278:どうすれば良いの?

「それではまず、こんなのはいかがでしょうか?

 (デュフフフフフ⋯⋯可愛さも残しつつ、男の子にも見える中性的な服、拙者の好みにござるよ)」


 店員さんにおすすめされたのはレディースではあるものの、僕にも馴染みやすい服だった。


「これ、良いですね!」


 想像以上にしっくりくるのもあって、普段使いしても良いと思えるくらい。


「うん、凄く似合ってるよ」

「そう言って頂けて嬉しいです!

 後はこんなのも⋯⋯」


 そう言って店員さんはまた数着の服を手にこちらへやって来た。


「い、いつのまにそんなに!?」

「ふふ、似合うと思ったら一瞬で選んでしまいました。それと今着てる服にこの帽子、ベイカーボーイハットと言うんですが、きっと似合うと思いますよ。

(デュフフフフフフ⋯⋯ショタに帽子、これは譲れないでござるよ!!!!お主もそうは思わぬか!)」

「(何でこの人の心の声、侍っぽいんだろう⋯⋯しかも似合ってるから同意するしかないし⋯⋯)」


 何故か苦笑いしている薫さん、もしかして似合ってなかったのかな?


「えっと薫さん、帽子似合って無いですか?」

「えっ!?す、凄く似合ってるけど!?」

「そ、そうですか?」

「うんうん!似合いすぎて目を奪われてたくらいだよ」

「言い方がちょっと大げさな気がしますけど大丈夫なら良かったです!」


 一瞬不安に感じてただけに、似合ってると言ってくれて一安心。


「それでは次は帽子を一旦外してこちらはいかがでしょう?


 店員さんはそう言いながら、また服を手にこちらへやって来た。



 それから店員さんの持って来る服を着て、軽く写真を撮ってを繰り返すこと数時間⋯⋯


「はい、これで終了です!

 お疲れ様でした!」

「お、お疲れ様でした⋯⋯」

「お疲れ様。

 いやぁ⋯⋯眼福だったよ、優希くん」


 店員さんも薫さんもとても良い表情で僕にそう言ってくる。この様子だときっと写真もいい感じに撮れてる⋯⋯かな?


「それじゃあそろそろ行こっか」

「はい!店員さんもありがとうございました!」

「いえいえ、お気になさらず(オホォwwwショタに笑顔でお礼を言われたでござるwww今夜はおかずなしでご飯が食べられそうでござるよwww)」


 お店を出て、車に乗ると薫さんが少し橋本さんに連絡をするから待っててねと僕に告げ、橋本さんに電話をかけはじめた。


 僕は疲れからか、すぐに意識を失ってしまった。



「もしもし先輩、薫です」

『あら薫ちゃんお疲れ様。

 電話っていうことは優希ちゃんの衣装選びは終わった感じかしら?』

「はい。とりあえず写真を100枚ほど送るので、その中から選んで貰えれば⋯⋯」

『薫ちゃん?アタシの聞き間違いかしら?

 100枚?100種類のコーデを試したのかしら!?』

「そんな訳ないですよ!帽子を被ったり、一部アクセを変更したりとかそんな感じですよ」

『そ、そうよね?焦ったわ⋯⋯優希ちゃんにはまた今度雑誌に載せる用の再撮影をお願いすると思うからよろしく伝えておいてもらえるかしら?』

「分かりました」

『それじゃ薫ちゃんも優希ちゃんもお疲れ様。

 気を付けて帰って頂戴ね?』

「はい、先輩こそお疲れ様です」


 電話を切ると、横で優希くんが眠気に耐えられなかったのか、うたた寝をしていた。


「⋯⋯可愛い」


 触ったらダメだと思っていても、思わず触れたくなる。


 最近の優希くんの事を考えると、いつかどこかに行ってしまいそうで、でも私が触れたら今までの関係が壊れてしまいそうで。


「(ヘタレだなぁ、私)」


 優希くんくらい可愛い子だったら、他の人達が放っておかない。誰かに取られるくらいなら、私が⋯⋯


「いけないいけない⋯⋯私は年上なんだから、優希くんが好きでも抑えておかないと」


 でも、優希くんの顔を見ると、愛しい気持ちがふつふつと湧き上がってくる。


「いつまで、我慢していればいいのかな」


 別に肉体関係になりたいとか、そんな生々しいものじゃない。ただ一緒に、側にいたい。


「んっ⋯⋯」

「優希くんいつも頑張ってるもんね。

 今はゆっくり休んでてね」


 私は優希くんを起こさないようにゆっくりと、車を発進させた。



「はぁ、もうすぐ着いちゃう⋯⋯」


 優希くんの家の近くに来ると、急に気持ちが落ちて来た。


「(こうして横にいるだけで幸せなのに、また会える事も分かってるのに、どうしてこんなに辛い気持ちになるんだろう)」


「⋯⋯やっぱり優希くんが好きだから、かな」

「って、いけないいけない。

 聞かれたら大変だ」


 私は思わず口に出してしまった言葉に一人でツッコミを入れる。するとちょうど優希くんの家の前に到着してしまった。


「優希くん、優希くんー?」


 私は優希くんのほっぺをぷにぷにとしながら優希くんを起こす。


「⋯⋯おはようございます」


 眠そうな顔で優希くんは私の方を見る。


「おはよう、とりあえず優希くんの家に着いたよ?」


 私がそう言うと、優希くんはちょっと焦った様子でシートベルトを外した。


「あ、ありがとうございます!」

「それじゃ、また近いうちにちゃんとした撮影をお願いする事になると思うから、優希くんの空いてる日があったら教えてね」

「は、はい!」


 優希くんが挙動不審になりながら降りていき、私にお礼を言うと家へ帰って行った。


「はぁ、また優希くんに会える日まで頑張ろうっと」



「多分⋯⋯気のせいじゃ、無いよね?」


 半分眠っていたとは言え、あれは聞き間違えとは思えなかった。


「先輩もだけど、僕はどうすれば良いんだろう⋯⋯」


 気持ちを分かった上で好意に甘え続けるのはなんだか卑怯な気がする。


「今までこんな事考えた事がないから、どうすれば良いかなんて分からないよ⋯⋯」


「き、緊張したからか、胸のドキドキが収まらないよ⋯⋯」


 僕は口に出しづらい気持ちのまま、いつも通りに配信をする準備を始めた。



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新年1発目の本編でした!

次回は来週火曜日予定です!

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