第95話 迷子の迷子の
ヤバい、恋が居ない! はぐれた? どこで? そうだ携帯……って! 俺の鞄に預かってんじゃないか! て事は……今、恋は携帯と財布無しって事かよっ!
行き慣れた場所だったらどうにかなる。けど、ここは初めて来た場所であり、加えてこの人混み……更に結構な広さの敷地って事を考えると、捜索が困難を極めるのは目に見えていた。
落ち着け落ち着け、とりあえずヨーマ達がバイクのテントに行くの止めないと。あとはマップで…………あった! 臨時の交番。もしかしたらここに行ってる可能性もあるから、誰かに行ってもらう。あとは人海戦術しかなくね? よし、幸い現役運動部も居る事だし、役に立ってもらおうじゃないか。となれば……
「先輩!」
「ん? どうしたのシロ? そんな慌てて」
「そっちに恋居ませんか?」
「恋?」
皆一斉に顔を見渡す。ヨーマに桐生院先輩、早瀬さんに栄人に凜、海璃に六月ちゃんに相音……いくら探してもやっぱり恋の姿はない。
「恋ちゃんが居ない!」
「えっ? はぐれた?」
「落ち着きなさい? 誰か携帯で……」
「それがさっき、俺に預かってくれって……今は俺が持ってるんです」
「なるほどね。この状況で連絡が取れないなんて」
「手分けして探すしかないです。皆はスマホ持ってる?」
「えぇ」
「うん」
「バッチリだぜ」
やっぱり手分けして探すしかないよな? それもなるべく早めに動くべき。だったら……適材適所っ!
「先輩。マップに臨時交番の場所載ってるんで、桐生院先輩と向かってもらっていいですか? もし恋が居なかったら状況確認とか皆に伝えてください」
「えっ、私と采が?」
「あと、栄人と相音! 幸いこの公園はグルっと1周出来る様になってる。元気有り余ってんだから、2人でひとっ走り行って、恋がないか探してくれ!」
「えっ!? おっ、おう! 任せろよ!」
「そういう事なら任せてくださいよ! 絶対恋先輩見つけ出しますから!」
「あと早瀬さんと凜、六月ちゃんは出店並んでる中央辺りを集中して探そう」
「うん」
「分かった!」
「わっ、分かりました」
「じゃあ皆何かあったら彩花先輩に連絡で! いいですね? 先輩?」
「えっ、えぇ分かったわ。……くれぐれも怪我とかしないでちょうだい? あと人の迷惑にならないようにね?」
「了解っす!」
「任せといてくださいよ!」
「じゃあ、みんなよろしく!」
よっし。これで捜索の手はずは整った。本当は交番に居てくれるのがベストなんだけど……多分マップも持ってないんだよな? 財布に挟めてた気がする。勝手に開けちゃまずいから確認はできないけど、もしそうなら結構最悪。
マップで見る限り、これが置いてあるのは4ヵ所ある入り口の門と祭り本部だけ。マップがない状態で、そのどれかまで行けるか? 出店があるのは大部分が公園の中心付近だし……その辺ウロウロしてるとか……
ん? 待てよ? よく考えたら、出店の人達って大体地元の人じゃないか? 別な所から来てる店もあるだろうけど、大半はそうじゃね? 大体が毎年店を出してるとして……それなら出店の人に聞いてとりあえずは交番に行くかもしれない。問題は恋がそれに気付くか……いや、案外こういう機転は利くはず。
もしそうなら交番に向かってるヨーマ達から連絡が来るよな。じゃあ、その間に俺達が出来る事と言えば……出店に現れる・居るはずの恋を見つける事か? その辺ふらふら歩いてて、行き会わないって流れだけは勘弁だぞ。
流石にこの人混みで走る事なんてできなくって、それが歯痒くて仕方ない。
やっぱり、居ないか? トリニクボーの所は? ……居ない。
リンゴ飴とイチゴ飴! ……居ない。
串団子の場所は? ……やっぱり居ないか。同じもの売ってる出店って意外と多いんだよなぁ。やっぱりこの辺しらみつぶしにに探すしか無いかぁ?
出店が立ち並ぶ通りを、ゆっくりと歩きながら恋の姿を探す……けど、それらしき姿は見当たらない。
こっちにも居ないのか? てか出店が固まってる広場も広いんだよな……反対側は凜達に任せてるけど、連絡がないって事は……
ピロン
おっ、なんてタイミングでストメ? えっと……ヨーマだ!
画面に表示されたヨーマの名前。それを確認すると急いで画面をタップする。
もしかして交番に居たとか? それだったら非常にありがたいんだけど……
【恋、交番には来てない】
その希望は一瞬で消え去った。
マジか……でも、これから来る可能性もあるよな?
