第15話 天空の章(コーネリア改編ルート)
★クラウスルート★
生徒会の影響が学園全体に及び、それの問題を一手に引き受けるようになってしばらく。
組織自体の存在が周知されてきたため上がってくる問題はさらに増えつつあった。
それと同時に組織の規模も大きくなり、各委員会を持つなど今ではかなりの人員を抱えるようになっていた。
だが、組織が大きくなるにつれて違う問題も発生してきた。
各派閥の人員をバランスよく配置して欲しいという声が連名で届いたのだ。
それをはねのけることはできる。だが、これは今までのような自分達でやれという風に切り捨てていい問題とは違い少々根深い問題だった。
生徒会の人事は基本的に元々のメンバーが推薦する形で成り立ってきた。そして、関わる貴族が多い関係上四大公爵家の者が名を上げることが多かった。
だが、それぞれ性格が違う。
きめ細やかに部下を見て詳細に能力を把握しているアレン。
適当ながらもある程度優秀な人を把握している私。
トップダウン型でまとまりはあるのだが、ついて来れる奴だけついて来いというタイプであまり個人を把握しているわけでは無いフレイ
まとまりもなくまるで興味のないウィリアム
それぞれのトップの性格により、同じ能力のある人でも推薦される可能性に大きく偏りが出てしまっていたのだ。
確かに公平性という観点からは問題だ。だが、派閥毎にポジションを置く形でもまた同様の問題が発生してしまう。
私達では解決できないというか私達自体の問題であるため、王子も含めて話し合った結果、唯一客観的な立ち位置にいる王子がこの問題について結論を出すことになった。
今、王子と私は皆が帰った後の生徒会室でそれについて話し合っていた。
「この問題は、以前君が言っていた全員が納得する答えのない問題の代表格だな。そして、それぞれに確かな理があるために余計にややこしい」
王子は以前のように出した答えに負担を感じることは減った。だが、この問題は特に大きく、かつ複雑な問題であるため今回ばかりは少し悩んでいる様子だった。
「はい。正直、私達で解決するのが筋なんですが、今回は私達が意見を出すと逆に公平感が失われてしまうので。本当に申し訳ありません。どうしても殿下に頼らざるを得ず」
自分たちの関係する問題である以上、本来は処理したいが、逆に手を出すことが不満を高めかねない問題であったためもどかしい。申し訳ない気持ちで謝罪の言葉を伝える。
だが、その顔を見た王子は穏やかに微笑んでいる。
「いや、気にするな。これも王の責務だ。それに、君が私を頼りにしてくれて私は嬉しいよ。
さて、どうするか。全ての生徒に見いだされる可能性を与えるため、枠を配分するのもありだが、それはそれで派閥主義を生みかねない」
王子は考えを巡らしているようだ。完璧な答えは出ない。ある程度の妥協点は必要だ。しかし、その中でも最適な解を見つけられるよう、いつものように様々な方策を考え、それにより発生しうる事象をイメージしているのだろう。
しばらく待っていると王子は考えがまとまったようでこちらを見た。
「そうだな。案を思いついたから聞いてもらえるか?」
「はい。どうぞ」
王子は口を開くと説明を始めた。
「まず、今の生徒会の役職は任期が明確になっていない。このため、テストの結果と同じく三月制を一旦導入する。今後の必要に応じてこれは変えていくつもりだ。
そして、新たに明確な評価制度を私達で詰めたうえで人事委員会を設置する。そこだけは、派閥の定数を設け、各派閥が偏って判断できないようにする。意見が割れても上位組織である我々に上げてくれればいいしな。これが、私の考えた案だが、君はどう思う?」
確かに、これなら派閥制の利点をできる限り活かしつつ最小限の席数で対応できる。
いいかもしれない。
「いいですね。この案を一度試してみましょうか。では、いつも通り各公爵家から周知するよう手配します」
