188:薫さんの相談
今日は土曜日、バイトが終わった僕は薫さんとの待ち合わせ場所に向かっていた。
「えっと、モ○ド学園の方向だから⋯⋯こっちだよね?」
普段とは違う集合場所で、あまり場所を理解していなかった僕は、少し焦りながら歩いていた。
「あっ、良かったこっちで合ってた!
えっと、薫さんは⋯⋯あそこかな?」
目的の場所に到着した僕は、薫さんらしき人を見つけた。
周りにはそこまで人がいないし薫さんで間違いなさそうかな?
「薫さん、お待たせしました!」
「あっ、優希くん。
私もさっき来たところだから大丈夫だよ」
「それなら良かったです!」
僕が声をかけると笑顔でそう返してくれた。
「それじゃ、予約の時間までもうちょっとだから移動しよっか」
「はい!」
そして僕は薫さんの案内でカフェへと移動することに。
しばらく移動すると、お店に到着したんだけど、外見からお洒落で少し気後れしてしまう。
「ここだよ」
「ここ、ですか」
「私も数回家で作業するのが辛かった時なんかに使ってた場所で多少の話し声なら周りに聞こえないからおすすめなんだよ」
「なるほど、個室のカフェって実は初めてなので少し楽しみです!」
「ふふっ、それは良かった。
それじゃ、入ろっか」
「はい!」
店内へ入り予約していた事を店員さんに伝えると直ぐに席へと案内された。
「ふぅ、とりあえず教えてもらう前に何か飲み物と軽食でも頼もっか」
「そうですね、流石に飲み物だけって言うのもやらしいですし、何か美味しそうなデザートとか⋯⋯あったらいいなぁ、なんて」
カフェといえば美味しいデザートを期待しちゃうのは仕方のない事だと僕は思うんだ。
「それならここはパンケーキが美味しいみたいだよ? あと飲み物はタピオカとかも人気あるらしいね」
「パンケーキにタピオカ⋯⋯良いですね。
あっ、いちごみるくあるんだ⋯⋯これにしようかな」
「ふふっ、じゃあ私はアイスティーとパンケーキのプレーンにしようかな?」
「僕はせっかくなのでタピオカイチゴミルクとパンケーキのクリーム乗ってるやつにします!」
そう僕らが言うと席に置いてあったタブレットから注文。
「パンケーキは来るまでに時間かかるから、早速で悪いんだけど、話の方いいかな?」
「はい、と言うよりも実は僕もアドバイス出来る事って大した事無いと思うんですけど、僕なんかで良いんですか?」
「うん、と言うか、実はある程度やりたい事って言うのはあるんだ」
「えっ、そうなんですか?」
まさかの発言に少しびっくりしたけど、僕はもう少し話を聞くことにした。
「配信に限ってだけど、イラストを描く所を配信したいなって思ってるんだ」
「確かにたまに絵師さんがそう言う配信してる時ありますね!」
「そうなの、少し前から興味はあったんだ。
だけど、流石に仕事関連のものの作画とかは見せられないし、どうするのが良いかなって思ってて⋯⋯」
「うーん、リスナーさんに聞いてみるとかって言うのはありだと思いますよ!」
「リクエスト、かぁ」
「ですね! それこそ収益化とかまでいけたらスパチャの人のリクエストを優先的に描いたりしても良いと思いますし、やり方は人それぞれだと思いますよ!」
「うん、私も同じような事考えてたし、優希くんもそう言うなら配信についてはその方向性で良さそう、かな」
「他に何かありましたか?」
僕がそう薫さんに聞くと、薫さんはちょっと戸惑った様子で言った。
「えっと、動画ってどんなものを投稿すればいいのかな?
私は優希くんみたいに料理したり、顔出ししたりするようなタイプの人間じゃないし⋯⋯ね?」
「えっと、それだったらやった事のないゲームの初見プレイ動画とか、配信中にあった面白い事を切り抜いて少し編集を加えたりした動画なんかは多いと思いますよ!」
「なるほど、別に優希くんと全く同じにする必要なんて無いもんね⋯⋯」
「そう言う事ですね!
