54:お爺ちゃんの家に行こう!

 次の日の朝になり、僕はいつものように朝早くに目が覚めた。


 とりあえず身嗜みを整えているとお母さんが起きてきた。


「あら、優希ちゃん早いのねー」

「うん、最近朝早くからバイトする事が多いから早起きしてるんだ」


「バイトしてたのね、何やってるの?」

「喫茶店だよ、そこの賄いがすごく美味しいんだよ!」


「へぇ、今度教えて頂戴ね、優希ちゃんが美味しいって言うんだから間違いは無いと思うから気になるわぁー」

「本当お母さんは料理の事になると目がないよね」

「一応これでも料理研究家なのよー?」

「でもお母さんの名前見た事ないよ?」


「だって名義変えてるから仕方ないわよー」

「えっ?そうだったの?」

「一応結構これでも稼げてるのよー?」

「うちの人なんで無駄に多才なの⋯⋯?」

 僕には特化した才能と呼べるものは無くて、どれも平均的、勉強はそこそこ出来るけど社会に出て役に立つかと言われると微妙だと思う。

 お父さんやお母さんを見てるとそれを実感するよね。


「優希ちゃんだって、人を惹きつける才能があるじゃない、それだって立派な才能なのよ?」

 お母さんは真面目なトーンで僕にそう言った。


「人を惹きつける?」

「そう、優希ちゃんの場合はちょっと特殊だと思うけれど、少なくとも悪いものじゃないの。

 特に優希ちゃんは可愛いんだからその可愛さを磨いていけばいいとお母さんは思うけど⋯⋯

 まぁうちの男の人は手を加えなくても魅力的な顔立ちしてるから問題無いと思うけど」


「いやでも僕男だよ?」

「可愛いは正義、いい言葉よね。 可愛ければ男だって許される世の中なんだから。」


「絶対ノーマルじゃないと思うけど⋯⋯」

「ふふふ、気にしたら負けよ。

 あっ、そろそろご飯出来るから先に食べる?」

「うん、食べる!」

「それじゃあ持ってくるから待っててね」


 お母さんが持って来たのはクラムチャウダーとバターロール、サラダ、スクランブルエッグにベーコンだった。


 いつの間にこんなの仕込んでたんだろう、お母さんの料理には謎が一杯だ。


 そしてそれを全て平らげてお腹も一杯になったところでお父さんも起きて来た。


「おっ、優希随分と早起きなんだな⋯⋯ふぁぁ⋯⋯」

「お父さんもまだ眠そうだね」

「いや、あの後配信の事でマネージャーに突っつかれてな、それで優希に頼みがあるんだけど、ちょっといいか?」

「僕に出来る事なら大丈夫だよ?」


「俺とコラボしてくれないか?

 親子でコラボとか個人的にはなんか嫌なんだけど、優希が良ければやってくれってうちのマネージャーがな⋯⋯」

「僕はいいけど、お父さんは大丈夫なの?」

「いやな、実はマネージャーに逆ドッキリでも仕掛けてやろうかな、とは思ってるんだ」

「な、何するつもり?」

「そんな大した事じゃないから気にしなくていいぞ?マネージャーにしか分からないネタだと思うしな」

「あっ、そんな軽いものなんだ」

「そうそう、だから気にすんな」

「うん! 分かった!」

 お父さんがそう言うならきっと大丈夫だと思ってそう返事をした。


「ちなみにやるとしたら一ヶ月後くらいを目安に考えてくれると嬉しい。土日のどっちかにやると思うから詳細決まったら教える」

「分かった!」

「そんじゃご飯食べたら爺さんたちのところに向かうか」

「うん!久しぶりだから楽しみ!」

 それからお父さんも準備を済ませて、僕たちはお爺ちゃんとお婆ちゃんの住んでいる山に向かって走り出した。


「ねえお父さん、なんでお爺ちゃんやお婆ちゃんはあんな人気のない山の中で暮らしてるの?」

「あー優希なら分かると思うが、うちの爺さんと婆さんって特別だろ?その、見た目がさ」


「うん、正直二十代後半って言われても遜色ないレベルだと思う」

「爺さん曰く加齢が遅いらしい、それでそんな人間が田舎に居たらどう思われると思う?」

「嫉妬とか、何かされたりするって事?」

「まぁ嫉妬かどうかは置いといて気味が悪いと思われるのは間違い無いな」

「だから人気のない山に?」

「あぁ、と言ってもちゃんとネットとか電気は通して貰ってるから生活になんの支障も無いらしいぞ?」


「なるほどー」

「ついでだから俺たちの見た目の理由心当たり無いか聞いてみるか?」

「うん、ちょっと気になる」

「お母さんも気になるわぁ、お父さんとお付き合いしてから私まで老化が止まって正直困惑してるのよー」


「まぁ、その、あれだ、俺的にはいい事だけど、な?」

「あなたったら⋯⋯」

 目の前でイチャイチャしないでよお父さん、お母さん!?


