第7話 アウトロ【Ending】
それから桜とはメールだけになってしまった。
何度も病院にお見舞いに行きたいとメールをしたが、返事は『ダメ!』としか帰ってこなかった。
やがてメールの文字が不自然になってくる、おそらく状態はよく無いのだろう。
友里香さんにメールをして状況を聞いたが、口止めされてるようで、何も教えてくれない。やがてメールも返信されなくなってしまった。
「どうしてなんだ桜!そばで見守りたいのに!」俺は部屋で机を叩いた。
ただ色のない日々が過ぎていく。
突然桜からメールが来た『いたい』俺は愕然とした。
桜が助けを求めている!そばに行きたい。
友里香さんに電話する。
「俺どうしても桜に会いたいんです!お願いです、病院を教えてください、お願いします、お願いです、お願いだ…………」涙で声が詰まる。
「そう………横浜みなと病院の7階よ」
俺はバイクで必死に夜の高速道路を走った。
病室に到着すると、多くの無機質な機械に繋がれた桜がいる。
見守っている両親らしき人に挨拶をした。
その横には友里香さんもいる。
「『いたい』とメールが来たんです……」
「それは……多分…あいたい……って」友里香さんは顔を両手で塞いで肩を震わせた。
両親に勧められて寝ている桜の横に座る。
桜は一瞬目を開けた、そしてほんの少し口角が動いた。
小指がほんの僅か動いた気がした。俺に『約束を忘れないでね』と言ったように思えた。やがてゆっくりと目を閉じる。俺は我慢できず病院の屋上で思いきり泣いた。
沢山の花が飾られた会場は悲しみに満ちていた。
優しく微笑む女王様のような桜子の写真を眺めながら、手を合わせる。
俺は無言で別れを告げる。とても安らかな笑顔だった。
桜子さんの母親から話しかけられる。
「一瀬さん、桜子からこれを渡すようにと……」
俺は少し震えながら手紙を受け取った。
「一瀬さん、ありがとうございました、桜子は幸せだったと言ってました」そう言うとハンカチで顔を押さえた。
「僕の方こそありがとうございました」そう言って深く頭を下げる。
会場を出ようとすると、友里香さんが話しかけてきた。
「元気だしなよ、桜は最後まで友希くんの事を心配してたよ」
「そうなんですか?」
「だって、あの日、医者に止められても必死に友希くんに会いに行ったんだよ」
声を詰まらせる。
「えっ……」
「だから……桜の分まで幸せになる義務があるんだよ」
「はい……」
友里香さんは拳を突き出して俺を見た。
その仕草はイベントの仕事で上手く行ったときに、桜さんと拳をトンと合わせる挨拶のようなものだった。
「桜は本当は手を握りたかったらしいけど、友希くんが恥ずかしそうだからって遠慮してたみたいだぞ」
俺は友里香さん拳にトンと自分の拳を当てた。
「…………」何も言葉が出て来ない、枯れたはずの涙がまた溢れてきた。
部屋に帰って手紙を開ける。
『友希さん、貴方に会えて私は幸せでした、愛することの素晴らしさを知ることができました、心から感謝しています。そして貴方が幸せになる事を心から願っています。心配だから時々天国から見に来ます、もし幸せになっていなかったら私は悲しくなってしまいます。だから、絶対幸せになってください、大好きな友希さんへ、愛してくれてありがとう』
そして手紙と一緒に一枚の五線紙が入っていた、『ラプソディは永遠に』とタイトルが付いた曲はソ・ラ・ミ・ミから始まるメロディが記されている。
しかしAメロだけしか書かれていなかった。
そして「ごめんなさい、ここまでしかできませんでした」弱々しい字でメモが書かれていた。入院したベッドの上で書かれたものだと思った。
俺はベッドに顔を埋めて全ての力を振り絞って泣いた、ただ泣いた。
大学を卒業した俺は、今も小宮さんの会社と契約して働いている。
そして変わらずこの部屋に住んでいる。
いつか桜が天国から見に来るような気がして、この部屋から引っ越す事ができない。いや、この部屋には、まだ桜の温もりが残っているような気がする。
あれから俺の魂は桜を探して彷徨っている………まだ戻って来ない………
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最後まで読んでいただき感謝しています。
この物語は「隠れ家の不良美少女」に出てくる友希くんの大学時代です。
大学を卒業してもまだ桜子さんを忘れられず、思いを引きずったまま不器用に生きている友希くんがいます。是非応援していただけると嬉しいです。
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