第61話 モヤモヤ、イライラ
【第3位、1年3組】
パチパチパチ
熱気冷めやらぬ体育館で俺達のクラスが呼ばれた。
「やったね」
「頑張ったよね?」
そんな声が聞こえてくる中、代表の栄人は楯を受け取るとそれを高々と上げて見せる。
いやいや、恥ずかしいから止めてくれ。まぁ、もっとも1年生がこの順位にまで食い込むってのも珍しいらしい。高倉先生からもお褒めのお言葉を戴いたし、
「感動したー!」
三月先生もなぜかテンション上がってるし、てかうるさいよ。
皆もまんざらでもない顔してるし、結果オーライだろ。仮にも3位になれた事はやはり誇ってもいい事なのだろう。が……俺の中に残っているモヤモヤした感情が消えるのはいつなんだろう。
【最後に優勝は……2年5組!】
その瞬間、より一層大きな拍手が沸き起こる。そして優雅に壇上へ上がるその姿は、優雅で綺麗で……そして少し悔しさを思い出させる。
あの顔やっぱ腹立つな……ちくしょう、どうせなら勝ちたかったよ。
俺の渾身の1撃で2セット目を制した俺達、その時俺は最高の気分だった。ヨーマに一矢報いた、それだけでめちゃくちゃ嬉しくて……ドヤ顔であいつの顔を見たんだ。そしたらさ、最初少し驚いた表情だったんだけど、俺と目が合った瞬間に……あの不敵な笑みを浮かべた。
その瞬間身体を突き抜けるザワザワした感覚、そして嫌な予感が沸々と湧いて来て、結果としてその予感は的中したんだ。今までよりもさらに高いスパイクに、速いトスワークと完璧なレシーブ。それは俺達にまざまざと見せつける様だった……地力と経験の違いってやつを。
そして俺達は負けた……結局ヨーマを動揺させたのは1回だけ。試合の終わった後も奴はは涼しい顔して言いやがった。
『なかなか面白かったわ』
それを聞いた時、悟ったね……絶対ヨーマには勝てないって。ただこのモヤモヤした気持ちが無くなるまではしばらく時間が掛かりそうだ。
【それではMVPを発表します。MVPは……2年5組、葉山彩花さんです!】
あぁ、撤回。かなり掛かりそうです。
「というわけで、取材始めまーす」
「何よシロ、ずいぶん適当じゃない」
何MVPに選ばれてんだよ。まぁそれなりの活躍はしてたから当たり前か? しかし、自分で取材考えて自分が取材を受けるって……まさか狙った!? 嫌だねぇこの人は。いいや、ささっとやっちゃおう。
「それじゃあ、まず軽くプロフィールから、名前は知ってるので……身長は?」
「167センチよ」
「じゃあ体じゅ……」
はっ、これはさすがにやばいだろ! 質問票そのまま読み上げちった、チラッ……はぁ? みたいな顔してる! 早急に切り替えろ。
「ゴホン、間違えました次の質問に……」
「あら? 別にいいわよ? よん……」
「結構です!」
危ない危ない! 聞いたら聞いたで、後でどうなるか知ったこっちゃないよ。
「そう?」
「じゃあ、次です。兄弟は?」
「いないわ」
「過去に何か運動部に所属してた事は?」
「ないわね」
マジか? なくてあのトスワークな訳? 恋といい、新聞部の女子ってマジでやべぇ奴らなんじゃないのか?
「じゃ、じゃあ次に好きな季節は?」
「春」
「好きな食べ物は?」
「チョコレート」
チョコ? なんか意外だな……てっきり高級食材が出てくると思ったけど。
「好きなタイプは?」
「イケメン」
「…………はい次です」
「何よその間は」
「好きな科目は?」
「んー、強いて言うなら体育かしら?」
「えっ?」
「えって何よ?」
思わず口から出ちゃった。体育って……確かにバレーは上手かったけど、その風貌から体育の名前が出るとは驚きだな。
「いえ、何でもないです。次の質問です」
「なんか嫌な感じねぇ」
嫌も何も、こっちは早く終わらせたいんだよ!
