狭山湖の水がのみたい!?
つとむュー
第1話 狭山湖の水が飲みたい!
「うわぁ!」
狭山湖畔に立った私、
夕焼け空を映す、どこまでも広がる水面。
その向こう側にちょこんと存在を主張する富士山のシルエット。
ここはいつ来ても素晴らしい。
その証拠に湖畔に陣取る五、六人のカメラマンが、日没の瞬間を捉えようと三脚の前で息をひそめていた。
その時だ。
突然、湖畔に可愛らしい女性の声が響いたのは。
「狭山湖の水が、の・み・たーい!」
誰なの? この神秘的な一瞬をぶち壊すのは。
願いを叶える女神様がざばっと出てくるわけじゃあるまいし。
怪訝な表情で声のする方を向くと、四阿広場に一人の少女が立っていた。
その右手には、一本のペットボトルが――
「まさか……」
見覚えのあるシルエット。
後ろからそっと近づくと、やはり彼女が着ているのは自分と同じ高校の制服だった。
それなら間違いない。
「もしかして、ゴロちゃん?」
ビクッとしながら振り向いたのは
苗字と名前を繋げて、ゴロちゃんと呼ばれている。
いつもボルヴィックのペットボトルを持っているから、ボルヴィックさんと呼ぶ男子もいた。
「えっ、未萌? なんでここに?」
「だってここ、私の通学路だし」
私が通う高校は、所沢市の西部にあった。
が、私が住むのは東村山市。
いつもは所沢経由の電車に乗って帰るんだけど、天気の良い日は狭山湖畔を散歩して西武球場前駅から電車に乗ることにしている。
特に今日みたいな金曜日は、解放感を象徴するような景色を楽しみにしていた。
「そうだったわね、東京都民」
「そう言うゴロちゃんは所沢だっけ?」
「そうよ、だからこうして叫んでるの。狭山湖の水が飲みたいって」
何を言ってるの?
狭山湖は所沢市にある。ならば市民は毎日飲んでるんだよね?
もしかして、ここは飲料水用のダムじゃないとか?
縦割り行政が盛んな日本なら、そんなアホなことが往々にして起こり得る。
「この水ってもしかして、農業用……とか?」
「違うわ。立派な飲料用よ」
「だったら……」
するとゴロちゃんは私のことを軽く睨み、恨み節を打ち明けたんだ。
私が知らなかった驚きの事実と共に。
「埼玉県人にはね、ここの水は飲ませてくれないの。埼玉県にあるのにね」
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