216:先輩とコスプレイベント!④

 優希くんに似た子がやけに色気を感じる衣装を着た女の人と歩いているのを見つけた私は、たまたま近くにいた女の子が知り合いのようだったので声をかけてみたらまさかのビンゴ。


 あの魔女のような格好をした子はやはり優希くんだったみたい。


 そしてそんな優希くん達を尾けていた女の子は、優希くんのクラスメイトの香月美由紀ちゃんと言うらしい。


 話を聞いてみると、優希くんが自分の働いているコスプレ衣装の販売店に衣装を買いに来た事で、優希くんが今日イベントに参加することを知ったのだとか。


「どこかで見たことある気もするんだけど⋯⋯」

「あの綺麗な女の人ですか?」


 私が呟くと、美由紀ちゃんはそう聞き返してきた。


「うん。 優希くん絡みで見たような気がするんだけど⋯⋯流石に覚えてない、かな」

「あっ、お団子買ってる」

「なんか普通にこのお祭り楽しんでるだけに見えて来たのは私だけなのかな⋯⋯」


 普通に友人と楽しんでいるようにも見えるその光景を見て、なんだかこんな事をしている私はいけない事をしている気がして来た。


「そう言われると罪悪感湧いてきました⋯⋯」

「だよね⋯⋯」

「さ、最後に少しだけ近付いて誰かだけでも思い出したら、離れようか」

「そうですね⋯⋯」


 私が美由紀ちゃんにそう提案すると、美由紀ちゃんも納得したのか頷いてくれた。


♢(優希くん視点)


「あっ先輩、こっちに美味しそうなお団子屋さんありますよ!」

「お団子かぁ、良いね。

 普段あんまり食べないから久しぶりに食べてみようかな」


 僕の視界に昔からやっていそうな雰囲気のお団子屋さんを見つけた僕は、先輩に一本どうか聞いてみた。


 すると先輩も良いねと言ってくれたのでメニューを見てみる事に。


「しょうゆ、みたらし、あんこ、きなこがあるみたいですよ!」

「きなこは服に着くと怖いからあんこかしょうゆにしようかな?」

「僕はあんこにしようと思います!」

「じゃあわたしも!」

 あんこのお団子に決めた僕達は店員のお爺ちゃんにあんこのお団子を二本お願いするとあんこがたっぷり乗ったお団子が渡された。


「串はここに入れればいいみたいですし、ここで食べちゃいましょうか!」

「だね、串持って歩くのも怖いしそうしよっか!」


 そして出来立てのほのかに温かいお団子を食べると、優しいあんこの甘さに少ししょっぱさを感じるもちもちのお団子という、最強の組み合わせに幸せを感じずにはいられなかった。


「美味しいですぅ⋯⋯」


 思わずふにゃっとした声を出すと、店員のお爺ちゃんが少し嬉しそうな顔をした。


「ッ! ほ、本当に美味しいね!」


 先輩は僕の顔を見ながら顔を赤くしてそう言った。


「先輩、顔赤いですけど大丈夫ですか?

 風邪とか引いてないですか?」

「う、うん大丈夫!(優希くんの今の顔と声が可愛いすぎただけだなんて言える訳無いし⋯⋯)」

「なら、良いんですけど⋯⋯」


 そんな事を言っている間にお団子はすぐに無くなってしまった。


 名残惜しいけど、まだ色々食べてみたい気持ちがある僕は、もう一本と言いたい気持ちを抑えて、先輩とまた歩き始めた。


 大須のアーケードをちらちらと周りを見ながら歩いているとやけに視線を感じた。


 周りにいる人達が僕達の事を見ているのかな、と思っていると、たまに声をかけられて写真撮影をお願いされたりした。


 でも、なかなか勇気が出ないのか声をかけるか迷う様子の人がちらほら見られたから、先輩に声をかけてその方向に視線を向けてあげると嬉しそうな様子で写真を撮る人がいた。


 男だらけかと思っていたけど、意外と女の人のカメコもいるみたいで、ちょっとびっくり。


 でも、分かるよ。


 先輩凄く綺麗だもんね、思わず写真の一つでも撮りたくなっちゃうよね。


 そして歩いているうちに気になるお店が一瞬視界に映った僕は少し後ろを振り向いた。


 すると視線が合った。


「あ、あれ? 何で、薫さんと香月さんがここに?」


 そう、僕の視線の先には何故か、薫さんと香月さんがいたんだ。


♢(遊佐薫視点)


