195:またね
「ねぇ優希くん」
先輩が突然僕の顔を真っ直ぐ見つめながら言った。
「先輩、どうかしましたか?」
「あのね、まだ夕方だけど、優希くんってまだ時間あったり、する?」
「今日は予定入れてないので大丈夫ですよ!」
不安そうな顔をしながらそう僕に言った先輩だったけど、僕が返事をすると笑顔になった。
「良かった。 あのね、えっと、その、ね」
「?」
僕は思わず首を傾げると先輩は深呼吸をした。
「そう、お腹、お腹空いてこないかなって!」
「良いですね!どこか行きますか?」
お腹が減ったと言う事が相当恥ずかしかったのか先輩は顔を赤くしながらそう提案してきた。
「あっ、それなら良いお店があるからちょっと待っててね!」
「はい!」
「えっと、あっちの方⋯⋯かな?
とりあえず行ってみよっか、優希くん」
「了解です!」
先輩は地図を見ながら歩き始めると知っている道に出たのかスマホを見ずに歩き始めた。
だけど移動中している途中、先輩は何故か顔を赤くしたまま僕の前を歩いていた。
「あっ、あそこだ!」
先輩と歩く事十分ほど、先輩が突然そう声をあげると目的のお店に到着したみたいだった。
「ここ、スイーツが美味しいって評判のイタリアンなんだって」
「イタリアン、良いですね!」
ただお店が死ぬほどお洒落なんだけど、僕浮いてないかな⋯⋯?
「予約してないけど、大丈夫かな⋯⋯」
「あっ、そう言えばこう言うところって予約いる場所多いんでしたっけ⋯⋯」
「ダメだったら他探そっか」
「ですね!」
そして二人でお店に入ると運良く席が空いているとの事で通してもらえた。
「ふぅ、おすすめしておいて入れなかったらどうしようかと思ったよ⋯⋯」
「ふふっ、先輩でもそんなミスしちゃうんですね?」
「わたしだって超人じゃないんだよ?」
「先輩って結構何でもそつなくこなすイメージがあったので⋯⋯」
そんな話をしていると店員さんがメニューを持って来てくれたから、僕たちはメニューをじっくりと見ると食べたい物を注文した。
「ちょっと手を洗ってくるね!」
「はい!」
注文が終わり、そう言うなり先輩は席を立った。
先輩が戻って来るまで僕はこのお店の雰囲気に当てられそわそわとしていた。
♢
「わたしのへたれええええ!!」
わたしはトイレの中で小さく叫んだ。
「あの時、勢いに任せて言っちゃえば良かったのにタイミング逃しちゃったせいで今更言い出せないよ⋯⋯」
「どうしよう⋯⋯」
そしてわたしはこのお店のトイレの構造を見るとふと気が付いた。
「個室、防音タイプ⋯⋯?こうなったら⋯⋯」
わたしはすぐにマネージャーに電話をかけた。
「マネージャー、助けてください⋯⋯」
『あら、どうしたの遥ちゃん』
「わたしはヘタレなんです⋯⋯
優希くんに一言伝えるだけなのに言えない超絶ヘタレなんです⋯⋯」
『うん、なんと言うか状況は察したわ。
難しく考えなくても良いと思うのだけど』
「⋯⋯と言うと?」
『正直、優希ちゃんと縁が切れる訳じゃないわよね?会う機会ならウチとコラボする限り何回もあるはずよ』
「⋯⋯下手に告白して疎遠になるくらいなら現状維持も手って事ですか?」
『それもあるわね。
それと優希ちゃんはまだ十七歳よ?
他の子もまだ手を出して来るとは思わないわねアタシは』
「一年はチャンスがあるって事ですか?」
『あくまで、可能性の話よ?
かといって油断してたら一瞬で持っていかれる可能性もあるわね』
「どうすればいいんですかあああああ」
『正直アタシもアドバイスが出来るほど経験がある訳じゃないもの⋯⋯』
「⋯⋯それは仕方ないですね」
『あら一瞬の間は何かしら?』
「き、気のせいですよ?」
『そう? まぁ、そうね。
アタシから出来るアドバイスとしては次の会う予定を今のうちに作っちゃう事かしら』
「でも、撮影の予定なんてそこまで先は分からないですよ?」
『近いうちに予定入れなきゃ意味がないわよ?
その間にアナタのライバルは優希ちゃんにもっと近付いていくはずよ?
