鶴の恩返し
凍える雪の日、私は出稼ぎの帰りに罠にかかった一匹の鶴を見つけた。その罠は動く程に鶴を締め付けていた。私は暴れる鶴をなんとか抑え、罠から解放してやった。自由となった鶴は山の方へ羽ばたいていった。
家に帰り暖をとっていると、扉を叩く音がした。囲炉裏の前から離れたくはなかったが、不承不承に立ち上がり扉を開けると、そこには美しい娘が立っていた。
「夜遅くにすみません。雪が激しく道に迷ってしまったのですが、どうか一晩泊めてもらえないでしょうか」
私は閃いた。これはまさか、アレだろうか。
「こんな家で良ければ泊まってください。幸い布団は一つ余っています」
娘はとても嬉しそうに中へ入り、囲炉裏で共に暖をとった。
「私は今からあちらの部屋で貴方のために綺麗な布を織りたいと思います。何か糸はありませんか」
ちょうど余っていた糸を渡すと、娘はこう言った。
「私はこれから機を織りますが、機をおっている間は絶対に部屋を覗かないでください」
「分かりました」
襖を閉めてしばらくすると、彼女のいる部屋からどたばたと忙しない物音が聞こえるようになった。行くなら今しかない。私は勢いよく襖を開けた。
「やっぱりな。噂には聞いていたが、まさか本当にいるとは」
娘は部屋中の金目の物を風呂敷に包み、今にもとんずらするところであった。私は町内会で配られた紙を勝ち誇ったように広げて見せた。
「鶴の恩返しを装った泥棒にご注意」
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