「僕もお父さんやお母さんみたいな家族、作れるかな」

「優希なら出来るって、それこそ選びたい放題出来そうだけどな優希の場合」

「優希ちゃんの配信とか画像とか少し調べたけど、可愛い子だったわね、ゆるちゃん」

「うぅ⋯⋯僕はまだ誰かと付き合うとかそんな気ないよ?」

「まだ、って来たか、というか他にもいるのか?あっふわりは除外していいぞ」

「なんでふわちゃんが!?」

「アイツ怖い、俺の名字と俺の姿だけで俺が優希の父親だって察したんだぞ!?なんだよアイツ、怖いって!?」

「まぁ、ふわちゃんだし⋯⋯」

「その謎の信頼感は何なんだ!?」

「だってふわちゃんだし⋯⋯」


「ま、まぁいいや、他にもいるのか?」

「えっと、僕の初恋の人の遥先輩⋯⋯多分僕に好意は持ってるんだと思う、けど」

「ほほう?」

「あらあら」

「うー!でもまだ確定じゃないし!それにゆる先生も、僕に好意持ってるのは間違い無いとは思うんだ⋯⋯でもそれが違った時が怖いし、どっちも、その、好きだから、決めるなんて難しいし⋯⋯好きって言ってもあくまでも知り合いと言うか、恋愛的なあれじゃないよ!?」


「それにふわちゃんはまだよくわからないけど、少なくとも好意は持たれているのは普段の言動で分かるよ。僕はラノベの主人公みたいに難聴とかでは無いから」

「まだ優希にはその辺りは早かったか」

「うふふ、まだまだ子供ね優希ちゃん」

「うぅー!でも、あの二人みたいな人とお付き合い出来たらいいなとは⋯⋯思うよ」

 僕は恥ずかしながらも俯いてそう言った。

「(後は優希次第ってところか)」

「(青春、してるわね)」

 優希の父と母は互いにチラッと見合って微笑んでいた。



 それから一時間ほど車を走らせると僕のおじいちゃんとおばあちゃんのいる山に到着した。


 そこは山と言うには整備されていて、人の手が入っている事が一目でよくわかる。


 そして少しそこから車を走らせていると一人の女性が目に入って来た。


「ん?よぉ、優斗に希美のぞみさん、それに優希も、もうそんな時期だったか!」

「母さんも元気そうだな、というか母さんの場合婆さんと呼んでいいのか不安になるんだが」

「お義母さんお元気そうで何よりですー」

「お婆ちゃん、久しぶり!」


「一応オレはこんなんでも六十五歳だからな、年金も貰い始めたばかりとは言え十分歳だぞ?」

「まぁ、母さんがそう言うならいいんだけどさ」

「それじゃあ家の前に車停めてくるよ」

「おう!事故らないとは思うが気を付けろよ!」

「ははは、分かってるって」

 そしてお婆ちゃん達の住んでる家の前に車を停めるとお婆ちゃんがお爺ちゃんを連れてきた。


「今日来るとは聞いてたけど想像以上に早かったね、優斗」

「久しぶり父さん、本当はもっと遅い予定だったんだけど、優希が思ったより来るの早くてな」

「なるほどね、それと優希も久しぶりだね」

「うん、お爺ちゃん久しぶり!」

「うん、昔の優斗よりも優希は可愛くなってるね」

「優斗さんはどちらかといえば美少年系の顔立ちですし、優希ちゃんは美少女と言ってもいい顔立ちですからねー」


「あの、僕一応男の子なんだけど」

「いや、白姫ゆかやってる時点で説得力無いぞ」

「ぐぬぬ⋯⋯」


「まぁ皆、暑いし立ち話もなんだから中に入ろうか」

「あぁ、丁度いい、父さんに聞きたい事あったから」

「聞きたい事?」

「いや、なんで俺たちこんなに若いままなのか気になってな。俺ももう四十だぞ?なのにこの見た目絶対普通じゃないだろ」


「あぁ、確かに普通じゃないね」

「だよな、父さん何か心あたりとか無いのか?」

「あー、いや、うん。無いと思う」

「逆に気になるじゃないか!!!」


「いや、本当だよ?」

「なんか怪しいんだよな⋯⋯」

「とりあえず暑いし中で話をしようか」

「そうだな」


「お義母さんは知ってるんですか?」

「分かったら苦労しないよ⋯⋯」

「あー、ですよね」

「まぁ、女からすればずっと綺麗でいられるのはいい事だろ?」


「それを同じ女のお義母さんが言うんですか⋯⋯?」

「女と言っても心は婆さんだぞ?まっ、後は中でゆっくりとな?」

 僕達はお爺ちゃんとお婆ちゃんの家で話を聞く事になった。

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