【これから向かう可能性もあるので、先輩たちは居てください。他の人達から何か連絡は?】
【今のところないわ。もしあれば、私か采が皆にストメする】
【了解です。お願いします】
さて、ヨーマ達が交番に着いたとなると……恋が交番に行ったら合流できる。
けど、そうなると1番最悪の事態は……恋が交番に行かずフラフラ彷徨ってるってパターンなんだよな。ないとは思うけど……色んな事想定して動いた方が良い。だったら、俺達はこのまま出店の辺りを捜索だな。
……って言ってもなぁ。この広範囲でこの人混みは結構疲れる。あぁ、タラレバにはるけど……はぐれたらここに集合って具合に集合場所決めとけば良かったよなぁ。だったら迷子になっても比較的早く合流できそうなんだけど。まぁ、後悔先に立たずか。
仕方ない、考えろ。恋が行きそうな場所……行きそうな場所……。
相変わらず人混みは留まる事を知らない。そんな人の流れに1人立ち止まりながら、ゆっくりと頭の中を空っぽにして……考える。
ここは一旦恋になって考えてみよう。おそらく恋自身、気付いたら俺達とはぐれてたはず。だとしたら……まずは辺りを見渡して、はぐれた事実を知る。その後は? 多分連絡を取ろうとするけど、ポケットにはスマホも財布もない事に気付くよな? それから出店の人に交番とかの場所聞いて、向かったなら最高。
けど、今は別のパターンを考えよう。交番の存在を気付かなかったとして、どうする? とりあえず来た道を戻る? でも入った門から結構歩いたぞ? 来る時だってマップを頼りに来たわけだし、自分では戻ってるつもりが、違う道に行く可能性もあるか。でもそれなら走り回ってる栄人と相音と遭遇しそうだけど……
うん! 結局の所分からん! えーっと他に恋が行きそうな場所ってあるか? 例えば……恋が行きたがってた場所とか。なんか言ってたっけ? そんな感じの事……?
俺の知ってる限りでの恋の会話……なんだっけ?
『よっと、着いたぁ! この門潜ったら園内ですよね?』
『見て! こっちゃん、凜! 赤い橋!』
『皆で写真撮ろう!?』
違うな。
『見て! 黒いこんにゃくだって!』
『にしっ、ツッキー! 楽しいね』
『だってぇ、美味しそうだったんだもん』
『えっ! なんで分かったの!?』
全然違う。
『その……スマホとお財布ツッキーの鞄に入れてくれない?』
『うん。実は今日急いできたから鞄忘れちゃってポケットに入れてたんだけどね? この人混みだと落としそうでさ? しかも……両手ふさがっちゃった。てへっ』
『ふぅ、なんか軽くなったぁ。ありがとうツッキー』
やっぱ、それらしき事言ってなかったか……?
『あっ! ツッキー!』
『見て見て? お化け屋敷だって!』
んっ!? 待て? お化け屋敷?
『だよね? お化け屋敷かぁ……ねぇツッキー一緒に入らない?』
確かに……言ってたけど……
『今は無理だったけど、皆で休憩してる時とかに……絶対お化け屋敷行こうね?』
まさか……? いやいや、あれはただの恋の要望であって、はぐれたって状況下でさすがに……
まさかとは思う自分が居る。けど、まさかだけど本当にお化け屋敷の所に居るって事を、望んでいる自分も居る。
……実際は有り得ないよ? でも、あの時俺との会話で出たお化け屋敷。後で一緒に行こうって言ってくれたお化け屋敷に、こんな状況で居てくれたら……なんか嬉しくね? だって、それは俺と恋しか分からない、知らない事だから。……でも、別に探す当てがある訳じゃない。だったら、
行ってみようかな?
ふぅ。とりあえずはお化け屋敷の所まで来たけど……どれどれ? 入り口辺りには居ないな?
んーやっぱり居る訳ないよなぁ。まぁ盛大な俺の勘違……い?
お化け屋敷の前を通りながら、入り口辺りを見渡しても恋の姿はなかった。
まぁそんな気はしていたし、さてどうしようか?
そんな事を考えながら、ふとお化け屋敷とその隣にある小さな脇道に目を向けた時だった。
はっ?
それは最初、見間違いかと思った。
けどそれは……何度見ても、見た事のある後ろ姿。その人は脇道の先にある小さな神社の様な場所を黙って見ている。
もちろん後ろ姿だから、別人の可能性だってあるんだけどさ? 俺はその思いがけない人物を見た瞬間に胸がドキドキして……おもむろにその人の方へとゆっくりと歩いていた。
その身長、その髪型、その服装。自信の根拠なんて何にもないのに、それが自分の探している人物だってなぜか自信に満ち溢れていた。
そして俺は……無意識の内に口に出していたんだ。
探し求めていた人の名前を……
「恋?」
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