305:夏コミ初日③

「はぁ、酷い目に遭った⋯⋯」

『ふふっ、ユート面白かったよ』

「お前なぁ⋯⋯」

『だって他人事だもん♪』

「あああああ!!!

 妙に可愛く言うな!!

 脳がバグる!!」

『そんな事言われても困っちゃうよ?』


 ボクはそう言いながらゆるお姉ちゃんの方を見ると、ボクのやりたいことを察してくれたのか、少し頷いた。


『「ねー?」』


 ボクとゆるお姉ちゃんは、ユートの方を見ながら同時にそう言った。


「息ぴったりすぎんだろ⋯⋯」

『ふふっ、一回やってみたかったんだ!』

「なんとなくそんな気がしたからつい⋯⋯」

「まぁ、二人とも仲良さそうで良いと思うけどな」

『ふぇっ』

「ふぇっ!?」

「反応まで同じとかわざとやってるだろ?」

「ち、違うよ!?」

『狙ってやってなんてないよ!?』

「それが素でやってるならお似合いすぎる」

「そ、そう?」

「ま、まぁ俺から見れば⋯⋯だけどな」

「えへへ、私がゆかちゃんとお似合い⋯⋯」


 ゆるお姉ちゃんが両手で顔を隠しながら照れているみたい。


『ゆるお姉ちゃん、もしかして照れてるの?』

「ち、ちがうよ!?」

『絶対照れてたー!』

「も、もう!からかわないで!」

『だめ?照れてるゆるお姉ちゃん、可愛いかったけどなぁ⋯⋯』

「アッ」


 ボクがそう言うと、ゆるお姉ちゃんは突然フリーズしてしまった。


『あれ?ゆるお姉ちゃん?』

「あっ⋯⋯これは⋯⋯」

『ゆ、ユート!?ど、どうしよう!?』

「放っておけば治ると思うぞ?」

『いや、それは危ないよ!?』

「有料の休憩所あったろ、そこで休んできたらどうだ?俺が来た人の対応しておくからさ」

『う、うん⋯⋯でも、どうやってゆるお姉ちゃんを運ぼう⋯⋯』

「多分手を繋いで歩いて行けば着いてきてくれると思うぞ。多分放心状態みたいになってるだけだから」

『詳し過ぎない!?』

「だって⋯⋯なぁ」


 ユートはなぜか遠い目をしながら納得している様子。何でユートはわかるのか、ボクは不思議で仕方なかった。


『とりあえず、ちょっと離れるね!』

「おう、ごゆっくりー」


 ユートにスペースをお願いしてボクは休憩所にゆるママを連れて行くことにした。


「⋯⋯多分あれは可愛いって優希に言われて脳の処理が追い付かなくなっただけなんだよな」


 裕翔は優希達がいなくなったのを確認すると、誰にも聞こえないくらいの声でそう小さく呟いた。



「はっ!?」

『あっ、気が付いた?ゆるお姉ちゃん』

「えっ、これどうなって?」


 私は目が覚めると、何故かゆかちゃんモードの優希くんにひざまくらをされていた。


 一体何を言っているのかわからないと思うけれど、私も何が起きているのか理解できていない。


 一瞬で記憶を呼び起こすと、ゆかちゃんに可愛いって言われた事を思い出した。


「(思い出しただけで、また気が飛びそう⋯⋯)」


 優希くんが大好きすぎて、可愛いって言われるだけでこうなるなんて、流石に恥ずかしすぎる。


「(変な人って思われてないかな⋯⋯)」


 そう一瞬の間に考えていると、優希くんは何も気にしていない様子で私に話しかけてくる。


『ゆるお姉ちゃんがボーっとしてたから連れて来たんだよ?はい!これ飲んで?』


 そう言って、優希くんはスポーツドリンクを渡してくれた。熱中症か何かかと思って用意してくれたのかな?本当優しい、しゅき。


「ありがとう⋯⋯しゅき⋯⋯」

『えっ!?』

「あっ」


 しまった、とうとう感情を抑えきれなくなってしまった。


『えっと⋯⋯その⋯⋯あ、ありがとうで、いいのかな?』

『面と向かって言われるの⋯⋯えへへ、なんか恥ずかしいね』


 何その反応?


 やばすぎるでしょ?


 可愛い、カワイイがすぎる!!!!!


 あれかな?これは、そういう雰囲気ってやつなのかな??


 いや、それとも夢?


「ゆかちゃん可愛い⋯⋯本当好き⋯⋯」


 夢なら、口に出してもいいよね。


『ふぇっ!?に、2回も言うのはずるいよ!?』


「だって、本当のことなんだもん。

 ゆかちゃんのこと好きな人いっぱいいるけど、私が絶対に一番好きなんだもん」

『⋯⋯えっと、ありがとう。

 ボクも、ゆるお姉ちゃんの事、大好きだよ。

 でも、少しだけお返事は待っててね』

「えっ?」


 ⋯⋯あれ?夢にしてはリアルな反応?


『ボクも、答えは出さないとなって思ってるんだ』

「まって」


 続きは聞きたくない。

 ダメな方だったら、悲しくなっちゃうから。

 でも、期待している自分もいる。


「だから、もう少しだけ待っててくれますか?」


 優希くんが素の声に戻すと、そっと私の耳元でそう囁く。


「⋯⋯うん、待ってる」


 そう返すしかなかった。

 夢じゃなくて現実で。

 勢いで想い、伝えちゃった。

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