第1章 魔剣の契約

断章 選択の刻

 人生は選択の繰り返しだ。


 二手に分かれた道のどちらに進むか、朝食は何を食べるか、今日は何をして過ごそうか。

 そんな当たり前の考え、当たり前の行動は全て数多の選択の上に成り立っている。


 今後の人生すら捻じ曲げてしまう、大きな選択を迫られる瞬間もある。

 誰を救うのか、何を見捨てるのか。

 罪を背負うのも、現実から目を逸らすのも、それもまた一つの選択。






──そしてその刻は、いつも何の前触れもなく訪れる。




「手はあるよ。まぁ、ボクとしてはキミに力を貸したところで得なんて一つも無いんだけど」


 無機質な声は淡々とそう告げる。

 そこには憐れみの感情など微塵も無い。

 目の前の出来事を「関係無いもの」として捉え、“それ”はあくまで傍観者としての立ち位置を貫こうとする。


「頼む、俺一人じゃどうにもならないんだ!」


 俺は情けなく懇願する。

 実際、自分には何も出来ないとわかっていたからだ。

 目の前の光景を見て痛感した。

 俺は今まで剣の振り方も、身体の動かし方さえも、まともに理解していなかったのだと。




 折れた剣を携えた少女は軽やかに跳躍する。

 木々の間をすり抜け、着地しては縦横無尽に大地を駆ける。

 人の身でありながら、彼女はこの複雑な地形にいち早く適応していた。


 襲い来るのは数十にも及ぶ樹木の腕。

 何度切り落とされようとも、それらは執念深く彼女を追いかけ続ける。


 少女はそれを迎撃しては、また場所を変え、長さが半分程になってしまった剣を構える。




 目では追えても真似など出来るはずもない。

 歴戦の猛者、あるいは天賦の才を持った者にしか許されない動きだった。


 だからこそわかった。今のままでは彼女を助けるどころか、自分が足手まといにしかならないことが。


「そうだね──ならこうしよう。キミの寿命の半分、それをボクに差し出してくれるなら考えてあげてもいい」


 寿命の半分。

 この先続いていくであろう未来、歩んでいくであろう時間。

 こいつはその五割を差し出せと言っているのだ。


 頭が痛い。手が震える。

 額から滲み出た汗が頬を伝う。

 突きつけられた代償の重さに背筋が凍りついた。




「さぁ選びなよ。キミは何を捨てて、何を取るんだい?」

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