第6話 空の章
何故かフレイ、ウィリアム、アレンの三人のルートのセリフを聞かされた夜。
『五色のペンタグラム』にはいわゆるハーレムルートというのは無い。
私はこのゲームしか知らないのでよく知らないのだが、普通はあるのにと友達が怒っていたのだけは知っている。
クラウス王子以外の場合は各ルートに入った合図としてそれぞれのセリフが聞ける。
そして、二日ある生誕祭のうち、二日目に開かれるパーティにパートナーとして参加することを請われるのだ。
生誕祭後は、それぞれの本ルートのイベントがそれぞれ展開されていく。
ただ、クラウス王子のルートの場合はコーネリアがパートナーとして設定されている。
そして、最初のダンスを踊った後、次のダンスで誘われるのだ。
生誕祭後に、クラウス王子の本ルートのイベントが展開されていくのは他のルートと変わらない。
その延長線上に私の見たい婚約拒否イベントがあるのだから。
最初は予想外の出来事に頭がパンクしていた私であったが、逆に三人のルート開始のセリフを聞いたことのメリットを考えることにした。
そして、特に問題は無いことに気づいたのだ。
まず、これでクラウス王子のルートにアリアちゃんが入るための不確定要素がほぼ消えた。
それに、私の立場を考えると、クラウス王子が婚約拒否をするまで他の三人がアタックしてくることはほぼ無いだろう。
クラウス王子は選ぶ側だが、私の家は選ばれる側、既に打診がされている状態で間に入ろうとはさすがに彼らもしないだろう。まだ、好きとかそういった次元ではないし。
よって面倒くさいことは考えずにアリアちゃんの恋路を応援することができる。
どっちにしろ婚約拒否されたら、三人の中の誰かと婚約することになるのだし、それまでは自由な身でいさせてもらおう。
メリットがかなり大きいことに気づいて私のテンションは上がってきた。
そして、王子ルートの直近イベントとしては生誕祭一日目が孤児院イベント、二日目がパーティイベントと二つもある。
どちらも楽しいイベントなので堪能させてもらおう。
王子ルートでは、テストで賢さを、孤児院で優しさを、そしてパーティの後に発生する悪意イベントで弱さと強さを、と順番にキーとなるものを拾っていくことになっている。
ここまでの悪意イベントを潰してはしまったものの今後の悪意イベントは学院外部で発生するものだし大勢に影響は無い。
よし!デメリットはあまりない上、なんか悩んでるのも馬鹿らしくなってきたし、気にせずに行こう。
◆
翌日。考え事の解決した私は、元気に学院へ行った。
そして、上位貴族の教室に着くと例の三人と目が合うが特に何かしてくるわけでは無いらしい。
フレイは仏頂面、ウィリアムは不敵な笑み、アレンは穏やかな笑顔、いつもとほとんど変わらない。
私を悩ませておいてと全員一発ずつぶん殴りたくはなるが、まあ各ルートの選択肢を消してくれたことに免じて我慢しておいてあげよう。
決められた席に着くと、クラウス王子がこちらに近づいてきた。
「今日、生徒会の後でいい。少し時間を貰えるか?」
「わかりました」
なんだろう。昨日のことかな。
その後は何事も無く授業と生徒会を終えると、私は王子に連れられ、王家に用意された専用の寮へと案内されていた。
そして、応接間に腰かけ、紅茶が出されると彼は使用人を全て下がらせる。
「すまないな。時間を取ってもらって」
「いえ。大丈夫ですが、どういったご用件で?」
「ああ。昨日はかなり不調だったように見えたからな。もう大丈夫なのか?」
やはり、それだったか。まあ、既に問題は解決しているので問題ない。
「はい。心配をおかけして申し訳ありません。もう大丈夫です」
「そうか。それならよかった」
少し沈黙になる。まだ何かあるのだろうか。
「これまで君の強い部分しか目にしていなかった。だから、昨日の魂の抜け落ちたような姿を見て強い衝撃を受けたよ。そして、同時に心配した」
「心配していただいてありがとうございます。でも、本当に問題は解決したので大丈夫ですよ」
「その問題とやらを聞かせてくれたりはするのかな」
うーん。正直、言葉にするのは難しいし、直球で伝えるわけにもいかない。どうしたもんか。
