バイオリンとキリスト教

澪凪

性欲の塊

「最初で最後の相手」


そんな夢物語を語っていいのは、ジャニーズやアイドルだけである。


私は高校入学1か月以内で、彼氏ができ、キスからその先の全てを終わらせた。


男女比率が9:1の環境で、何も知らない女子が女に飢えた男しかいないところに放り込まれたら結果はすぐにわかる。


飢えた男にもてはやされ、勘違いし、すぐに彼女になる女の出来上がりだ。


同学年の男子だけではなく、1個上から4個上まで選び放題の世界なのである。


しかも私には特典がついていた。


「俺より、馬鹿だから俺が守ってやらなきゃ」


という特典である。狙ってついたものではない。本当に馬鹿で、いつもランクは底辺だったのだから。


私は、同じクラスのイケメンバスケ男子に見向きもせず、テニスサークルの2個上の先輩と付き合った。


今思えば、この選択が今後の貞操観念を決めたのだろうと思う。


イケメンバスケ男子は、私に片思いしてくれていたらしい。

女友達や男友達、クラスの全員がイケメン君と私は付き合うものだと思い、イケメン君は私に常にアプローチをしていたらしい。


私は、自分に対する好意に疎かったため、気づけなかった。


2人で図書館で勉強したこと

2人で学食で打合せして、お菓子を食べたこと

朝、寮食を食べに行くとき、挨拶をしていたこと

夜、門限より前に共有スペースで話したこと

色んな2人での出来事があった。


それに気づかない私は、勉強だけではなく、恋愛についても馬鹿だった。


イケメン君は、私に幸せになれよと言っていつも通りの友達に戻ってくれた。


彼氏は、3年で寮の仕切り役だった。イケメン君の班担当で、かなり気まずいことになっていたらしい。


そんな騒動も落ち着いたころ、私は彼氏の実家に呼ばれた。

ご両親や兄弟がいない日に、2人きりで。


実家は綺麗で煙突付きの高級住宅街

中には暖炉や小さな教会のようなところ


「ねえ、なぎさ。俺は家族でクリスチャンなんだ。だから、なぎさもクリスチャンに改宗してくれないか?」


彼の部屋で告げられた衝撃の事実に私は驚きを隠せなかった。


「言ってることが分からない。彼氏、先輩としてでも言っていいことと悪いことがあるでしょ?」


そう返すと、彼は彼なりの理由を述べた。


・なぎさ(私)の処女やその他をもらった

・責任を取りたい

・結婚するしかない

・俺(彼)の家はクリスチャンだから改宗してもらわないと!


2ちゃんねるのスレ民もびっくりの飛躍した俺理論で、私は混乱した。

当時私は高校1年、まだ16歳で立派な子どもである。


「結婚どうこうは、今後のお付き合いに関わるから何も言わないけれど、私は宗教とか関わりたくない。」


「宗教っていう考えじゃない。キリスト教の人がしていることを普通の人より少し厳しめにやるだけだから。」


何を言っても今の彼の頭の中は、結婚と改宗だけだった。

そこに加わる後だしマザコンに、私は開いた口がふさがらなかった。


「なぎさのご両親について、なぎさから聞いたことを母に伝えたら

 「そんなヤンキーみたいなお父さんのいる女の子なんて大丈夫~?お母さん心配だわ…」って言われたんだよね。だから、もしかしたらなぎさと別れるかもしれない。」


人を見た目で判断するタイプの家庭か~、ママの意見が私の意見より重要なのね…と頭を抱えた。

私が髪の毛を茶髪にしたり、ミニスカートやオフショルを着ることなどに執着し、Twitterでいろんな人と関わることを拒否され、監視され、パスワードまで共有されていた。また、喧嘩や彼の気に入らないことをすると、セクシー女優のアカウントを勝手にフォローされたり、リツイートされたり、私が普段言わないような下ネタをつぶやいていた。(不正アクセス禁止法に触れます、絶対にやらないでください。)

