91:感想回①

 配信が終了した後に俺はパソコンの前で呆然としていた。


「俺、何やってるんだ⋯⋯」

 そう思うのも仕方ないだろう、昔3Dモデルが流行していた時期に作って記念に残していたモデルを改変してドッキリを仕掛けただけだったんだから。


 そうしたら俺がまさか、そのモデルを元にした新たなライバーとしてデビューさせられる事になるなんてあの時の俺では想像も付かなかった。


 いやむしろ、想像出来る方がヤバいって話だろう。


「いや本当に俺が次の配信からゆりとして活動しないといけないのか?社長の悪ノリって事は⋯⋯無いよな、流石に」

 流石に悪ノリで社長自らあの場で告知なんてしない筈だ。

 逃げ道が完全に消えてしまったと言うべきだろうか。


 精神的に疲弊した俺は希美の作ってくれた飯を食べて、少し、少しだけ希美に甘えた。


 昔から俺が疲れたり、精神的に辛くなったときは側に寄り添ってくれていたっけ。


 今度何か美味しい物でも希美と食べに行くか⋯⋯


 そして次の日になり、今日は会社へ出社しないといけない。


 駅までは希美が送ってくれたからそのまま電車に乗り名古屋へと向かう。


 そして会社へ出社すると社長に連絡を取った。


「やぁ、姫村くん。どうしたんだい?」

「社長、昨日のアレどういう事ですか!?」

「ん?悪くはないだろう?現にかなり評判も良かったし、ピヨッターではとんでもないバズを生み出しているよ。

 君の息子くんの存在もあってかなりエゲツないバズりを見せてくれているよ」

「え?バズですか?」


 俺はスマホでピヨッターを開いてみるとそれはそれは大変な通知が来ていた。

 普段からいいねやリツイートが多いので通知をオフにしていた弊害か、今の今まで気付かなかった。


「な、なんだこれ⋯⋯」

「いやーアーカイブ含めて500万再生をたったの一日で達成とはやるじゃないか」


「お、俺の最近の動画何だったんだ⋯⋯」

「まぁ、正直言うとね、君も感じていたんじゃないかい?解説や人の悩みを聞いたりする今のスタイルもそろそろ限界が来ていると言う事くらい」

「うぐっ」

 確かに社長の言う通りだ。

 今のスタイルではいつか解説するネタが尽きる、現に尽きかけていた。

 探すのにも時間がいるし、自分が解説を出来るくらいに内容を理解するのにも時間がかなり必要だ。

 今までは努力でなんとかしていたが、限界があるのも確かなんだ。


「否定出来ないだろう?」

「確かに、そうですね」

「そんな時に君が自らこんな面白いネタを引っ提げて来てくれたんだ、私の見込み通りの男だよ君は!」

「は、はは」

「と言うわけで、今回は罰ゲームのせいで来月末まではゆりとして配信をしてもらう事になるが、その後はシュバルツとゆりを半々でやってもらう事になるだろう。

 配信スタイルも一気に変わり、歌配信やゲーム実況も増えるだろう。

 今後に私は期待しているよ!」

「ちょ、ちょっと社長!ゲームは本当に苦手なんですって!

 現にシュバルツの時なら普段通りの実力出せますけどゆりの時は俺の脳のリソースが足りませんって!」


「だが、それがいい」

「えっ?」

「ギャップ萌えだよ、完璧に見える君の弱点が皆の前に出される、そのギャップがまたウケるんだよ」

「(逃げ道がねえええええええ!!!!)」

「と言うわけで君はありのままで配信をしてくれればいいのさ」

「わ、分かりました⋯⋯」

 そして俺は社長との通話が終了し、デスクで独り頭を抱えていた。


「あっ、姫村さんおはようございます」

 すると丁度タイミングを見ていたかのようにマネージャーが部屋に入ってきた。

「あぁ、おはよう」

「げっ、元気無いですね、大丈夫ですか?」

 彼女は俺の様子を見て心配になったのだろう、俺に大丈夫か聞いてきた。


「大丈夫なわけあるかあああああああ!!!!」

「ですよねー」

 軽いよ反応!!!!


「それで?何があったんですか?」

「あぁ、まずはな、お前のあのコメントガチで採用が決まった。来月末までゆりで配信する事が決まったよちくしょう」

「えっ!?本当ですか!?」

 彼女は何故か満面の笑みで聞き返してきた。


「なんで嬉しそうなんだよ!?」

「いやーめっちゃ似合ってたので!

 また見れると思ったら楽しみすぎて!」


「ちゃっかりファンになってるよこいつぅ!?」

「へへへ、あのボイスで囁いてくれてもいいんですよ⋯⋯」

「いや俺には嫁がいるからそういうのはNGで」

「ふふふ、知ってますよ。でもですよ、ASMRボイスの収録が決まったんで結局囁いてもらう事は変わらないんですよね」

「へ?」

 何を言っている?

 俺がゆりでASMR?

 恥ずかしい言葉を言わないといけないのか?


「社長相当気に入ったんですね、グッズ化も既に検討してるみたいですし、柿崎ゆる先生のデザイン上がったら動き出す算段付けているようですよ?」

「もう勘弁して⋯⋯こころの準備が⋯⋯」

「これも仕事ですから!」

「うぐぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「あっ、でも収益次第で給料上げるからそれをモチベに頑張ってくれって社長が」

「まぁ、実際に姿を見られる訳でもないし、給料上がるなら、我慢するか⋯⋯いやでもやっぱ恥ずかしいわ⋯⋯」

 俺は外堀を埋められてしまい、逃げ道なんてものはもう無かった。


 余談ではあるが、優希との配信の後、俺のチャンネル登録者数が爆増したらしい。

 親子で高め合うとか何やってるんだろうな。

 ただ、それ以降の配信で男の娘大好きな人間が増えたらしいが、まさか俺も男の娘扱いされているのか?

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