ふぅ! やぁっと終わった。それで……次はソフトボールのMVPだな。ったく、混合種目でヨーマがMVPだったから1人多くインタビューしなきゃいけないじゃんか。どれどれ……えっ?
紋別さん?
「えーと、じゃあさっそく始めようかな」
「えっと……私なんかで良いの?」
「まぁ、MVP取った訳だしね?」
嘘だろ? ホントに紋別さんがMVP? 林間学習の時から大分クラスには馴染んでると思うけど、この大人しさだぞ? まさか実はソフトボール得意なのか? 俺達のクラスが優勝したってのも驚きだけど、それ以上の衝撃なんだが? でも……変に先輩方じゃなくて良かった。適当に軽く緩く行きますか。
「なんかこう、改めてこんな感じで話すと変によそよししくなるけど……まぁ、楽しく緩く行こうか」
「はっ、はい」
それにしても、紋別さんってどうやってMVPになったんだ? 先に聞いとこうかな?
「それにしても、紋別さん凄い活躍したんじゃない? MVPに選ばれるって事は」
「それが……大した活躍してないんですよ? 私スポーツは苦手なんで、実際試合でもエラーばっかりで……」
んー、見た目と話の内容は一致するなぁ。
「でも、楽しかった。皆笑顔でドンマイドンマイって言ってくれてね? 決勝に進んだ時はめちゃくちゃ嬉しかった」
「そっかぁ……じゃあ決勝で活躍したのかな?」
それしか思いつかないんですけど?
「多分ね。かなりまぐれだったんだけど……」
「聞かせてくれる?」
「うん。決勝でね、7回裏まで0対0の同点だったの……それで2アウトの時私がバッターだったんだ」
ほうほう。
「私それまで全然打ててなかったからさ、諦めてたんだけど……その前に皆に言われたんだ。どうせ打てないなら、目瞑ってバット振っちゃえって」
えっ、あの……まさかそれで?
「ん? 流れ的にまさか?」
「てへ……そのまさか、目瞑ってバット振ったら当たったんだよね。それでまさかのホームラン」
「マジで? 凄いじゃん」
「本当? でもまぐれだしさ、私がMVPってなんか……」
いや、それはMVPだわ。にしても紋別さんもなんか明るくなったなぁ、佐藤さんとよく一緒に居るし。今回は人数の都合上、ソフトバレーに佐藤さん来てもらったから、大丈夫かなって思ってたけど……心配はなかったみたいだな。
「いやいや、凄いよ? もっと聞かせて?」
「うっ、うん」
楽しそうで何よりだ……。
いいなぁ紋別さん、楽しそうで。まぁ俺も楽しいっちゃ楽しい方だとは思うけどさぁ、ヨーマの傍若無人さがなけりゃあ、もっと良いんですけど。
「あっ、すいませんお時間取らせて」
ん? 恋の声か? 一体……おっと!
「全然いいよ、ごめんね待たせちゃったかな?」
ん? 誰だあの爽やかそうな奴は? 髪型坊主にあの練習着……野球部か。なんか栄人と同じ匂いを感じるんですけど? 絶対あいつモテるでしょ? 見ただけで分かるもん……つまり敵だな。
「そんな事ないです。それじゃあ……談話室でどうです」
「いいよ、じゃあ行こうか」
談話室? 待てよ……確か恋は男でMVP取ったやつの取材お願いされてたな? て事は……あいつが、ドッジボールのMVP?
「めっきり寒くなったね、えっと日城さんだっけ? 名前は何て言うの?」
「そうですねぇ。あっ、恋って言います」
「恋ちゃんかぁ。可愛い名前だね」
なんだあいつ……なんか馴れ馴れしくはないか?
「そうですかぁ? ありがとうございます」
恋も! 何ニヤニヤしてんだよ!
「恋ちゃんはさ……」
はぁ? いきなり名前呼び? てめぇリア充か? パリピか? イケメン委員長タイプか?
「そんなぁ……」
恋! お前もなんでそんなデレデレしてんだよ。いつも通り鉄壁で行けよ、初対面は距離感考えろ!
仲良く談笑しながら歩きやがって。後ろから見たらなんかお似合いのカップルみてぇじゃねえか! なんだなんだ? なんかもの凄く……ものすごぉく……
イライラする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます