第62話 世の中では草食系男子が流行ってるみたいだけど、俺には到底信じられない

 



 いつもと変わらない朝、いつもと変わらない風景、いつもと変わらないクソイケメン委員長。何もかもがいつもと変わりないはずなのに、いつもと違うような気がしてならない自分がいる。主に体がね。


「おい、蓮。どうした? 寝不足か?」

「バッチリ8時間は寝たっての」


 それは本当だ。11時就寝、7時起床という睡眠の黄金比。それだけに、いつもと違う体の違和感が不思議でたまらない。


「まぁ、無理すんなよ」

「サンキュー」


 なんかこいつ見ててもなぜか若干イライラすんだよなぁ……なんでだ?




 学校に来て、普通に授業を受けて、食堂でお昼を食べる。そして決まった様に部室で昼寝をするいつものパターン。何ら変わりのない日常が俺を包み込む……


「やぁ、恋ちゃん元気?」

「あっ、首藤先輩。元気ですよ?」


 はずだった。


 ん? あいつは……昨日取材受けてた野郎じゃねぇか! なんで部室辺りに居る? 人通りの少ない俺のお昼寝スポットへの道を塞ぐんじゃないよ! 大体、取材は昨日で終わったはずだろ? ここは運動系の部室はないはずだが……


「そっか、それよりさぁ例の話したくて」

「えっ、あれですか?」


 例の話?


「うん。どうかな」

「もちろん大丈夫です!」


 例の話ってなんだ? それにしても、やっぱり奴はどこかクソイケメン委員長に似てるなぁ。しかも恋も楽しそうだし……あっ、またどっか行くぞ? 行くんなら早く行ってくれ? 俺は昼寝をしたいんだ……ってなんで俺が隠れてなきゃいけないんだよ! ったく、滅茶苦茶調子狂うよっ!




「2人ともインタビューの方は大丈夫?」

「あっ、私の方はまだ終わってなくて……」


「あら、珍しいわね。確か2年の首藤君だったかしら?」

「はい、部活忙しいみたいで……小分けに取材してまして」

「なるほどね」


 なるほどね。小分け……それで? 例の話とやらは関係あるのかぃ?


「シロはもう終わったみたいだし、まぁゆっくりやんなさい。むしろシロが簡単すぎたのかしら?」


 新聞部と図書部にこれ以上なに聞けってんだよ! もはや1日ありゃもっと根掘り葉掘り聞けるぞ?


「仕方ないから私がもうちょっと答えてあげましょうか? ちなみに体じ……」

「結構です!」


「なによー」

「あっ、先輩。取材の時間なので行ってきても良いですか?」


 ん? 今日も取材なのか? だったら昼に2人で話してたのは何の話だ?


「ん? えぇいいわよ」

「それじゃあ失礼します。ツッキーもまた明日ね」

「あっあぁ……」


 んー何か気になる。ってなんで俺が気にしなきゃいけねえぇんだよ。あの素振りか? いやいや、恋は元々ああいう感じの性格だし? あの位クラスの男子とだって話してるし? なんら変わりないけど? そうそう、おかしな所は何にもない! だけど、このモヤモヤした感じ……何なんだ?




 ―――数日後―――


 さぁて、今日も日課の昼寝に行きますか。本当にこの棟って日中静かでいいよねぇ。


「ごめん恋ちゃん。待たせちゃったかな?」


 はっ! この声はまさか? しかも恋って……


「あっ、いえいえそんな事ないですよ?」


 やっぱりこの2人じゃねえか! 待てよ? 取材の方は終わって記事も書きあげたじゃないか? という事は……


 カツッ、カツッ


 やべぇ、階段降りてくるじゃねえか! どこか……あっ、そこの空き教室!

 ……ふぅ。ってなんで俺隠れてんだ? なんか勢いで隠れちゃったけど、別に怪しい事してる訳じゃなくね? 


「そうなんですかー?」

「ははっ、そうなんだよ」


 相変わらず楽しそうな会話だな。しかも段々こっちに近付いて来るし……頼むからこっちに曲がって来ないでくれよ?


「それじゃあさ、今度一緒にどう?」

「良いんですか?」


 はっ? なんだそれ? 話の流れ的にこれってデートとかそっち系じゃね? マジかよ?


