321:薫さんとデート②
予約していたお店で食事を済ませた僕達はお店を出た。そして次の目的地へ向かおうと考えていた。⋯⋯考えていたけれど、本当にそこで良いのか不安になってきてしまった。
「ねぇ、優希くんお願いがあるんだけど⋯⋯良いかな?」
「お願いですか?」
「実は⋯⋯私、優希くんとカラオケ行きたかったんだ」
そんな事を考えていたら、思ってもいない言葉が飛び出してきて少しビックリしてしまった。
「カラオケ⋯⋯ですか?」
「うん。優希くんは良い景色の場所とか、デートスポットとか考えてくれていたんだとは思うけど、少しだけ私の我儘聞いてくれるかな?」
「僕は大丈夫ですけど⋯⋯本当にカラオケで良いんですか?」
「もちろん!だって、私一緒に行ったこと無いんだもん」
そう言われてみると、確かに薫さんとカラオケに行ったことはなかったかも。
「私、優希くんの生歌聴きたいってずっと思ってたんだよね」
「生歌って言うほど僕は上手じゃないですよ!?」
「ふふっ、それに⋯⋯人目も気にしなくても良くなるから、優希くんにはちょうど良いと思うんだ」
「そ、それはそうかもしれないですけど⋯⋯」
薫さんの事を意識してしまっているのもあってか目の前で歌う事に、少し恥ずかしさを感じてしまう。
下手って思われないかなとか、配信の時みたいな声とかで歌うと、似合ってないって思われないかなとか不安な気持ちが襲ってくる。
「だから、ね?」
「わ、わかりました!」
どちらにしても、プランに不安があったのも確かなんだもん。薫さんが喜んでくれる方へ行くのも良いかもしれないよね。
♢
無事にカラオケへ到着!少し部屋が狭い事を除けば、機器にも不満は無いし、好きな機種だから歌いたい曲もしっかり入ってる。⋯⋯のは良いんだけど、少しだけ問題が。
何が問題?それは⋯⋯
「優希くん、どうかした?」
そう言いながらこちらを見つめてくる薫さん。その手には僕の手が握られている。
つまり、距離がやばいくらい近いってこと。
カラオケなら他人の目がない。つまりこういうことをしても気にする人がいないってことでもあったんだよね。
隣にいる薫さんはただ手を握るだけで、それ以上のことはやってこない。むしろ普通にカラオケを楽しもうとしているのが見てるだけで伝わってくる。
「(気にしたら⋯⋯負けなのかな?)」
全く嫌じゃないし、振り解こうとも思わない。けど、手を繋ぎながら隣に座られると流石に恥ずかしい。それに恥ずかしさで熱を持ってきた僕の手の温度が上がっていくのがバレちゃいそう。
「(うん、今は気にしないで歌おう。薫さんも、僕が歌ってるのを聴きたいみたいだし)」
そう頭の中で考えた僕は、思考をやめてデンモクを操作する。
「何を歌おうか迷っちゃいますね」
「優希くんの歌だと⋯⋯前配信で歌ってたやつが聴いてみたいかも」
「前歌ってた曲ですか?」
「えっとね、アニソンだったのは覚えてるんだけど⋯⋯あの⋯⋯あっそうそう!可愛い系の曲!」
「そう言われると、配信で歌う曲可愛い系が多いからなかなか絞れないですね⋯⋯」
「そう言われるとそうかも。えーと⋯⋯確かコメント欄が発狂した人で埋め尽くされてたはずなんだけど⋯⋯」
「最近で、コメントが発狂⋯⋯
あっ、もしかしてこれですか?」
僕は思い当たる曲を入れてみる。
流れるメロディーで薫さんも察したようで小さな声でこれこれ!と言いながら首を振っていた。合ってたみたいで良かった。
「〜♪」
一時期流行したイヌミームと言われる動画に使われることの多い曲で、アニメ自体の知名度は低いのに曲だけ有名になったタイプの曲なんだよね。
一番を歌い切ったところでチラッと薫さんを見てみると、凄く嬉しそうな顔をしていた。
「(良かった。喜んでくれてる)」
僕の歌声で喜んでくれる。それが嬉しいのもあるけど、喜んでくれているのが薫さんだって事がまた嬉しい。
いつも口に出して褒めてくれたり、優しい言葉を投げかけてくれるけど、実際に隣にいて、この目で見て、その反応を見られることがやっぱり一番良い。
「(気合い入れて歌ってみよう!)」
もっと喜んで欲しいから、僕の全力で。
「⋯⋯ふぅ」
「優希くん、お疲れさま」
「ありがとうございます!
⋯⋯どうでしたか?」
「うん!もう最高だったよ!」
「えへへ、なら良かったです!」
「じゃあ次は私の番だね。
私はあんまり上手じゃないから、少し恥ずかしいかも」
「そんな事気にしないですよ!
楽しむのが一番です!」
「ありがとう。じゃあ歌うね?」
デンモクを操作して曲を入れた薫さんはマイクを持つと歌い始めた。
「〜♪」
歌は有名なアニソンで、僕もよく知ってる曲。ところどころ舌を噛んで恥ずかしそうな顔をしたりして、いつもの頼りになる薫さんのイメージと違って、その⋯⋯なんというかギャップが凄い。
「⋯⋯ふぅ、優希くんじゃないけど恥ずかしいね」
顔を真っ赤にしながらそう話す薫さんが、そのギャップのせいか、凄く可愛いと思ってしまった。
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