277:久々のメンズ服

「でしたら、こちらはいかがでしょうか?」


 店員さんがそう言ったと思うと、その手には既に服が用意されていた。


 あまりにもの速さに僕は思わず驚いてしまった。


「は、早っ!?」

「これが⋯⋯」


 今回店員さんが持ってきた服は、メンズとレディース、それでいて色が同じだった。


「ペアルックというよりもシミラールックになりますが、お二人ならきっと似合うかと思いますよ」


 そういって渡された僕の服はしっかりメンズで、普段渡される可愛い服と違って少しかっこよさを感じる。


「僕にこれを⋯⋯?」

「優希くんとお揃い⋯⋯」


 久しぶりに男として扱ってもらえて少し嬉しくて、つい試着してみたくなった。良さそうなら買っても良いかもなんて思ってしまうくらいには。


「じゃあ優希くん、着てみない?」

「はい!僕もそう思っていたとこです!」

「決まりだね!店員さん、お願いしても良いですか?」

「かしこまりました!!」


 僕は薫さんと一旦分かれ、試着をすることにした。


「おぉ、サイズもだけど凄く良い感じの服かも」


 これからの時期にも合った、薄いブルーをメインとしたこの服は、パッと見ただけでも爽やかさを感じさせて、良い感じ。


「うん、久々にちゃんとメンズの服着た気がする⋯⋯自分で持ってるのはサイズ的にもレディース使う事多かったし」


 これなら買っても良いかもと思った僕は一度薫さんに見てもらう事にした。



「それではこちらがお姉さんの方の服になります。

 きっとさっきの男の子と合うはずなので、是非!(お主であればこの衣装が相性が良きはずですぞ!

かの男の子との相性も抜群故、試してみるでござる)」


「あ、ありがとうございます(なんで変な声が聞こえるんだろう⋯⋯)」


 店員さんにライトブルーの服を渡された私はすぐに着替えると、思っていたよりも可愛らしい服で、少し戸惑った。


「(いつもこんな服着ないからなんだか新鮮な気持ち)」


「んんwwwやはり拙者の見立ては間違っていなかった様子www」

「えっ?」

「どうかなされましたか?(んんwww危ない危ないwww)」

「い、いえ⋯⋯」


 やはりさっきから店員さんの声が変な風に聞こえて来る。おねショタすこすこ侍さんは心に直接声を届ける能力でも持っているのだろうか。


「薫さん、僕の方は準備オッケーですよ!」


 私も服の試着が完了したから、優希くんに見てもらおうと思い、カーテンを開ける。


 カーテンを開けた先には爽やかさを感じさせるショタみが強い優希くんがいた。

「あぁ⋯⋯とてもお似合いです!(ショタっ子きたああああああああ!!ですぞおおおおお!!!!!)」

「抱きしめたい⋯⋯(か、可愛い⋯⋯)」

「か、薫さん?」

「優希くん、何か?」

「い、いえ⋯⋯」


 危ない危ない、心の声と声に出す台詞が完全に逆になってしまった。


「それにしても男の子っぽい優希くん、凄く新鮮だね」

「あ、ありがとうございます⋯⋯でも薫さんも言葉にし辛いですけど可愛い感じで、凄く素敵だと思いますよ!」

「っ!? あ、ありがとう⋯⋯」


 お互いに褒め合ったせいか、私達の顔が真っ赤になってしまった。


「んんwwwおねショタ尊すぎですぞwww(あっあっあっあっあっ)」

「「え?」」

「お客様、どうかなされましたか?」


 また変な声が聞こえたと思ったらどうやら優希くんもだったみたいで、二人同時に反応してしまった事が少し面白くて、少し笑ってしまった。


「せっかくだし、買っちゃおうか優希くん」

「はい!僕も気に入ったので買おうかと思ってました!」

「ありがとうございます。今着ていかれても大丈夫ですが、どうされますか?」


 店員さんの言葉に少し迷ったけれど、今日の本題は優希くんの撮影用の服を買う事。この買い物は手短に済ませたいから、私はこのままこの服を着ていく事にしようかな。


「だったら、着替えるのも時間かかるのでこのままでお願いします」

「かしこまりました。そちらの男の子の方は⋯⋯?」


店員さんは優希くんの方を見ながらそう聞いて来る。


「えっと、この子はこれからちょっと撮影用の服を選ぼうかと思っているので⋯⋯」

「撮影用⋯⋯?そういえば聞いていたような⋯⋯」

「もし連絡があったのなら、GloryCuteの橋本さんから連絡が来ていると思います」


 私がそう言うと、店員さんは手を叩き思い出したかのような反応を見せた。


「あぁ!やはりですか!お伺いしています」

「それなら良かった。なので何回か試着室をお借りする事になりますけど、大丈夫ですか?」

「もちろん、問題ありません!

 私の方でもアドバイス出来ることがあるかもしれませんので、お気軽にお声かけください!」

「えっと、それなら早速なんですけど⋯⋯この子に似合う、レディースのボーイッシュな服を何点か見繕ってもらいたいんですけど⋯⋯」

「ボーイッシュ!(男の娘!!!!コーデしてもいいでござるか!?!?)」

「良いの、ありますか?」

「もちろんです!!!お任せください!!!(腕がなるでござるなぁ!!!!)」


 店員さんはテンションを上げながら、服を探しに売り場へ向かって行った。


「あの、僕完全に置いてけぼりなんですけど⋯⋯」

「うん、今日は諦めた方が良いと思うよ?」


 そして優希くんのお着替えラッシュが始まった。

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