私をメットライフドームに連れて行って

橘塞人

西田さんサイド

 いつからライオンズに惹かれ、愛するようになったのか。

 自分のことなのに、私はその答を知らない。幼い頃、父に野球観戦へ連れられて行っていたので、それがキッカケだったのか。それとも、元々そういう性だったのか。正解はない。

 ただ、コロナ禍も何のその、今日も私は一人で此処にいる。西武球場前駅で降り、ファンクラブカウンターでピンバッヂを貰う。グッズをチェックし、ガチャを何回か回し、事前にチェックしていたグルメを買って、それから席に向かうのがいつもの流れ、ルーチンだ。

 まずはファンクラブカウンターで貰ったピンバッヂを開封。出たのは背番号5の外崎選手。今日は頼むよと願いを込めながら、ポーチにしまう。さらにガチャガチャでグループAとB、どちらも1回ずつ回す。出たのは呉選手と上間投手。今までと被らないのはラッキー。彼等の活躍も願いつつ、またポーチにしまう。

 チームストアに向かい、そこでまず新商品をチェックする。それからユニフォームを見て、タオルも見ておく。あの選手のタオルも出たんだ。そう思って、手を伸ばしたその時だった。


「「あ」」


 女性と手が重なった。ふんわりとした髪で、ふんわりとした雰囲気の同年代っぽい女性だ。尖った雰囲気で悪役顔の私とは180度違う。この人ならばきっと、私のように職場で男扱いされたりはしないのだろう。羨ましい限りだ。

 まあ、それはそれとして。


「「ああ、すみません!」」


 私とその女性はすぐさま手を離し、声を重ねながら頭を下げ……

 ゴチン! その頭同士をぶつけた。

 いたたたた。声にならない痛みを感じ、お互い蹲ったが、二人共怪我はなく、その痛みもすぐに治まった。そして、互いに顔を見合わせて笑い合った。その時はそれだけだった。

 それだけだったのだが。


「「あ」」


 私達は再度そんな声を同時に上げた。L-KITCHENで若獅子カレーを買おうと思って並んでいたら、すぐ近くにいたのだ。ふんわりお嬢さんが。

 どうも。そんなことをお互いに言って、お互いに会釈をして、その場では何も会話らしきものはせずに別れた。

 やはり、それだけのことだった。それだけのことだったのだが。


「「あ」」


 二度あることは三度あると言うのだろう。私達はまたまた出会い、顔を合わせ、そして同時にそんな声を上げていた。

 若獅子カレーを持って自分の席に行った私、同じく若獅子カレーを持って自分の席に行ったであろう彼女、その席は隣同士だったのだ。


「ふふふふ」

「はははは」


 もう、笑うしかなかった。私達は笑った。楽しそうに、愉快そうに。

 事実、楽しく愉快なことだった。


「こういうことってあるんですねぇ」

「偶然って、時に凄いですね」


 こうなったらもう、自己紹介だ。まずは私から。


「西田です」

「武田です」


 笑い合って、私達は色々な話を試合が始まるまでした。メットライフには頻繁に来ているのか、お気に入りの選手は誰か、ライオンズがこれから一つでも順位を上げる為にはどうすべきかなど、短い時間だったけれどとても濃くて楽しい時間だった。

 嗚呼、こういう話を熱心にし合える友達が周囲にいなかったからか。この出会いは非常に貴重だ。

 若獅子カレーを食べ、お茶で水分補給しながらそんなことに気付いたりした。そして、お互いにそう思えたのか、その次の瞬間にはLINEの交換もしていた。

 それから少し経つと、スタメンの発表の頃合いとなった。泥に塗れて……と歌えはしない状況だけど、拍手・手拍子で選手の後押しをする。


「今日は勝てますかね?」

「勝つよ。勝たせるよ!」


 私は武田さんの問いに即答した。信じれば力となる。その力が応援で選手に流れ、宿ってくれれば、敵などいやしない。試合前だけど、もう私の頭の中には『地平を駈ける獅子を見た』が流れているくらいだ。

 それが応援というものだろう?


「そうですね。ああ、そうね♪」


 私達は同時に笑い、そして声も合わせる。


「「レッツ・ゴー、ライオンズ!」」


 それからまもなくして、試合が始まった。その内容に一喜一憂して、武田さんと話をしたりして、非常に濃密で楽しい時間を過ごした。こんな時間がずっと続けばいいなと願ってしまう程に。

 武田さんはそんな私に、試合が終わった直後こう言ってくれた。


「西田さん、ありがとう。今日はとっても楽しかったわ。またこうやって、何度でも何度でも一緒に遊びましょう。それこそ、ずっとってくらいに」

「ええ、そうね」


 私は笑う。嬉しくて笑う。武田さんも笑う。嬉しそうに笑う。

 嗚呼、ありがとうライオンズ。今日、私には友達ができました。無二の友達ができました。

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