第65話 クリスマス
ピロン
ん? ストメ?
昨日のクリスマスパーティー……いやクリスマスイブパーティーから一夜明け、俺は1人優雅に朝のコーヒータイムに勤しんでいた。
そんな時、ふとの耳へと入り込む通知音。それがストメの音だっていうのは一目瞭然。問題はその相手が誰なのか……
朝からいったい誰だ? 栄人は部活に行く準備でもしてると思うけど。
机の上に置いたスマホを手に取り、画面を覗き込む。すると、そこに表示されていたのは……
【日城恋からメッセージです】
恋? 一体なんだ、こんな朝っぱらから。はっ!
その時、一気に体を伝う寒気。日城恋……その名前を見た瞬間に思い出すのは、昨日の事。
正確にはヨーマの家からここまで戻って来てからの事。
さらに正確に言えばその……おんぶした事だ。
まさか、早瀬さんに詳細を聞いたのか!? いやいや、確かに寮の前まで行って一か八か早瀬さんに連絡したよ?
運良く起きてて迎えに来てくれて、お任せしたよ? まさか朝起きて記憶がないから早瀬さんに聞いた? だとしたら……もしかしてその時の事情聴取じゃないのか!? どうする落ち着け、落ち着け!
スマホに触る手が震える。けど無視したらもっと悲惨な事になるのは目に見えている。
くっ、仕方ない! えいっ!
【おはよう。起きてる?】
まっ、まずは普通な感じだな? だが油断するな!
【おはよう、起きてるよ】
【そっか。それより昨日の事なんだけどね】
きっ、来た!
【こっちゃんから聞いたー】
そっ、それで? なんて言うつもりだ?
【ツッキー、本当にありがとう】
はっ? ありがとう? 待て待て、ありがとうって……てっきり変な事してないでしょうね! とかそんな事言われるかと思ってたんだけど?
いや、まだ油断するな! こうやって油断させて一気に叩き落す、それが奴ら(ヨーマと恋)の手口だ! ここは冷静に。
【昨日? あぁ、気にしないで】
【でも、寮まで運んでくれたって】
あっ、その辺りは聞いたのね? 頼むから運んだ方法は突っ込まないでくれよ?
【重くなかった? 私?】
言ったそばから突っ込んで来たー!
【全然だよ。むしろ軽い位だったよ】
よし、返信としては無難だよな?
【本当? でも迷惑掛けちゃった】
【全然大丈夫だって】
あれ? なんか妙にしおらしくないか? いつもの元気が無いような……あっ、もしかして2回もあんな姿見られたから、さすがにかなり恥ずかしいんじゃないのか?
【でも、2回もあんな感じで迷惑かけたし】
自ら喋ってきたぁ!
【だからね? お礼したい】
はっ? お礼? なんだ? やっぱり様子が変じゃね? まさかアルコールまだ残ってるとか? だよな? 絶対そうだよな?
【お礼なんて大した事してないし、いいって】
【ツッキーは良くても私が良くないの!】
うおっ、いきなりいつもの感じに戻らないでくれよ!
【だから良いでしょ?】
まぁ、お礼してくれるって言うなら断る理由もないけど……ただし内容によっては断るぞ? 手作りの激辛クッキープレゼントとか!
【そこまで言われたら断れないよ】
【良かった。じゃあさツッキー、今夜空いてる?】
今夜? 別にないもないけど……
【空いてるけど?】
【じゃあ、お礼も兼ねて付き合ってくれない?】
なっ、付き合う!? ちょっと待て付き合うって……いかん冷静に冷静に。
【付き合うって?】
【近くのショッピングモールあるでしょ? お礼に何か欲しいもの買ってあげる!】
あっ、そっちの付き合うね? なんだよビビった俺がバカみたいじゃねえか。それにしても、欲しい物か……マジで?
【欲しいもの?】
【うん、もしなかったらご飯でも良いし】
おぉ、なんか普通にお礼って感じだなぁ。って言っても今の所欲しいものもないし……けど折角の厚意、2回も断るのはさすがに悪いよなぁ。じゃあ無難に、
【じゃあ、ご飯ご馳走になろうかな】
【了解! じゃあ5時に校門前集合でも良い?】
5時校門前ね? 了解了解。
【了解!】
【忘れないでね? じゃあ後で部室で!】
【はいよー】
っと、とりあえず危機回避って所かな。それにしてもお礼なんて別にいいのになぁ。
……あれ? 恋の奴さっき部室でって言ってたけど……あっ、忘れてた! ヨーマの都合で今日部活納めするんだった! あぶねぇ完全に忘れてたよ、サンキュー恋!