関わってはいけない男のサインはたくさん出ていたのに、私の感覚はDV被害者そのままで、それでも彼に抵抗し、彼が変わることを望んでいた。


彼は、私の交友関係にまで口を出し、SNSの全てを監視していた。

「あの男とは近づくな」

「あのアカウントはやばいから関わるな」

「あの女はビッチだから気を付けて」

など、束縛は最高潮、メンヘラ彼女でも控えるレベルにまで達していた。


そんな中迎えた、夏休み


彼は、女友達がいる県に会いに行ってくる、と述べ、青春18きっぷを使い、西日本のどこかに行った。

私が、やめてほしいと伝えても

「浮気じゃない。」

「あいつは、友達。」

などと言い、2人きりで会い、写真を撮り、プレゼントをもらい帰ってきた。


流石の私でも、もう我慢ができないと思い、ある計画を立てた。


実行日は文化祭前日。当日は忙しく彼を地獄に叩き落すことなどできないからである。


準備を着々と進め、私は実行日を迎えた。


「話って何?言っておくけど、別れないよ。」


そう言いながら、彼は私を見て驚いていた。


私は、太もも丸出しのミニスカートにオフショル、金に近い茶髪にショートカット、ピアスをつけていた。


彼が嫌う女の全てを私に叩き込んだ。


今までされた束縛の数々や、先輩たちや女友達に対する相談実績などを用意し、別れを告げた。


当然、彼は拒否してきた。


私はこのチャンスを逃すまいと、第三者(共通の知人)がいる前で、別れたい旨を伝え、別れてくれないのなら今までのことを全て公開アカウントに投稿して、出るとこ出る、とほぼ脅迫のような形で意思を表明した。


流石に彼にも立場やキャラがあるため、証拠があることが分かると別れを受け入れてくれた。


しかし、彼はTwitterでネカマアカウントで近づいてきた。


「こっちはそんなこと知ってるし、先輩から情報は入ってんだよっと」


ブロック祭りである。


もしかしたら、本当に女の人のアカウントだった可能性もあるが、私はブロックを繰り返した。


文化祭当日は、みんな驚いていた。会う人会う人に何があったのかと心配され、私はその度に別れたことと、別れるために必要な変化だったことを伝えた。

周りは優しく、私は楽しく過ごせた。


向こうは地獄のような状況だったと、彼の友達から聞いた。



メイド喫茶のメイドをフルシフトでこなし、加えて軽音部のドラムを3バンド×2~3曲をした。

メイドのドラム女がいる!と話題になるほどだった。


客引きの時には、その辺にいる学生と思われる男に声をかけ、

「せんぱぁい…、来てくれませんか…?」と上目遣いで

男の服の裾をつかんだ。


この時私は、本当に知ってる先輩かどうかなどはどうでもよく、とにかく稼げればよかったのだ。

一緒に客引きをしていた、女装先輩もびっくりしていた。


同伴で店をしている部屋まで先輩(?)を連れていき、注文を聞き、配膳した。

もちろんメイドのため、黒ニーハイにミニスカートである。

膝を床につけ、少しかわいい声で注文を聞けば、先輩(?)は友達を呼び、太客になってくれた。


「なぎさちゃんのおすすめはなに?」


「先輩の好みにもよるけど…私は飲み物と食べ物のセットかなって思います!」

「でも、飲み物だけでもいいので、また来てくださいね?」


「分かったよ~来るね!」


先輩(?)は他の先輩を呼び、たくさんのお客様が来てくれた。


たくさんの儲けが出たと聞いたが、私はお給料を受け取ることをせずにサークルをやめた。


元彼に関わるくらいなら、お金なんていらない。


この時には、もう私の貞操観念は崩壊し、告白されたら付き合ってみるという恋愛をしていた。


初めての彼氏とのエピソードがこれで、今までの恋愛のエピソードもいいものは1個しかない。


私は、男に好かれる方法を身につけ、女に好かれる方法を身につけ、その高校を辞めた。


宗教、束縛、マザコンは役満だ。

そう思った。



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