とりあえず、トライ&エラーの精神でいくのが今の生徒会の方針なので、早速周知するため部屋を出ようとする。人事制度は前世の知識を元に考えれば同時並行で何とかなるだろうし。
「ああ。……いや、待ってくれ。私からその前に話したいことがある。周知する前に、一度生徒を全て集めてくれないか?」
なんだろう。何か思うところがあるのだろうか。だが、王子がそういうのなら別にかまわない。その方向で調整しようと部屋を出た。
全校生徒がホールに集められ、王子が壇上に立つ。
いつもは風の魔道具で声が拡散されるが、今日はそれは使わないらしい。
王子は自らの魔法を行使すると口を開いた。
空間が魔力の干渉を受け、声が直接頭に響いてくるような感覚になる。
『皆、聞いて欲しい。生徒会ができてある程度の時間が経った。そして、多数の問題に対処する中で一定数の不満が出ていることは当然把握している』
『全員が納得する答えが出ない問題も多い。それに皆が自分で考える必要のあるものは容赦なく切り捨てていくつもりだ』
『だが、勘違いしないで欲しい。それは、皆の意見を聞くつもりがないわけではない。我々で解決すべき問題は適切に対処していくつもりだ。それこそ私の全身全霊をかけて』
『だから、私を信じて欲しい。私は、皆を導けるように努力し続ける』
『そして、同時に私もまた皆を信じる。学園をよりよくしたいという思いは一致しているはずだと思うから』
『綺麗事に聞こえる者もいるだろう。しかし、お互いに支え合いながら未来を作り上げよう。期待しているぞ』
その言葉を最後に王子が壇上を降りていく。もう魔法を使うまでも無い。
生徒達の想いは、地を揺るがすほどの大きな声になって王子に返されていたのだから。
私は歩く王子に近づくと声をかけた。
「お疲れさまでした、殿下。素晴らしい演説でした。恐らくこれで生徒全体で協力し合っていけるでしょう」
先ほどの会場から離れても未だ歓声が鳴り響いている。どれだけの影響を与えたかが容易に分かるようだ。
そのまま二人で無言で歩いていると、彼は生徒会室への道から外れる。
不思議に思いついていくと、外が見える庭園に出た。
彼は、空を見上げると口を開く。
「私は、これまで一人で全てを為してきた。自慢では無いが、それで困ることも無かったんだ。だが、学園に来て、生徒会に来てから気づいたんだ。多くの人がいる、多くの意見があるという当然のことに。そして、私はそれを理解し対処しようと思った」
「しかし、それは逆に一人で抱えるには大きくなり過ぎた。これまでと違う様に私は初めて悩んだよ」
「だが、君は言ってくれた。そんなに悩まなくていい、一緒に抱えてくれると。その言葉は、私にとってとても嬉しいものだったんだ。そして、また当然のことに気づいた。誰かに頼ればいい、協力し合えばいいということに」
王子は優秀過ぎたのだろう。人が当然のように経験した挫折を知らなかった。だから、知っているはずのことを知らない。それに、頼り方を知らないから自分でも気づかないうちに全身傷だらけになる。心すらも擦れきれてしまいそうなほどに。
だから、私はこの人を支えてあげようと思うのだ。傷つかないように守るのではなく、傷つきすぎないように。
「私は全てを見るよ。全てを受け入れるわけではなく、全てを拒絶するわけでもなく、一度しっかり見る。
昔は他人の事があまり好きでは無かった。いや、むしろ嫌いだったのかもしれない」
クラウスはこちらを澄んだ眼差しで見つめる。
そして、不意に近づくと触れるだけの口づけをした。
「私は人を信じよう。そして、その心にも触れてみようと思う。だから、また誤った道に進まないように私を見ていて欲しいんだ。他ならぬ君に」
突然の出来事に唖然とした私は、去っていく彼の背を見ながら、思わず自分の唇に手を触れていた。
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