144:閑話(優希くんの大冒険?)

「そうだ、いつも行くケーキ屋さん行こう!」

 今日は土曜日、学校もお休みで配信をするのも夕方からの予定。

 今バイトが終わったばかりの僕は帰り道にある、たまに寄るお菓子屋さんに行く事にした。


 そしてお菓子屋さんに到着した僕の目に入ってきたのは——

「レディースセット⋯⋯美味しそう⋯⋯」

 お店の今日のおすすめが書かれた看板だった。

 そこに書かれていたのは、レディースセットと書かれた小さめのスイーツ4点と、ドリンクで1000円と言うそれなりにお得なセットだった。


 このお店のスイーツはどれも美味しいけれど、一つ安くても500円はするので複数種類楽しむことが出来ないのが難点だった。


 でも!このレディースセットならそんな悩みも解決って訳だね!

 しかもこのセット限定のスイーツもあるから頼まない手はない⋯⋯でも僕男だから頼めないのは残念——


 と思ったけれどよく考えてみれば方法が無くもない事に気が付いた。


「(女装したら、いけないかな?)」


 僕は一度家へ帰り、シャワーを浴びてから女装をする事にした。


 初めてVtuber活動以外で女装をしてみたけど、思っていたより悪く無い⋯⋯かも。


「これなら、いけるかも」

 僕は鏡の前でうんうんと頷き、この格好で出かけることにした。



 僕は今ケーキ屋さんの前で女装をして、今、正にお店に入ろうとしていた。


 道中、人の目線が気になって仕方がなかったけれど、それは諦めたよ。

 だってケーキに勝るものなんてないんだから!


 このお店はお持ち帰り用のケーキ販売スペースの隣にカフェスペースがあって、カフェスペース側の入り口から僕は意を決してお店に入った。


「いらっしゃいませ、お一人様でしたか?」

「は、はい⋯⋯一人です⋯⋯」

 店員さんが案内をしてくれるけれど僕の内心は男とバレないかどうかでヒヤヒヤだった。


「ご注文は後の方がよろしかったでしょうか?」

 店員さんがそう言ったけれど、僕の心は一つ。


「えっと、こ、このレディースセットを⋯⋯一つで⋯⋯」

「っ!? れ、レディースセットですねっ!かしこまりました!」

 何故か店員さんが一瞬狼狽えたように見えたけどどうしたんだろう⋯⋯もしかしてバレちゃったのかな?


 それから店員さんが戻って行き、数分が経つとレディースセットが運ばれて来た。


 プレートの上にはフレジェ、ショートケーキ、チーズケーキ、イチゴのタルトが乗っていた。

 このフレジェと言うケーキ、なかなか扱っているお店が無いんだけど、本当に美味しいスイーツで、どうやらレディースセット限定のスイーツはこのフレジェだったみたい。


 前に東京に行って薫さん達と食べた記憶があるけど、ここのは凄くさっぱりとしていて食べやすかった。

 お店によって微妙に味が変わるのがケーキの面白いところだよね。


「ん〜♪美味しい〜♪」

 フレジェのバターカスタードクリームと中に入っているイチゴの絶妙な相性。

 食べるだけで幸せになっちゃう。


 それに他のケーキもとても美味しくて思わず笑顔になってしまう僕。


 気が付けばぺろりと食べきってしまい、惜しみつつも今日はこれでケーキはおしまい。

 食べ過ぎも体に良く無いから、また今度。


 そして帰ろうかな、と思った時テーブルの横に立ててあるメニューがふと目に入った。


「レディースセットは男性でも注文可能です⋯⋯その場合はバラエティセットとご注文ください? えっ?」

 僕は唖然として、それだったらこんな格好しなくても良かったんじゃ⋯⋯と思いながらお会計をして帰宅した。


 次は普通に頼むもん⋯⋯

 僕はそう心に誓った。



 私はとあるケーキ屋で働くアルバイト。

 今日はいつも通りの一日だったけど、ふとお店の前にいつもこの曜日に来る可愛いボーイッシュな女の子が来ていた。


 看板を見て何か決心したような顔をしていたけど⋯⋯どうしたんだろ?


 そして入ってくるかと思ったらまさかの帰っていっちゃった。

 結構あの子見るのが楽しみだったんだけどなぁ⋯⋯食べる時凄く可愛い顔するから癒しだったんだけど。


 そして少し時間が経ったころにふとお店に明るいイメージの女の子が入ってきた。

 水色がベースの袖にフリルのあしらわれたシンプルで、でも可愛いらしいワンピースを着た女の子。


 ⋯⋯なんか見たことある気がするんだけど、誰だったっけ?


 そして案内をしようと声をかけたら——


「いらっしゃいませ、お一人様でしたか?」

「は、はい⋯⋯一人です⋯⋯」

 なんとあのボーイッシュな子と同じ声だった。


 待って待ってあの子こんな可愛い格好もするの!?

 反則じゃない!?

 落ち着け、落ち着くんだ私。

 そう、素数、素数を数えよう⋯⋯


 でも素数なんて数える暇なく、私は彼女を席に案内し終わってしまった。


 そして注文が決まっているか聞くと——


「えっと、こ、このレディースセットを......一つで⋯⋯」

「っ!? れ、レディースセットですねっ!かしこまりました!」


 全てが繋がった。

 自分が男の子に見られてると思ってわざわざこの子は可愛い格好をしてきたんだ。


 何この子、可愛すぎるんだけど!?

 い、妹に欲しい⋯⋯


 でもこの子に悪いんだけど、レディースセットってぶっちゃけ誰でも頼めるんだよね。


 そして彼女が帰ろうとした時にメニューを見てフリーズしていた。

 あぁ、やっぱり気付いちゃった⋯⋯


 また、可愛い格好して来てくれないかな?


「ありがとうございましたー」


 私はそう言いながら彼女が帰っていくのを見送った。

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