226:ゆかちゃんを祝いたい人達

「ぐぬぬぬぬ⋯⋯」


 私、月野恵は考えていた。


「どうすれば優希先輩を祝える⋯⋯?」


 既に当日の予定は入れられてしまった。


「かと言って直接プレゼントを渡しに行けば確実にストーカー認定されちゃう⋯⋯」


 好かれたいとは思えど嫌われたいなんて思う人なんて絶対いない。

 だからこそ、今現在の好感度が低い状況で無茶をするのは危険。


「⋯⋯学校で渡す?」


 そうすれば、少なくとも違和感だとかそう言ったものは感じないはず。


「でもそうすると、あげられるものが限られちゃう⋯⋯か」


 ちょっとしたお菓子なんかでも学校でバレると結構言われたりする。


 言われないお菓子で典型的な物を言うならば飴くらいだろうか。


「今更飴をプレゼントしたところで他の人のあげるであろうプレゼントを想像すると、弱い⋯⋯」

「帰るときにプレゼントは私なんて言うのは⋯⋯いや絶対引かれるのが目に見えてるよ⋯⋯」


 どうすれば良いんだろう⋯⋯


「⋯⋯いや待って?」


 だったら素直に言えば良いんじゃ?


「たまには素直に言ってみるのも手、なのかも」


 そう思った私は、ふわり先輩こと華先輩に話をしてみる事にした。


♢(空木華視点)


「ふぅ⋯⋯今日はそろそろまったりしましょうか⋯⋯」


 配信を終えた私は、軽く強張った身体をストレッチしながらそう呟いた。


 すると、突然いまなんじのサーバーのメンバーから連絡がきた事を告げる通知音がスマホから鳴り出した。


「相談事ですかね?

 誰だろう、綾乃ちゃんだったら電話してくるだろうし⋯⋯」


 とりあえず出てあげないといけないと思った私はスマホを手に取ると、そこに表示されていた名前を見て、一瞬嫌な予感を感じた。


「繋ちゃん⋯⋯ですか」


 でもこのサーバーを経由して連絡したと言う事は相談事の可能性もある訳で、無下には出来ません。


「もしもし⋯⋯」


 勇気を振り絞って私はVCに入った。


「あっふわり先輩、こんばんは。

 少し相談がありまして⋯⋯」


 私の知っている繋ちゃんの雰囲気とは違う声色の女の子の声が聞こえる。


「えっ? 誰ですか?」

「ひ、酷いですねふわり先輩!?

 繋ですよ、つ、な、ぐ!」

「そんな、一般人みたいな喋り方出来たんですか!?」

「えっ、ボクそこまで酷い扱い受けてたんですか!?」

「あの、繋ちゃん、いまなんじのファン達から付けられた二つ名、知ってますか?」

「えっ、そんなのあるんですか?」

「あるんですよ、ちなみに私はいまなんじのヤベーやつです」

「ふふっ、ヤベーやつって何ですか!」


 繋ちゃんらしき女の子は少し笑いながらそう返事をしてくる。


 ⋯⋯あれ? 普通に話す分には悪い子じゃない?


「それでふわり先輩、ボクの二つ名は何なんですか?」

「いまなんじの狂犬」

「へっ?」

「いまなんじの狂犬です」

「ボクそんなに酷い事しましたかね?」

「いまなんじのロリ、ショタ担当にあれだけ熱烈なラブコールを送ったらそりゃそう言う扱いを受けますよ」

「⋯⋯はぁ、そこはまぁいいです」


 少しショックを受けた様子の繋ちゃんは話を一旦止めた。


「それで改めて、通話繋いだ理由なんですけど、ゆかちゃんのお誕生日配信、ボクも混ぜて貰えませんか?」

「えっ」


 どこでその話を知ったんでしょうか!?

 私は情報を漏らさないように徹底してたはずです!


「ど、どこでその話を⋯⋯?」

「ゆかちゃんに直接聞きました。

 その日は予定が入ってるって」

「な、なるほど⋯⋯」

「その、邪魔をするつもりは無いんです」

「えっ?」


 想定外の言葉が出てきて変な声が出てしまった。


「実はですね、ボクはゆかちゃんと同じ高校に今通ってるんです」

「羨ましいッ!!!!!!」

「ふふっ、良いでしょう!

 ボクの唯一マウント取れる所です!」

「⋯⋯とまぁ、一旦それは置いておいてですね、学校だとプレゼントとかってあんまり持っていけない訳ですよ。

 精々が飴ちゃんくらいです」

「⋯⋯あ、なるほど」


 ゆかちゃんにプレゼントを渡したい、けど出来れば当日に渡したい。


「学校の後にやるオフコラボなので時間が短めなのは理解してます、だけどボクはゆかちゃんにプレゼントを贈りたいんです!」

「ちなみにどんな物を贈るつもりなんですか?」

「最初はボク自身がプレゼントとか考えましたけど、引かれるのは目に見えてるので、ゆかちゃんが喜びそうな物で考えてます」

「それやったら絶対に印象悪くなるんで正解ですよ」

「で、ですよね⋯⋯」

「と言うかゆかちゃんが最悪捕まります」

「⋯⋯法律なんて捻じ曲げれば良いんですよ?」

「サラッと怖い事言わないでください」

「⋯⋯まぁ、冗談ですけど」

「今の間は何ですか!?」

「とりあえず、ボクとしてはプレゼントをあげるタイミングでサプライズで登場だけで良いので、許可して欲しいんです」

「⋯⋯わかりました、でも他の参加予定の人達から許可が出たら、ですよ?」

「お、お願いします、ふわり先輩!」

「とりあえずまた明日には結果を教えるので待っててください」

「はい!」


 そして通話が切れると、私は少し考えた。


「料理だけだと繋ちゃんのあげる物次第でインパクトが変わりますね、何か考えておかないと⋯⋯」


 そう一人呟きながら綾乃ちゃんと薫さんにさっきの話を要約した内容のメッセージを送った。


 結果? ゆかちゃんを祝いたい気持ちに貴賎無しって事でOKが出ました。


 意外とライバルに寛容なんですよね、私達。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る