「恋ちゃんなら大歓迎さ」

「嬉しいです」


 真っすぐ行っちまったけど……何だぁ? あの会話、あのさ出会ってそんなに経ってないだろ? 展開早くね? これがイケメンの力なのか? まさか恋があんなにノリノリだとは……なんか意外だな……。




 ―――また数日後―――


「よっと、じゃあ早瀬さんこのプリント持って行こうか」

「うん、でも月城君の方かなり多くない? 大丈夫?」

「大丈夫、大丈……」


「はははっ」

「ふふふ」


 早瀬さんとプリントを運んでいる最中、目の前を横切って行く恋。その姿に少しからからかおうと思ったのも束の間、そんな俺の考えは一瞬で消えさる。

 1人で歩いてるのにあんな楽しそうに、ふふふなんて言う奴なんて栄人位なもので、恋の横には確かに人が居た。けどそれは同じ3組の友達でも、ヨーマでもない……そこに居たのは……


 首藤!?

 マジか? 前は昼休みだけだったのに、ついに授業間の休み時間でも普通に話するようになったのか? 明らかに目立つであろうそんな行動を平然と……? 

 そのまま颯爽と通り過ぎていく2人を俺は黙って見ているしかなかった。もちろん当の2人には周りの目なんて気にならないらしい。恥じらいとか周りの目を気にする事なく、ためらいなく歩いて行ってしまった。


「あっ、恋ちゃん?」


 早瀬さんの優しい声が、俺を現実へ引き戻してくれる。


「あぁそうみたい」

「あの人……なんか最近恋ちゃんと一緒に居るんだよね……」


「そうなの?」

「うん、恋ちゃんもなんかちょっと行って来るねって、居なくなる事多いし……」


 早瀬さんと居る時でもそうなのか? こりゃ……ますます怪しいというか……


「確か2年生の人だよね? どんな関係なのかなぁ?」


 完全にお互いが気になる存在だって行動じゃねぇか?




 ―――これまた数日後―――


 よっし、じゃあ今日もヨーマにいじめられに……って!


「それじゃあ」

「はい」


 また2人で話か!? ったく部室の近くで何やってんだよ!




 ―――再度数日後―――


「いやぁ、理科の実験って楽しいよなぁ……」

「男のロマンという部分では共感だな」

「だろー? ってあれ日城さんじゃね? さっき授業終わったばっかだよな? なんで中庭に……しかも誰かと話してる」


 誰かと? まさか!


「へっ、へぇー。どれどれ?」


 嫌な予感ほど良く当たる。誰かが言ったその言葉は、俺の期待を悪い意味で裏切らなかった。


 やっぱりか……首藤……

 その見慣れた光景を目にするたびに、不思議と……


 イライラしてくる。


 学校内でのイチャイチャぶりに嫉妬してるのか。知ってる人だからこそそんな姿を見たくないのか。

 見慣れすぎて、もううんざりしているのか自分でも理由は分からないけど……2人を見るたびに、言いようのない不快感が、俺の体にまとわりつく。




 そして、その次の日だった……


 ガラガラ


「すいません、恋ちゃん居ますか?」

「恋ちゃん? あぁ、日城さんですね?」


 奴が教室にまで侵入してきたのは。


「日城さんー、お客さんだよ?」

「んー? あっ、どうしたんですか?」


 さっきの授業内容をノートにまとめている大事な時間に、聞きたくもない奴の声が耳を突き抜ける。

 はっ! この声! 来やがった、ついに教室にまで来やがった! 狙いはもちろん……恋だ!


 なんだ? 教室から出て……? 何を話してる? 集中しろ……周りの音を消して、2人の言葉だけに集中しろ!


 …………


「……放課後屋上に来て欲しいんだ」

「屋上ですか? ……分かりました」


 放課後……屋上!?


 あっ、言い終わったら奴めさっさと居なくなりやがった! 恋は……こっちも何もなかった様に普通な感じだな。放課後か……




「はーい、じゃあ後何もなければホームルーム終わりますよー」


 放課後……屋上……結局気になったまま放課後になるぞ? いやいや、別にいいんじゃないのか? 恋と奴の話だし、俺には関係なくないか? 


 まて、一応同じ学級委員だし、新聞部の同期でもある。それ位気になって当たり前なんじゃないか? 

 だが、ただ屋上に呼ばれただけ。 何も気になるような事は……


 ばかたれ! こんな時期に屋上だぞ? 今日はめっきり寒い訳じゃないけど、さすがに肌寒さは感じるだろ? そして、そんな状況で屋上に行く生徒なんてほぼ居ない。つまりは人目に付かない恰好の場所って事だぞ?