あっ、でも、絵の描き方講座なんかも需要ありそうな気がします!」
「絵の描き方講座⋯⋯かぁ、確かにそう言うのたまに言われるけど、私うまく教えられるかなぁ⋯⋯」
「確かに何かを教えるのって難しいですよね⋯⋯いっその事何も考えないのもいいかもしれないですよ?」
「何も考えない?」
「これやらなきゃとかあれやらなきゃって考えずに自分が面白いんじゃ?と思った事を動画にするんですよ!」
「なるほど⋯⋯」
薫さんは少し考え込んでいるようで、相槌を打つと考える事に集中し始めたみたい。
「あっ、そうだ」
「⋯⋯? どうかしたの?」
僕がそう言うと、薫さんは僕を見ながら首を傾げた。
「えっと、Vtuberやるにあたって自分の演じるキャラみたいなのがあるならそれを考えておくのも良いと思いますよ!」
「演じるキャラ?」
「例えば華さんみたいな」
「なるほど。
確かにあの子普段のイメージと配信の時のイメージが全然違うもんね」
「まぁそれを言っちゃうと僕もなんですけど⋯⋯」
「そう言われるとそうだね⋯⋯だったら私は優希くんに会う前のあの感じで行こうかな」
「えっと、あのちょっと男の人っぽい喋り方ですか?」
「だってああした方が面倒な人達に絡まれにくかったから⋯⋯」
「確かにSNSだと女の人って分かるとダルい絡み方する人っていますもんね⋯⋯」
「そうそう」
「でも喋り方変えるのはありだと思います!」
「じゃあそれでやってみようかな?」
「僕も協力出来ることはするので何でも言ってくださいね!」
「何でも?」
薫さんがそう言うと突然寒気が僕の背中を走った。
「え、えっと、じょ、常識的な範囲なら⋯⋯」
「だよね」
「むしろ僕に何をさせようとしてたんですか!?」
「⋯⋯」
「何か言ってくださいよ!?」
「えっと⋯⋯その⋯⋯絵のモデルになって欲しいとか⋯⋯そう言うの⋯⋯」
「絵のモデル?」
「何でもって言うから、ちょっとそう思っちゃって⋯⋯」
「それくらいなら良いですよ?」
「えっ、本当!? 女装姿でも!?」
「えっ」
僕はしまった、と思った。
女装姿をモデルにされるのは流石に恥ずかしい。
「いや、流石に女装姿は⋯⋯」
「やっぱり、そうだよね⋯⋯」
かなりしょんぼりした様子で薫さんはそう言った。
こんなにしょんぼりされると、なんだか心が痛くなってくる。
「一日だけ、なら⋯⋯」
僕は何を言ってるんだろう。
悲しげな姿の薫さんを見ると何故か断れない。
「ほ、ほんと?」
子供のような良い笑顔で僕に聞いてくる薫さん。
こんな顔されると、嫌なんて言えないよね。
「は、はい⋯⋯」
もうこれで後に引けなくなっちゃった。
「じゃ、じゃあさ、初めてのコラボの時、優希くんをモデルにしながら絵を描く配信とか、どうかな?」
「えっ」
「凄く斬新だと思うの」
「確かに、斬新ではありますけど⋯⋯」
「じゃあ初コラボの時はそれで!」
「は、はい⋯⋯」
「優希くんに合う良さげな服買って用意しておくね!」
「はい⋯⋯」
僕は遠い目をしながら返事をした。
それから間もなくして、パンケーキとドリンクがテーブルに運ばれてきた。
現金なようだけど、目の前に美味しそうなパンケーキが現れてさっきまでのテンションが下がり気味だった僕のテンションは最高潮になっていた。
「クリームたっぷりで美味しそう⋯⋯」
「ここのはふわふわで本当に美味しいんだよ」
「本当ですか? ふわふわのパンケーキ大好きなんです!」
「ふふっ、あんまり時間経っても良く無いし、ささっと食べちゃおっか」
「ですね!」
「「いただきます!」」
僕達はそう言うと、ナイフとフォークを使って食べ始めた。
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