バレンタインSS

※注意

このお話は本編に関係ないかもしれないIfのお話です。


 バレンタイン、それは女性が男性に想いを込めたチョコレートを贈ったり、友人同士でチョコレートを交換したり、会社などの人に義理でチョコレートを渡したり、とにかくチョコレートを誰かに贈る日。


 私もその一人で、チョコレートメーカーに踊らされる人。


 でも、気持ちを込めたチョコレートを贈れば、気持ちは伝わるはず。


 大好きなあの人のために。


「ふぅ⋯⋯やっと出来た⋯⋯」


 前日の夜から準備をしていたチョコレート作りがとうとう終わった。


 かなり時間はかかったけれど、きっと優希くんは喜んでくれるはず。


 ハートの形に焼いたガトーショコラ。


 誰かの手を借りず、一人で作り上げたそれは、私の想いの集大成。


 優希くんが好きそうな物を調べて作ったこれには少しだけ秘密がある。


 ガトーショコラの中に乾燥イチゴを入れておいたんだけど、その量も大事。入れすぎてもガトーショコラを台無しにしてしまうし、少なすぎてもイチゴ感が感じられなくなってしまう。


 試作を何度したか覚えていない。


 だけど、私的には美味しく仕上がったと思う。


 だからあとは、渡すだけ。



「⋯⋯優希くんそろそろ配信終わりだったよね」


 バレンタインでもしっかり配信をする優希くん。

 女の子って訳じゃないのにすっかりアイドルっぽい感じになっちゃって、私は不安。


 私の知らないところで誰かに取られちゃうんじゃないかって。でも、優希くんは私を選んでくれそうな気もする。自惚れじゃないと良いけど。


 そう考えながら優希くんの家の近くのコンビニに車を停め、飲み物を買ってきた。


 流石に駐車場に停めるのに何も買わないのは失礼だし、買い物もしたから10分くらいは許して欲しい。


 そして車で5分ほど配信を見ながら待っていると、優希くんの配信が終わった。


 私は切り忘れとかが無いことを確認すると、すぐに優希くんに通話をかけた。


「もしもし、優希くん?」

『薫さん?どうかしましたか?』


 普段の優希くんの声が聞こえる。

 配信ではまず見せない、優希くんの素の声。


「えっと、ね」


 言わないと、勇気を出して。


 少しの勇気があれば良いんだから。


「今日、バレンタインデーでしょ?

 優希くんにチョコレート作ってきたんだ。

 だから、今から行って、渡しても良いかな?」

『えっ!?わ、わざわざ良いんですか!?』

「もちろんだよ」

『それじゃあ待ってます!』

「うん、すぐに向かうね」


 優希くんの了承が取れた私はすぐに車を走らせる。


 優希くんの家に着いた私は優希くんの部屋へ向かう。


 大事に作ってきたチョコレートを抱えながら。


 優希くんの部屋の前に着くと、やけに心臓がうるさい。ドキドキが止まらなくて、今にも破裂してしまいそう。


 ピンポーンとチャイムの鳴る音がする。


 私が押したから。


 すると、すぐにはーい!と声が聞こえてくる。


「薫さん、こんばんは!

 寒いので中に入っちゃってください!」

「う、うん。ありがとう」


 優希くんはいつものようにキラキラとした笑顔で私を迎えてくれる。


「お邪魔します⋯⋯」


 緊張しながら入ると、優希くんはリビングへと向かって、私に待つように言った。


「すぐに戻ってくるので待っててください!」


 そう言ってキッチンへ向かった優希くんは冷蔵庫から何かを取り出した。


「はい!薫さん、僕からもバレンタインのチョコレートです!」

「えっ?」


 今日の配信だとそんなことやってなかったような。


「あの、笑わないで欲しいんですけど⋯⋯

 薫さん、来てくれると思ってたんです」

「えっ」

「だから、こうして準備してたんです。

 ダメだったら、自分で食べても良いですし」

「ち、ちなみにですけど、今回手作りをあげるのは薫さんだけですからねっ!」

「えっ」

「その、なんでかは聞かないでもらえると⋯⋯嬉しいです」


 優希くんは恥ずかしいですしと言いながら軽く笑った。


「えっと、その、ありがとう。

 もらえるなんて思ってなくてびっくりしちゃった」

「喜んでもらえて嬉しいです!」

「じゃあ、私からも⋯⋯」


 私は用意していたチョコを優希くんに渡す。


「わぁ!ありがとうございます!」

「が、頑張って作ったから、気に入ってくれると嬉しいな」

「手作りなんですか!?」

「うん」

「えへへ⋯⋯薫さんの手作り⋯⋯」


 あれ?思っていたより嬉しそう?


「薫さん、ありがとうございます!」

「わ、私こそ喜んでくれて嬉しいな」

「当たり前じゃないですか!

 そ、その⋯⋯好きな人からもらったチョコレートなんですから」

「って、今のは無しです!」

「優希くん」

「もう、無理」

「薫さん!?」


 尊みが深すぎて耐えられないよ。



「ふぅ⋯⋯」

「薫さん?」


 落ち着いた私を優希くんがジト目で見てくる。

 あんな可愛い反応されたら誰でもそうなるよ、仕方ないよ。


「ご、ごめんね⋯⋯」

「まぁ良いですよ、でも」

「でも?」

「薫さんからチョコレートもらったこと、ピヨッターで言っちゃいますね」

「えっ」


 優希くん、流石にそれは恥ずかしいよ!?


「ふふっ、皆に自慢しないと!」

「待ってえええええ!!」

「なんて、冗談ですよ」

「も、もう⋯⋯」

「いつものお返しです!」


 優希くんはそう、笑顔で言った。


「じゃあ折角ですし、二人でチョコ食べませんか?」

「⋯⋯そうだね」


 ハートのチョコを見られるのは恥ずかしいけど、優希くんと二人きりで過ごせるなら、それもいっか。

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