そう悩んでいると王子は深く追求する気は無かったらしい。
「いや、言えないならいいんだ。聞いて悪かったな」
「いえ。少し複雑な事情で伝えるのが難しく。申し訳ありません」
なんて伝えればいいかわからないし。無理に聞かないというなら助かる。
「だが、これからは私も君をもっと気にかけることにするよ。君にも弱い部分があるなんて当然のことだったのに、今まで私はそこを全く考慮していなかったんだ。
君の仕事を全て担ってみて少し思うところもあったしね」
いや、あんな変な事そうそう無いしもう心配をかけることはあまり無いとは思う。
だが、生徒会の仕事で何か厄介なことがあったのだろうか。
「生徒会の仕事で何か問題でも?」
「いや、具体的な問題というわけでは無い。いや、いい機会か。君に聞いてみたいことがある。
生徒会に集まる問題は人の心に関連するものがたくさん寄せられる。
それの多くは大したことの無い問題だ。だが、その中には解決できない課題や、闇を含むものもある。それに対して、君はどう思ってるのかと思ってね」
解決できない問題だと恋愛とか嫉妬とかそういった類のものかな。
それに、中には誰かを陥れようとするものがあることもある。事実無根の罪を被せようとしたりなどは実際にあった。
「そうですね。まあ、中には解決できない問題もあるでしょう。それに、後ろ暗い感情を抱えたものも。でも、そんなものは適当に処理しておけばいいんです。自分で頑張らせればいい問題もたくさんありますし」
そんなものは悩むだけ無駄だ。どこまでいっても私達が対応できないものなんてたくさんある。
「それは、無責任とは思わないのか?個人で解決できないことを解決するための組織だろう?」
彼を基準にすれば、そりゃ全てが丸く収まるだろう。だが、どうしようもない人間なんかたくさんいるのだし、それは無理だ。
「私達は神様じゃありません。全員が納得する答えなんて出せませんよ。世の中には綺麗な人ばかりいるわけじゃありません。いえ、どうしようもない人間のが多いのかも。でもそれが人間という生き物の性です。
だから、悩むだけ無駄ですよ。それに生徒会は優秀な人も多い。そこで考えて答えが出ないものなら他の人が考えても一緒ですよ。できないものはできないんです」
正直、問題の数は膨大だ。それを解決するメリットが勝るなら別だが、そうでないならどんどん片付けていかなきゃ回らない。
「…………綺麗な人ばかりじゃないのが人間の性か。そうだな、そうかもしれない。
君は強いな。私はそうゆう考えには至れなかった。少し問題を複雑に考えていたのかもしれない」
いや、王になることを考えている人と、ゲームのシーンを見たい人を同列に考えて貰っては困る。この人はその責務を考慮して考えてきたんだから。
「いえ。貴方は王になる者として考えてきた結果です。でも、誰にでもいい顔しなくてもいいと思いますよ。俺はこうする、嫌ならお前がやってみろくらいの心持でいきましょう。
殿下は優秀です。迷わずやっていけばいいんです。もし、万が一ですが、変な方向に行きそうなことがあれば私が修正しますので」
そう言い切ると王子はキョトンとした顔をした後、声を出して笑い出した。
穏やかな笑顔がデフォルトの王子にしては珍しい。何かツボに入る部分があったみたいだ。
笑い声はしばらく続き、収まると再び王子は話し出した。
「それは心強いな。期待しているよ」
いや、王子ができないなら私にできるわけないんだけどね。とは思うもののとりあえず臣下としてそれは伝えておくべきかなと思い伝えた。
「少し気が楽になった。すまんな、時間をとらせて」
「いえ、こちらも代わりに仕事をして頂いてありがとうございました」
戻ってからの書類の状態を見ても、殿下がその力を遺憾なく発揮していたのは明白だ。
本当に優秀なんだよなこの人。
「いや、困ったことがあったらいつでもいってくれ。力になろう」
「ありがとうございます。ではこれで失礼します」
応接間を出る。少し伸びをすると私は自分の部屋に向かった。
生誕祭まであと一か月ほど、とりあえずそれまで頑張ろう。
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