177:もうすぐテスト!?

 休みが明けまた訪れた週末、僕は放課後に荷物を纏めつつ裕翔と話をしていた。


「なぁ優希、そういや来週から学期末テストだけど勉強は大丈夫か?」

「うん、僕は毎日コツコツやってるからそこまで心配はしてないよ」

「まぁ優希ならよっぽど大丈夫か」

「少なくとも赤点取った事は無いからね!」

「ハハッ、そう言われるとそうだな」


 そんな話をしてふと僕は思い出した。


「あっ」

「どうかしたか?」

「テストと言えば試着の予定いつだったっけ⋯⋯メール来てるかな?」

「試着?」


 実は二日前に薫さんからとうとうコラボ衣装の試作品が出来上がったと連絡を貰っていて、近いうちに日程をメールで送るね、って言われていたんだ。


「うーん、まだあんまり情報は出せないんだけど、GloryCute絡みのあれだよ」

「なんか、優希は普通に言うけどさ、あそこって女性向けメーカーなんだが」

「⋯⋯裕翔」

「お、おう」

「慣れって⋯⋯怖いよね」

「せ、せやな」

「まぁいいや、とりあえずメール確認しとこっと」


 そう言いながらスマホでメールを確認した僕は、メールが丁度今日のお昼頃に届いていた事を知った。

 そしてその日がもうすぐだったと言う事も。


「あっ、来週末だった」

「オイオイ、もうすぐじゃねぇか」

「⋯⋯まぁ、なんとかなるよね?」

「テスト前にやるよりはマシか」

「だね!」


 そして話をしながら移動する準備が整った僕達は教室を出た。


「それじゃ僕は部活に寄ってから帰るから、裕翔も部活頑張ってねー」

「おう!優希もお疲れさん!」


 廊下で裕翔と分かれた僕は、最近また通うようになった文芸部の部室へ向かった。


「先輩おはようございます!」

「あっ、優希くんおはよう!」


 部室へ入るといつものように先輩は本を読みながら椅子に座っていた。


「先輩、そう言えばもうすぐ試験らしいですけど大丈夫ですか?」

「うん、授業とかはしっかり聞いてるし、毎日少し復習とかもしてるから悲惨な事にはならないと思うよ。

 そう言う優希くんは大丈夫かな?」

「あはは、僕も先輩と似たようなものですよ」

「ふふっ、テスト前に慌てるのは好きじゃないから、毎日やってて良かったってなる瞬間だよね」

「クラスメイトが慌ててる中自分だけ余裕があるのってちょっと悪い気がしなくもないですけど⋯⋯」

「普段頑張ってる特権だよ?」

「分かってはいるんですけどね⋯⋯」

「ふふっ、優希くんらしいね」


 そんな裕翔としたような話をすると、僕達は読みたい本に集中し始めた。


 しーん、という音が聞こえそうなくらい静かな部屋の中で本を捲る音が時折聞こえる。


 どれくらい時間が経っただろうか。


 ふと、先輩が僕に声をかけた。


「ねぇ、優希くん」

「どうかしましたか?」

「実はマネージャーが話してるところをちらっと耳にしたんだけど、優希くんまたうちと何かコラボするんだよね?」

「そう、ですね」

「その後マネージャーに直接聞いてみたんだけど、来週に優希くんがうちの会社に来るって聞いたんだ。

 それで試作の衣装の試着をするって聞いたんだけど、たまたま、わたし、休みなんだよねその日」


 僕は先輩の言いたいことをなんとなく察した。


「だからさ、わたしも優希くんの新しい衣装見てみたいんだけど、優希くんが良いなら行ってもいいかな?」

「ま、まぁ、断る理由は⋯⋯無いですけど⋯⋯」


 問題点があるとするなら、恥ずかしいって事くらいかな?


「良かった、断られたらどうしようかと思ったよ」

「だって、断る理由も無いですし⋯⋯」

「優希くんは優しいから言わないだけかもしれないけど、一応動画で出すまで待って欲しいって言えば良いと思うんだけどね」

「赤の他人だったらそう言いますけど、先輩は一応、その、仲の良い人だから、って言うか⋯⋯」

「そ、そっか⋯⋯

 その、わたしとしては、優希くんにそう思われてると、嬉しいって⋯⋯言うか⋯⋯」


 先輩は小さな声でごにょごにょと恥ずかしそうに何かを喋っている。


「先輩?」

「どっ、どうしたのかな!?」

「あの、その、声が小さくて良く聞き取れなくて⋯⋯」

「そ、そっか、でも大丈夫! 大した事じゃ無いから!」

「そうですか?」

「う、うん!! 大丈夫!!」


 先輩はちょっと焦った様子でそう言った。


「そういえば優希くんって、ゆるママの看病しに行ったらしいけど、やっぱりVtuberってママとは良く絡むのかな?」


 先輩は話題を逸らすように僕にそう聞いてきた。


「うーん、他の人は良く分からないですけど、僕の場合はかなり、かなりって言葉で言い表せないくらい良くしてもらってる、と思いますよ」

「やっぱり、そうなんだね」

「やっぱり?」

「ううん、なんでもないよ」


 先輩がそう言った瞬間、突然先輩のスマホが鳴った。


「あっ、お迎えが来たみたい。

 わたしはこれで帰るけど、優希くんも帰る?」

「あっ、僕も帰ります!」

「それじゃ、鍵はわたしが返してくるね」

「僕が行きますよ? 急いで無いですし!」

「じゃあ、お願いしてもいい?」

「はい!」


 僕は先輩から鍵を預かり、その場で先輩と分かれ、職員室へ向かい、鍵を返却した。



 わたしは部室から迎えの車の停まっている場所まで歩いている間に考え事をしていた。


「やっぱり、ライバルはゆるママさんかぁ⋯⋯」


 優希くんの配信での雰囲気や、コミケでの話なんかも考えると間違いなくゆるママさんは優希くんの事が好きなんだと思う。


 わたしと同じで、グイグイ行けていないだけ、だと思う。


 でも、前のピヨッターでのあのやり取りなんかを考えると、わたしと優希くんの一年間の関係も追い抜かされてしまったようなくらい距離が縮まっている気がする。


 それに、ゆるママさん、かなりの美人さんだし、うかうかしていられない。


「わたしももっと積極的にならないと、なのかな?」


 でもそんな簡単に積極的になれたら、誰も苦労しないよね⋯⋯

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