「てな感じで、4月からゴシップペーパーを発行してきた訳だけど、采? 何か意見はある?」
「僕は特にはないかな? 部員が増えて去年より格段にクオリティとか注目度とか上がったと思うし、内容も面白い物からシリアスな物まで幅広くできたのは良かったと思う」
おぉ桐生院先輩。名前は言わないけどなんか自分が褒められてるみたいで嬉しいっす!
「その点については同意見ね。恋、シロ? ありがとう」
はっ! ヨーマが……あのヨーマがお礼を言っただと!? こりゃヤバい! 雪が降るぞ!
「どういたしましてっ!」
「何よシロ? 何か言いたそうだけど?」
「ナンデモナイデス」
一瞬で元に戻るなよ!
「それと、これ忘れ物」
そう言って、テーブルの上に置かれた2つの箱。それはどこか見覚えのあるというか、完全に見覚えのある箱だった。
「あっ、この箱って!」
「あんた達の忘れ物よ? どうぞ?」
やっば、恋に集中しっぱなしでプレゼントの事すっかり忘れてたわ。
「すいません先輩。ありがとうございますー」
「全く、手間取らせないでちょうだい? あー2つも持って来たから腕が疲れたわ……ねぇシロ?」
俺ですか!? この部活納めでもイジられるんですか?
「ほらっ、ツッキー! 早く揉んで?」
ちょっと待て恋。元はと言えばお前があんな事になったせいだぞ? 何畳み掛けるように乗っかって来てんだよ!
「えっ? じゃ、じゃあ揉みましょうか?」
「要らないわ、言ってみただけよ? あなた触ったらセクハラになるでしょ?」
「はっ! そんなツッキーそんな事考えてたの?」
だったら言うんじゃないよ! それにんな事考えてもねぇよ。
あんたも勝手に妄想爆発させてんじゃないよ! あぁーやっぱりこの2人が一緒に居ると、滅茶苦茶精神的に疲弊しちゃうよ全く!
「もしかして黙秘かしら? そうね、それもあなたに与えられた立派な権利だもの」
「えっ、やっぱりそうなの?」
……桐生院先輩助けてくださいよー。ん? 目が合って? 笑顔になって……親指立てて……
グーじゃないですよ! いや、なんか喋って下さい! 無言のエール程虚しいものはないんですよ!
誰か2人を止めてくれー。
ふぅ、えらい目にあった。部活納めのくせに俺へのいじりは全然納まってないよ! むしろスタートじゃん新年になってないけどフライングスタートじゃん!
ったく、まぁいいや。覚悟しろよ? 恋。滅茶苦茶食ってやるからな? 財布空にしてやるぞ? 最近食欲旺盛なのもきっと度重なるストレスが原因だ! その原因は勿論貴様らなんだからな! よしっ、今宵俺は、フードファイターになる! 行こう!
珍しく物静かな寮のエントランスを通り抜けて、俺は校門へ向かって歩いていく。
まぁ大体の学生は正月とか実家で過ごすらしいし、当たり前と言えば当たり前か。
実家ねぇ……別に戻りたいとも思わないんだよな。っていうか、まだ引っ掛かってて普通に戻る勇気がないだけなんだけどね。
それに、母さん達からも戻って来いとかそんなの言われた事ないし……俺の勘だけど薄々母さん達も分かってんじゃないかな? 女性恐怖症……その原因。
まぁ、ただの勘だけどね?
なんてくだらない事考えてるうちに、校門に到着っと。見た感じ恋はまだ来てないみたいだし……少し待つか。
少し肌寒い中、俺はなんとなく空を見上げてみた。日が落ちかけて薄暗い空は、なんとなくあの日に似ている気がする。
あの日から、もう1年以上か……思えばあっと言う間だった。まぁ、その分良い意味でも悪い意味でも、この高校生活が濃厚だって事か。
その時だった、空の上から白くて小さい何かがフワフワと落ちてくる。無意識にそれを目で追っていく内に、それはどんどんと近付いてきて……
冷たっ。
優しい冷たさを鼻に感じた瞬間だった。
「ツッキー、お待たせ」
幾度となく聞いた事のある声に、反射的に体を振り向かせた先、俺の後ろで立っているその人は、いつもの様な笑顔を見せて、俺の方を見ている……
日城恋だった。
危ない危ない、ちょっとあの日……の事思い出しちゃってたよ。ナイスタイミング恋。
「遅いよ?」
「えー時間ぴったりだよ?」
なんでだろう。こんな他愛のないやり取りが俺を安心させる。そうだ、あれは過ぎ去った過去で、今の俺には……
「あっ」
「雪だ……」
関係ないんだ。
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