 人目に付かない場所。呼び出し。仲が良い2人。ここまで揃ってたら、考えは1つだろ? ……告白か。


 ……マジか。 でも待てよ? 知り合って1カ月にも満たないのに告白なんか出来るかね? 気持ちを確かめ合い、熟した頃合いにそういう事になる訳じゃないのか? 

 くっそ、恋愛素人(恋愛トラウマ)な俺には想像もつかない。そうだ、いっその事早瀬さんに言うべきか? そうだ、同じ女子としてアドバイスを……


「おーい、蓮どうしたんだ?」


 誰だこんな非常事態に!


「なんだよ、今忙しいんだよ! 恋が屋上に呼び出されたらしくてさ」

「はっ、マジかよ?」


「あぁ、だからどうするべきか早瀬さんにでも話してさー」

「琴かっ! わかった!」

「おぅ、頼んだぞ?」


 ……ん? あ……れ……? 俺……誰かと話してた? 口に出しちゃった? 心の中で呟いてなかった?

 ヤバい! 誰だ? 誰と話してた? やべぇ全然……


「蓮、琴呼んできたぞ!?」

「どうしたの月城君!」


 お前かぁい! でも……ある意味お前で良かったよ。早瀬さん呼ぶ手間省けた!


「まぁ、いいや! 聞いてくれ」

「うん」

「わかった」


「いや、お前はいいよ。栄人」

「えぇ! 真剣な顔で俺に言ってきたのはお前だぞ蓮?」


 あぁ……そうだった。仕方ない、いいか!


「わかった! 実はな……さっき来た2年の首藤、あいつが恋に言ってるの聞いたんだ……放課後屋上来てくれってな」

「本当か?」

「おっ、屋上!?」


「マジだ、確かにあの2人最近妙に話しとかしてる。だよな? 早瀬さん」

「確かに……そうかも」


「最近の様子プラス屋上……考えられるのは?」

「告白か!?」


 鋭いな栄人。


「えぇ! そうなの?」

「恐らくね。だがこんな短期間で告白までするか? いや、あり得ない話ではないが……」

「行こう! 今ならまだ教室に恋ちゃん居るから間に合うよ!」


 うおっ、どした早瀬さん。


「どうした琴?」

「私も首藤さんって人見た事あるけど……なんか嫌な感じがするの」

「かっ、感じ?」


「うん。 女の勘ってやつだよ! だから早く行こう!」

「あっ、ちょっと早瀬さん?」

「琴?」


 早瀬さんが見た事ない位の勢いだぞ! ちょっと待ってくれー!




 ガチャン


 つ、着いた……お前らマジで速すぎ!


「どっ、どこに隠れたらいいのかな?」


 とりあえず誰も居ないな? 考えられるのは入り口後ろ。俺と早瀬さんが話した所だけど……そっちに来る可能性もある。となると……


「おい、蓮。これ上に行けんじゃね?」


 屋上の入り口、その横に付けられた梯子。栄人の掴むその梯子は塔屋の上に登る為のものだった。

 ここの上なら……伏せてたら見つからないんじゃね? てか、考えてる時間はねぇ!


「栄人、上がれ! 早瀬さんは俺の後に!」

「よしきた」

「わっ、わかった!」


 急ぎ早に聞こえる、梯子上がっていく足音。それらがやっと聞こえなくなった瞬間、まるで俺達が登り切るのを待っていたかの様に、運命の音が聞こえてくる。


 ガチャン


 来た!


 扉の音に、俺達にも緊張が走る。2人に目を合わせると、何を伝えたいのか分かったようで……ゆっくりとその場にしゃがみこんだ。


 そして間もない内に、もう1度扉の開く音が聞こえる。


 ガチャン


「ごめんね、こんな所に呼んじゃって」


 この声は首藤……そしてあの話ぶりは……


「いえいえ、それで何のご用ですか? 首藤先輩」


 最初に来たのは恋で間違いないって事だ。さぁ、どうなる?


「いやぁ……あのさ。回りくどいのは苦手だから、素直に言うね?」

「知り合ってまだ少ししか経ってないけどさ。俺……恋ちゃんの事が好きなんだ。だから……俺と付き合ってくれないか?」


 マジか? マジかよ? マジで、首藤の奴……



 告白しやがった!!



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