276:雑誌のモデル

 ある日の放課後、僕は帰ろうと学校から出ようとした時に声をかけられた。


「優希先輩、お疲れさまです!」

「恵ちゃん?どうかしたの?」

「実はお願いがあってですね⋯⋯」

「お願い?」


 そう言いながら僕を見つめているのは、恵ちゃん。


「あれからですね、ボク達もしっかりと機材の取り扱い方を学んだんですよ!」

「う、うん⋯⋯」

「だからオフコラボして欲しいです!!」

「えっと⋯⋯何のコラボ?」


 何やら恵ちゃんが僕とオフコラボをしたい、そう言われたけれど、僕にはなんの事か身に覚えがなかった。


「あれ?言ってなかったです?」

「聞いた覚えはないけど⋯⋯」

「ボクとさくらちゃん、あとなの先輩と3人でカラオケオフですよ!」

「えっ!?」


 まさかのカラオケオフ!?


「まぁ、言ってなかったのなら改めて。

 来月先輩の空いてる日にオフコラボしてもらえませんか!」

「う、うん⋯⋯まぁさくらちゃんとなのさんもいるなら、大丈夫かな?」

「も、もう暴走はしないので⋯⋯」

「ふふっ、相当言われたのかな?」

「かなーり強く言われましたよ⋯⋯」


 その時の事を思い出したのか、恵ちゃんは少し青い顔をしていた。


「それにしてもなのさんも来るんだね?」

「お目付け役としてついてくるって言ってましたけど、優希先輩に会いたいだけだと思います」

「ありえそう⋯⋯」


 そうなると、本当のお目付け役はさくらちゃんかな?


「じゃ、じゃあ言質も取りましたし、来月よろしくお願いしますね!」

「うん、こちらこそよろしくね!」


 僕がOKを出したのが嬉しかったのか、恵ちゃんはるんるん気分で帰って行った。


「はしゃいじゃう恵ちゃん可愛い」

「ふぇっ!?!?」


 突然僕の後ろから現れたすみれちゃんはそう呟くと恵ちゃんを追いかけてどこかへ走って行った。


「一体どこにいたんだろう⋯⋯」



 家に帰って来た僕はいつものようにメールのチェックをしていると、突然薫さんから通話が飛んできた。


「薫さん?どうかしましたか?」

『優希くん、突然ごめんね?』

「いえいえ!大丈夫ですよ!」

『実は先輩からお願いがあって、今度GloryCuteのモデルとして雑誌に出てもらえないかってお願いがあったんだ』

「えっと、それは白姫ゆかとしてですか?」

『ゆかちゃんとして、とも言えるし優希くんとしてとも取れるかも⋯⋯』


 薫さんは申し訳無さそうな声色でそう言った。


「えっ?」


 僕は現実が受け入れられず、変な声で聞き返してしまった。


「じょ、冗談ですよね?」

『冗談じゃないんだよね⋯⋯』

「な、何で?」

『今回は女装と言うよりも普段の優希くんの格好に近い女装になる予定なんだよ』

「⋯⋯? どういうことですか?」

『簡単に言うと今回のテーマは、ボーイッシュなんだよ』

「あぁ!なるほど!」


 確かにそれなら僕でも大丈夫そう?


『ただ、今回は少し特殊でね?どこでも良いからGloryCuteの商品を扱っているお店で直接選んでそのお店で出来るコーデでやるっていうスタイルになるんだって』

「なるほど⋯⋯」

『それで、どうかな?受けてくれるなら私も出来る限り協力させてもらうけど』

「本当ですか?だったら、やってみようかな⋯⋯」


 薫さんが協力してくれるなら、きっと似合う服を選んでくれるだろうし、それに橋本さんにも沢山協力してもらっているから、恩返しになる⋯⋯と思うし。


『ありがとう!優希くんはいつなら予定空いてるかな?』

「今週末は今の所予定は入ってないですけど、どうしましょう?」

『じゃあ、土曜日とか大丈夫?』

「はい!問題無いです!」

『じゃあ土曜日にお迎え行くから、よろしくね!』

「はい!」

『色々と大変だろうけど、無茶はしないでね?