「え、えっと⋯⋯」

「ど、どうしましょう!?」


 私達は優希くんの隣が誰なのかを把握するために少し近付いてしまった。


 そしてその結果⋯⋯


「あ、あれ? 何で、薫さんと香月さんがここに?」


 優希くんと視線が合ってしまった。


「や、やっぱり優希くんだったんだね」

「優希くん、偶然だね!!??」


 思わず変な事を口走ってしまった。


 もしこれでストーカーだと思われて嫌われたらどうしよう、そんな事で私の頭の中は一杯になっていた。


「優希くん、どうしたの? ってゆるママさんじゃないですか!?」

「⋯⋯あれ? この声に私の呼び方、もしかしてHaruちゃん!?」

「お久しぶりです!」

「Haruって、あのモデルのHaruさんですか!?」


 優希くんの隣にいたのは以前GloryCuteでの優希くんと姉妹コーデ特集で一緒に撮影をしていたHaruちゃんだった。


 美由紀ちゃんは目の前にいる人が想像以上の大物で驚いているようだった。


「⋯⋯と言う事は、二人とも先輩絡みでここにいたりするの?」


 ふとそんな疑問が私に浮かんできた。


「違いますよ! 今日は先輩に誘われたのでここに遊びに来たんです!」

「なるほど、だからその衣装なんだ⋯⋯」

「流石に個人的に着る物をお願いするのは気が引けたので⋯⋯それにしても何で香月さんと薫さんが一緒に?」

「えっと、たまたま意気投合してね!

 この子ファッション関連に興味があるって言ってたから先輩に紹介しようかなって思ってたんだ!」

「えっ」


 ごめん、美由紀ちゃん、こうでもしないと誤魔化せない。


「なるほど! 香月さんコスプレとか大好きで自分で衣装作るくらいって言ってたから良いかもしれないね!」


 優希くんの真っ直ぐ応援するような笑顔に罪悪感が湧いてくる。


「それにしても良く僕って分かりましたね?」

「えっと、優希くんがうちの店に来たでしょ?

 だから私はすぐに気付いたんだよ!

 ただ、誰かと一緒にいるっぽかったから声がかけれなくて⋯⋯」

「なるほど⋯⋯って薫さんも気付いてたんですか?」

「それっぽいなーとは思ってたけど、流石に本人かは分からなかったよ?」

「よ、よかった⋯⋯クラスメイトとかにモロバレだったらと思うとヒヤッとしましたよ⋯⋯」


 上手く誤魔化せたみたいで良かった。

 でも、クラスメイトの目を気にする割には結構ガッツリ顔出ししてるよね、優希くん⋯⋯


 少し優希くんの今後を不安に思いつつも邪魔するのは悪いと思った私は美由紀ちゃんを連れてこの場を離れる事にした。


「それじゃ、私は美由紀ちゃんとゆっくり話をしないといけないから、またね優希くん」

「また学校で会おうねー!」

「はい! 薫さんも香月さんも気を付けてくださいね!」

「ゆるママさん、またお会いする事があったらよろしくお願いします!」

「こちらこそ、それじゃまたね!」

「ばいばーい!」


 手を振りながら私達は優希くん達から距離を取った。


「あ、危なかった⋯⋯」

「ま、まさか優希くんがHaruさんとプライベートでも会う関係だったなんて⋯⋯」

「あれ? 美由紀ちゃんは知らないの?」

「何がですか!?」

「Haruちゃんって美由紀ちゃんも通ってる学校の今年の卒業生だよ」

「えっ、でもそんな人いたら学校で噂になってもおかしくないような⋯⋯」

「あ、先輩曰く普段は地味な格好してるって言ってたし、目立たないようにしてたのかも」

「なるほど⋯⋯ってそう言えば、さっきの話は一体どう言う事ですか!?」


 美由紀ちゃんは軽くパニックを起こしているみたいで私はゆっくりとさっきの内容について説明してあげる事にした。


「そう言えば優希くんが言ってたけど、自分で衣装を作ったりするって本当?」

「はい! デザインからする事もあるんですけど、流石にゆるママさんには勝てないですよ」

「ちょっと見せて貰えたりする?」

「良いですよ!」


 そう言ってスマホを取り出した美由紀ちゃんは私に今まで作ってきた衣装を見せてくれた。


 素人の作った物にしてはかなりクオリティが高い。


「これなら、本当に先輩に紹介してもいいかも」

「えっ!? 私をGloryCuteにですか!?」

「うん、絶対とは言えないけど」

「ぜ、是非お願いします!」


 優希くんを誤魔化すつもりで言った一言がまさか本当の事になるなんて私は思いもしなかった。

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