304:夏コミ初日②

 無事に会場入りして、裕翔と二人で準備をしているけれど、少し慣れていないこともあって時間がかかってしまった。


 設営をしながら両隣のサークルさんに挨拶をしたりしていると、僕の事を知っている人だったらしくて、そのサークルさんと同人誌などを交換させてもらったりした。


 VTuberのジャンルで出していることもあって、そのサークルさんのイラスト集の中には僕やふわちゃんのみならず、ばちゃすぽや、いまなんじやVライブの有名な女性ライバーさん達のイラストがぎっしりと描かれていた。


 僕がそんな大物VTuberさん達の中に混じっていることに驚きつつも、そうしてネタにしてもらえていることがとても嬉しかった。でも、女性ライバー扱いなんだね、僕。


 しかも、その話をしているところを後ろで見ていた裕翔がニヤニヤしていたのはちょっと後でOHANASHIが必要かも。


 それからなんとか設営を開場時間には間に合わせて、裕翔と飲み物を飲みながらその時を待っていた。


【お待たせしました、只今よりコミックマーケットを開催します!】


 アナウンスが流れると毎回恒例の拍手の音で会場が包まれる。


 もちろん、僕と裕翔も拍手をしたよ。


 そうしてどんどんと人の歩いて来る音が聴こえてくる。


 僕の配置されたエリアに人が入って来ると、それぞれ思い思いのサークルへ向かって来る人たちが見える。


 その中には僕のいる方向に向かう人もいて、少し緊張してくる。


 そして、こちらへ向かって来る人が想像以上に多い事に気が付いて、僕は嫌な予感がしてきた。


 これ、二人で足りるかな?


「⋯⋯裕翔、今日は改めてよろしくね」

「どうしたんだ?いきなり」

「た、多分やばいことになるかも」

「気にしすぎだろ?流石にあれ全員が来るわけじゃないだろ?」

「そ、そうだよね?」


 そう言ってはみたけれど、真っ直ぐこちらを見ているようにも見えてくる。


「と、とりあえず、頭切り替えるから雰囲気変わるかもだけど、気にしないでね?」

「お、おう」


 そう裕翔に告げると白姫ゆかとして動くために精神を集中させる。


『うん、これで大丈夫!』

「うぉ!?」

『ユート、大丈夫?』

「あぁ、何でもないぞ?」

『えへへ、なら良かった。

 それじゃ、頑張ろうね!』

「おう!」



 気合いを入れ直したボク達の前に大量の人がやってくる。


「ASMRセットを1つお願いします!」


 スペースにやってきたボクのファンが財布を手に取りながらそう言った。


『ASMRセットだね!

 3000円になります!』

「はい!3000円です!」

『うん、ありがとう!

 ⋯⋯ちょっと恥ずかしいけど、喜んでくれると嬉しいな♪』

「アッ、あり、ありがとうございます⋯⋯」


 そんなやりとりをしながらも順調に列を処理していく二人。


 それでもなかなか人は減らず、列の長さが凄いことになってきていた。


「ゆか、やべーぞこれ⋯⋯」

『そ、そうだね⋯⋯ボクもここまでは想定外だったよ⋯⋯』


 ざっと見ただけでも数十メートルは続いている列。スタッフさんがいないながらも綺麗に整列されてはいるけれど、捌くための人員が明らかに不足している。


「とりあえず、頑張るか」

『だね⋯⋯』


 熱中症予防の水分を取る為にほんの少しだけ休憩をもらっている間に二人で気合いを入れ直していると、唐突に声がかけられた。


「ゆかちゃん応援に来たよ」

『ゆ、ゆるお姉ちゃん?』

「ピヨッターでゆかちゃんのスペースが地獄絵図って見たから急いで来ちゃった」

『でも、ゆるお姉ちゃんのスペースは⋯⋯?』

「こっちはもう完売しちゃったんだよね。

 スケブ依頼も事情話したらこっちに行ってあげてって言ってくれたから来ちゃったんだ。だから一気に捌いちゃおっか」

『⋯⋯あ、ありがとう!』

「うん、気にしないで。

 私がやりたくてやってることだから!」


 そう言ってゆるお姉ちゃんは急遽もう一つの対応スペースをサクッと作りあげると、対応を始める準備を終わらせた。


「よし、ゆかちゃんにユートくん、準備は大丈夫?」

『うん!』

「大丈夫です!」


 そして頒布を再開すると、物凄い勢いで列が捌けていく。


『(流石ゆるお姉ちゃん⋯⋯頼りになるなぁ⋯⋯)』


 ボクはそう思いながら対応していくと、時間は少しかかったけれど、ようやく完売になった。


『これにて完売だよ!』


 列に並んでいた人の一部は買えなくてショックを隠し切れない人もいた。


 だからボクは、その人たちに向けて一言お知らせを伝えることにした。


『完売で買えなかったお兄ちゃん、お姉ちゃんの為にも今度受注生産出来るようにするから、転売ヤーからは買わないように気をつけてね!

 ほんとはもっと数を用意するべきだったんだと思うけど、こんなに沢山来てくれると思わなくて⋯⋯』


 そう僕が言うと、今まで並んでくれていた人達が笑顔で答えた。


「大丈夫!再販あるってわかっただけでも嬉しいよ!」

「そうよそうよ!絶対買うからよろしくね!」

「ASMR今日聴けないのはショックだけど仕方ないね!」

『あっ、ASMRは閉場後に販売予定だから安心してね!』

「「「やったーーー!!!!」」」


 そうして、ボク達のコミケ1日目の頒布は終了した。


 まだ閉場時間まで時間があるから、スペースに遊びに来てくれたリスナーさんやボクのファンの人達と交流をしていると、やっぱり皆ユートが気になる様子。


「あの⋯⋯シュバルツさんコスなのはわかるんですけど、流石に本人じゃないですよね?」

「あはは、流石に違いますよ」


 裕翔は持ち前のコミュ力を発揮して話しかけてくる人達に対応している。最初は恥ずかしいばかりだったボクと違ってやっぱりすごい。


「ちなみにゆかちゃんとはどんな関係なんですか?」


 結構攻めた話題を振って来る人もいるけど、ユートはどんな返しをするんだろう?


「うーん、そうですね⋯⋯親友、ですかね?」

「親友⋯⋯アッ⋯⋯いい、ですね⋯⋯」

「今絶対変な想像しませんでした?」

「してまs、してないです!」

「いや絶対その反応してたよな!?」

『ユート、素が出てる⋯⋯』

「あっ、いやこれは⋯⋯」

「すげぇ⋯⋯そこまでシュバルツさん意識してるのか⋯⋯意識が高すぎる⋯⋯」

「喋り方めっちゃシュバルツさんに似てる⋯⋯」

「まさか本人!?」

「いやだから俺はちが⋯⋯」

「「「絶対シュバルツさんだ!!!!」」」

「会ったことはあるけど本人じゃねえええええ!!!!」

『ちょ、ちょっとユート!?!?』


 ユートもユートで楽しんでて何より⋯⋯かな?


「ふふっ、二人とも楽しそう」


 そんな様子をゆるお姉ちゃんは後ろから微笑ましそうに眺めていた。



-------

ようやく4巻用のSSが一段落しました。

夏バテ酷すぎてやばい中だったので期限ギリギリでしたね⋯⋯来週から週1更新復帰出来るはずなのでお楽しみに!

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