 優希くんが倒れたら私も悲しいから』

「今の所は大丈夫ですよ!まったりやってますから!」

『そっか、なら良いんだ。何かあったら相談にも乗るから、遠慮しないでね?』

「はい!ありがとうございます!」

『それじゃ、ちょっと早いけどおやすみなさい、優希くん』

「薫さんこそ、おやすみなさい!」


 必要な事を連絡し終わると、薫さんは最後にそう言って通話を切った。


「まだちょっと自信はないけど、あれだけ喜んで貰えてるんだから、少しは自信を持たないと⋯⋯って僕は男のはずなのになぁ⋯⋯」


 今更か、と思いながらも僕はメールのチェックを再開した。



 そしてやって来た週末。僕は外に行く準備をすると、薫さんからそろそろ着くよと連絡が来た。


 外で少し待っていると、薫さんの車が来たので急いで乗り込む。


「薫さんおはようございます!」

「優希くん、おはよう!」


 にこりと優しい微笑みで僕に声をかけてくれる薫さん。


「今日もよろしくお願いします!」

「似合う服選んであげるから覚悟しててね!」

「お、お手柔らかに⋯⋯」

「ふふっ、今日は男の子っぽさがあっても良いって言われてるから逆に迷っちゃうかもね?」

「ほ、本当にお手柔らかにお願いしますね!?」

「⋯⋯善処はするよ?」

「不安でしか無いんですけど!?」

「ふふっ、とりあえず行こっか」

「⋯⋯はい!」


 不安もあるけど、きっとなんとかなるよね。うん。


「よし、到着⋯⋯っと」

「薫さん、お疲れさまです!」

「ありがと、それじゃ行こっか」

「はい!」


 そしてお店へ到着すると、薫さんと一緒に店内へ入っていく。


「いらっしゃいませ!」


 お店へ入ると、店員さんの元気な声が響き渡る。


「⋯⋯」


 一瞬、店員さんの視線を感じたかと思うと、店員さんがこちらへとやって来た。


「いらっしゃいませ、お客様。

 もしかして、カップルさんでしょうか?」

「ふぇっ!?」

「へっ!?」

 店員さんがそう言いながら僕らをチラッと見る。


「もし良ければ、ペアルックの提案なども出来ますけど⋯⋯」

「⋯⋯(ごくり)」

「さ、流石にそれは⋯⋯」

「良いかも。優希くん、試しにお願いしてみない?」

「へっ!?」

「でしたら、こちらはいかがでしょうか?」


 そう言って店員さんは服を手に取り僕達に勧めて来た。


♢(薫視点)

「いらっしゃいませ、お客様。

 もしかして、カップルさんでしょうか?」

「ふぇっ!?」

「へっ!?」

 店員さんが私達にそう言ったすぐ後に、私は店員さんと目が合った。


「(拙者はおねショタすこすこ侍、義によって助太刀致す!!)」


 何故かは分からないけれど、そんな声が聞こえた気がした。


「(おねショタすこすこ侍さん!?)」


 目線で、語りかける彼女に私は思わず肯定する事しか出来なかった。


「もし良ければ、ペアルックの提案なども出来ますけど⋯⋯」

「⋯⋯(ごくり)」


 その一言に私は、思わず生唾を飲んだ。

 ペアルック、流石に私も今まで一度も手を出したことはなかった。優希くんとしても優希くんの先輩である遥ちゃんとの姉妹コーデ以来のはず。


「さ、流石にそれは⋯⋯」


 優希くんは恥ずかしそうにしているけれど、これはチャンスに違いない。一緒にこうしてお出かけ出来るだけでも十分だったけど、こうなれば行けるところまで行ってみるべきだと思う。


「良いかも。優希くん、試しにお願いしてみない?」

「へっ!?」


 優希くんは私がOKを出すと思っていなかったのか、驚いた様子だった。そんな所も可愛い。


「でしたら、こちらはいかがでしょうか?」


 店員さんは物凄く良い表情で服を手に持っていた。

 いつの間に服を選んでいたのだろう?

 流石、おねショタすこすこ侍といった所かな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る