お前のバカが治るなら殴るさ。」

克樹は俺を放すと屋上へ出て行く。


 克樹は座り込む静香の前に立つ

   「若宮わかみやさん、大丈夫?」

   「相馬そうま君、祭りの時あなたか言った通り、私、振り回されていたみたい。」

   「若宮さんは、たまるのこと諦める?」

   「いいえ、あきらめない、振り向かせて見せるわ。」

克樹はクスッと笑って

   「りないな君は、今日から静香と呼んでいいかな。」

   「どうしたの、相馬君?」

   「僕のことは克樹と呼んで、前から好きだった、でもたまるに先越されて告白

    できなかった。」

   「今の静香の気持ち知っていても、それでも君が好きだ、僕も君を振り向かせ

    てみせるよ。」

   「克樹、私しつこいから、大丈夫?他の子の方が楽よ。」

   「静香、君がいいんだ。」

克樹が手を差し出すと静香が手を取る。

 二人は教室に戻って行った。


 教室では、ちょっとした騒ぎになる。

 若宮が、目をはらして帰って来たと思おうと若宮と相馬が

   静香、克樹

と名前で呼び合っているのである。

 俺と静香が二人で教室を出て行ったことはみんな知っている。

 当然、男子たちは、俺に詰め寄る。

   「たまる、何をした」

   「正直に言え」

   「お前が何かしたのは間違いないんだ」

俺は話すわけにいかず、彼らが諦めるまで黙秘を貫く。

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