35:コミケ三日目!(後編)

「あっ優希くん来た来た」

 僕が準備を済ませホテルのロビーへ降りると薫さんと由良さんが既に待っていた。

「あっ、もしかしてもう全員揃っちゃいましたか?」


「空木さんの方ももうすぐ準備出来るって言ってたからまだ大丈夫だよ」

「よかった⋯⋯まだお化粧落とすの慣れなくて」

 目の周りとかを気にしながらやっていると、慣れていないせいでお化粧が残っている事が多い、だからどうしても時間がかかっちゃうんだ。


「しっかり落とさないと肌に悪いから仕方ないよ」

「私も最初の頃はよくお姉ちゃんに注意されたっけ⋯⋯」

「いつの話してるの、今じゃ由良の方が化粧上手なのに」

「やっぱり最初はそんなものなんですね!」

「特に優希くんは男の子だし仕方ないよ」

「ま、まぁ普通はしないからね⋯⋯芸能人は結構する人いるけど、普通の人ならやっても化粧水とかくらいじゃないかな?」


 そんなメイク談義をしていると華さんがホテルの入り口に到着したと連絡が入った。


「ん、到着したみたいだね。

それじゃ早いけどコミケの打ち上げといこっか」

「はい!」

「私も食べるぞー!」


 そしてホテルを出ると華さんが周囲を確認しているのを見つけた。


「あっ、よかった、一瞬間違えたかと思いました!」

「合ってますよ、それじゃどこ行きましょうか」


 そして薫さんと華さんが目を見合わせると頷きこう言った。


「優希くんは何か食べたい物とかない?何でもいいよ!」

「えっ?僕ですか?」

「そうそう、今日の主役は優希くんだから!」

「私も優希くんの好きなところでいいと思うよー」

 全員からそう言われ僕は何か良いところが無いか頭を振り絞って考える。


 体力をみんな失っているからある程度ガッツリしたものがいいんじゃないかな、と僕は思ったけど、暑さでバテてる可能性もあるからあっさり系もいいのかな、と迷い始める。


「うーん、がっつり?あっさり?どっちが良いんだろう⋯⋯」

僕は思わず口に出して呟いていた。

「優希くん、私たち体調は普通だからがっつりも大丈夫だよ」

「ずっとあそこに居たわけじゃないから気にしないで大丈夫!」

「私も現地行ってそのまま帰ってをやっただけなので問題無いですよ」

 みんな大丈夫みたいなので一つ思いついた場所を言ってみることにした。


「それだったら焼肉とかどうですか?打ち上げと言えば!って感じでいいと思うんですけど⋯⋯」

「おぉ、いいね!私は賛成だよ!」

「いいと思う!」

「私も問題無しです!」

 全員それでいいよと言ってくれたのもあり、皆で焼肉に行く事になった。


「そういえば少し遠いですけどうちの事務所のメンバーでオフコラボとか東京でやる時によく行く美味しい焼肉屋さんあるんですけどそこに行きませんか?」

 そう華さんが提案してきた。

 料金はこれくらいです、と言いながら薫さんにスマホの画面を見せている。


「(少し値段は張りますけど凄く美味しいですよ、ここ)」

「(これくらいなら問題無いですね、ここにしましょうか)」

 そう話す二人の声は僕には聞こえなかった。



 華さんに教えてもらったお店に到着した僕たちはまず華さんおすすめのセットメニューを注文する事になった。


 値段を見て僕は目を見開いた、何五千円って!?

 何を使ってるのここのお肉!?

 流石にここまでの高級ランチは僕初めてだよ!?


「えっ?五千円?」

「あーちょっと高いけど大丈夫、お腹いっぱいになるし、滅茶苦茶美味しいから!」

「この値段のランチは初めてでちょっと困惑しちゃって⋯⋯」

「それに優希くんは売り子もやってくれたから遠慮しなくて大丈夫だよ!」

「い、いいんですかね⋯⋯?」

「まぁまぁ、優希くん気にせず食べちゃおうよ!」

「は、はい⋯⋯」

 この金額は流石に申し訳ない気持ちになってしまう。

 でも出てきたお肉を見て美味しそうという気持ちが強くなった。

 ほ、本当に良いのかな⋯⋯?


 和牛の色々な部位が少量ずつ入ったこのセットは種類が多いので見た感じで結構なボリュームがある。

 確かにお腹いっぱいになりそう。


 初めての高級焼肉にワクワクしながらお肉を焼き、焼き上がるのを待つ。

 じゅうじゅうといい音を立てて焼き上がったお肉をタレにつけて食べる。


「お、おいふぃい⋯⋯」

 僕は頬を綻ばせながら感想を口にした。


「(もしかして薫さん、この姿を見せてくれるために⋯⋯?)」

 そっと目を薫に向けた華を見て薫は頷いた。

「(こんなの死ぬほど尊いに決まってるじゃないですか!!!本当にありがとう薫さん!)」


「なにこれ美味しい⋯⋯あっちの高級焼肉にも引けを取らないよ⋯⋯」

「ですよね!私もそう思ったんですよ!あっちだと一人一万円付近の美味しさなんですよここ!」

「確かに美味しいね」

 そんな話をしながらも目線は全員優希の方を向いていた。


「もぐもぐ⋯⋯ん〜♪美味しいです!」

「紹介した甲斐があったね、気に入ってもらえてよかった」


 その後沢山ご飯を食べた全員はホテルへ戻って寝転がる羽目になったとか。


♢(一ノ瀬遥視点)


「おはようございます」

 わたしは昨日撮影の予定があったけれど、一緒に撮影予定の子が急に交通事故に遭い来れなくなってしまったらしい。

 幸い大怪我まではいかなかったらしいけれど大事をとって一週間以上は休む事になったそうだ。


「あっ、遙さんおはようございます」

「結局撮影の方はどうなりそうですか?」

 東京本社にある事務所へ入ったわたしは今回の撮影を担当している人に予定を聞く事にした。


「それが、代役が見つからないそうで、こちらも焦っている状況なんですよね」

「簡単に条件に合う子なんて見つからないですよね、普通」

「遙さんがこっちにいる事が出来るのは最大でいつまででしたっけ?」

「登校日があるので、あと三日が限度ですね」


「分かりました、マネージャーさんとも連絡を取ってどうにかするので連絡が入るまでの間は自由にしてもらって大丈夫です!」

「分かりました、何かあったら連絡してください」

 わたしは事務所を出てホテルへ戻った。

 何もやる必要のない休み、久々だから楽しまないと!



「うーん、困ったわねぇ」

 彼は遙のマネージャーの

 優希にIVの撮影を依頼した人物でもある。

 彼はマネージャーとはいうものの遙が所属している事務所の統括マネージャー兼Glory Cuteの副社長も務めている。


 そんな彼が困っている内容は、先ほど電話によって伝えられた遙と一緒に撮影する予定だった女の子が事故にあったために休まざるを得なくなったことだった。

 遙が東京で待機できる時間にも限りがあるため代役をなんとしても早く探す必要性があったのだ。


「姉妹コーデ、似た雰囲気を持つ子じゃないといけないのが難しいわね⋯⋯せめて髪型の近い子なら⋯⋯」


ただし問題はお盆の時期に動けてなおかつ東京にいる事が条件になると言うことだろうか。


「東京にいて髪型が近い⋯⋯ん?」

「いるじゃない!適役が!

 帰ってしまう前に連絡しないといけないわね!」

 彼はとある人物へ電話をかけ始めた。

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