第2話 埼玉県人が飲めない埼玉県にある水
「ええっ、そうなの?」
そう言う私に、ゴロちゃんは表情をさらに険しくした。
「知ってるくせに。ここの水を飲んでるくせに、白々しい。今この瞬間、未萌は全所沢市民を敵に回したからね」
「いやいやいやいや、知らなかったよ。ホントに」
手を振るゼスチャーで潔白をアピールしながら、私は思い返していた。
ゴロちゃんが言ってたこと。埼玉県人は飲めない、そして私は飲んでいる――と。
そのことが示すのはただ一つ。
「てことは、東京都民用?」
「そうよ。それってひどいよね」
言われてみると変だ。
埼玉県にある湖の水を埼玉県人が飲めないなんて。
「まあ、この水って元々は東京都にあった多摩川の水だし。ダムを作ったのも東京都だし。埼玉県は土地を貸してるだけだし。でも、ちょっとくらい地元に分けてくれてもいいのに……」
脱力したように湖畔の手すりに寄りかかるゴロちゃん。
彼女の言うことももっともだ。
こんなに水があるんだから、仲良く分け合って皆が幸せになればいいと思う。
でもなんで、ゴロちゃんはこの湖の水に固執してるんだろう?
「そんなに、この水は美味しいの?」
「美味しいはずよ。硬度が違うもの」
コードが違う? それって何?
水にコードが付けられてるの? ブランド名みたいに?
――『狭山湖の水、コードMIZ004』
そんなバーコードのような映像が、私の脳裏に浮かんできた。
「じゃあ、逆に未萌に訊くけど、これの硬度って分かる?」
そう言いながら、ゴロちゃんは右手に持ったボルヴィックを私に向かって突き出したんだ。
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