決着の時は優希ちゃんが卒業する時とアタシは見てるわね』
「優希くんが卒業する時⋯⋯」
『それと、アタシは大丈夫だけど、あまり長いと優希ちゃんが心配するわよ?』
「あっ、そ、そうでした!」
『まぁ、頑張って頂戴。
もし上手くいったら優希ちゃんをうちのモデルになるように説得でもお願いしちゃおうかしら?』
「うっ、が、頑張ります」
『冗談よ、冗談。
それじゃ、頑張るのよ』
「⋯⋯ありがとうございます、マネージャー」
『アナタのメンタルの管理もアタシの大事なお仕事よ? だから気にしないで。
それにアナタが悲しんだり悩んでる姿はあまり見たくないわ』
優し気な声でマネージャーがそう言うと、通話は切れた。
わたしはスマホを少し触り、考えた。
「ちょっと焦りすぎてたのかな、わたし」
スマホで時間を見て冷静になったわたしは手を洗い、席へ戻ろうと優希くんの待っている席へと視線を動かした。
そこには店の雰囲気に呑まれたのかそわそわとしている優希くんの姿があった。
「⋯⋯なにあの可愛い生き物」
とりあえず不審に思われないようにそのまま席に戻ろうかな?
「優希くん、お待たせ」
「はっ、はい!?」
優希くんはわたしに気が付いていなかったのかちょっと声を裏返しながら返事をした。
「先輩だったんですね。
急に声かけられたから、びっくりしました⋯⋯」
「ガチガチだね優希くん、こう言うお店には慣れてないのかな?」
「えっと、その、まず来ないので⋯⋯」
「ふふっ、緊張しちゃってるんだ」
「恥ずかしいですけど⋯⋯」
そんな優希くんの反応だけでお腹いっぱいになりそう。
「そ、そのこう言うところであんまり趣味の話ってし辛いと思うんですけど、何を話せばいいのか⋯⋯」
「ふふっ、いつも通りで良いと思うよ?
周りの迷惑にならない程度なら、だけどね?」
「そうですか⋯⋯?」
「うんうん!
ちなみに優希くんは最近何かハマってるものとかあるのかな?」
「ありますよ!
最近サービスの始まったオンラインFPSがすっごく楽しいんです!」
「だから最近そのゲームの配信が多いんだね?」
「うっ、やっぱり多いですよね⋯⋯」
「楽しそうに遊んでるところが可愛くて良いと思うよ?」
「動画とかは別の事やるようにはしてるんですけど⋯⋯それと可愛いんですか⋯⋯?」
「凄く可愛かったよ! 敵を倒して嬉しそうに声を出す時とか、優勝というか一位取った時とかものすごく嬉しそうに喜んでたし、その部分が可愛かったよ?
それと別の事だったら⋯⋯その、今度一緒にコスプレのイベントとか行ってみない?」
「コスプレのイベントですか?」
「うん、そこそこ大きいイベントみたいなんだけど、わたしコスプレはしたこと無くて、でもちょっと興味あるんだよね」
トイレを出る前に休みの日を調べて優希くんが興味を持ちそうなイベントを探しておいたからそれなりに自然に話を持っていけたと思う。
自然、だよね?
「えっと、いつですか?」
「ちょっと待ってね⋯⋯今月の第四日曜日だね」
「結構先ですね、だったら大丈夫です!」
「ほ、本当?」
「はい!」
マネージャーさんの言う通りにしてみたら優希くんからOKが出た。
これでまた、優希くんに会える!
「約束だよ?」
「破らないですよ!?」
「だって優希くん、最近忙しそうだし⋯⋯」
「約束はちゃんと守りますよ!」
「えへへ、じゃあ楽しみにしてるね」
「大きいイベントだとコミケ以外は岐阜の小さなイベントだけだったのでちょっと楽しみです!」
優希くんが言い終わるとほぼ同時に料理が目の前に運ばれて来たからわたしと優希くんは料理を食べ始めた。
♢
「美味しかったね優希くん」
「はい! パスタもスイーツも美味しかったです!」
お会計は優希くんがわたしへのお祝いだから全部払うと言って聞かなかったけれど、今回はわたしからお願いして折半にしてもらった。
奢って貰うのが当たり前みたいに思う人もいるだろうけど、本当はわたしが奢ってあげたいんだ。
それは絶対拒否されちゃうだろうけど⋯⋯
そしてお店を出たわたし達は駅で分かれて家に帰る時間に。
「ねぇ優希くん」
「どうしたんですか?」
「また、今日みたいに遊びに行こうね」
「はい!僕なんかで良ければ!」
優希くんは笑顔でそう言った。
「それじゃ先輩、おやすみなさい!」
「優希くんもおやすみ!」
「それじゃあまた!」
「うん、
優希くんからすれば今のわたしはただの先輩や友達って思ってるかもしれない。
だけどわたしは、諦めない。
少しずつでも優希くんにわたしを意識させるんだから!
そんな事を思いながらわたしは優希くんを見送った。
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