プラットフォームゲームみたいな世界になるとどうなるのか?

モッコム

プラットフォームゲームの世界。

「命をお買いしませんか? 命を世界へ。命収会社『ライフ・シェア』があなたに新たな命をお送りいたします」


最近は都心でデカデカとある大型ディスプレイからこんなふざけた広告が流れても皆驚かなくなった。


最初はとんでもないときょっとしたものなのに、慣れとはかくも恐ろしいものだ。


―― ある日、世界は突然に変わった。


正確に言うとあの配管工のおっさんが活躍する某有名な世界的ジャンプアクションゲームのルールが世界のルールとして置き換わったのだ。


まず世界中には後に『ステージ』と呼ばれる異空間が多く生まれ、そこを攻略していくと様々なアイテムや金で出来たコインなどが手に入った。


そしてクリアしたものにはスコアという形で報酬が払われ、不思議なことにこれをステージ内にショップと呼ばれる空間でモノを交換出来るようにもなっていた。


ただその代償とでもいうべきか。

人間の体は非常に脆く変質し棘に刺されたり、物挟まれたりしただけで体が謎の縮小現象に見舞われ、その状態で同じくダメージ負うとなんの前触れもなく死んで……そして死体が消滅した。


これが知られた当初はそれはもう世界中が大パニックになった。

いきなり自分のからだ縮んだり、ちょっと怪我しただけの隣人が目の前や知らないところで忽然と神隠しに会うのだから当然の反応だろう。


世界各国がステージを管理下におき、状況説明と鎮静化を何度も促し、制度を整えて……10以上の月日を要したものだ。


当時幼かった俺は何も知らずに鼻水垂らしてすげーすげー言いながら、テレビに流れるステージ攻略を生業する人たち……プロの攻略者たちみたくなるんだとか言っていたっけ。


「はっ、今考えると笑える」


ステージでは色んなものが手に入る。


金そのものはもちろん、例のショップで物だけで色んな種類のエネルギーバック及びタンクなども。


ただそこでもっとも人たちの注目を集めたのは……命のストック、所謂『残機』が手に入ること。


そして俺の仕事は……。


「今日も行きますか……金貨コイン採取」


……採取者と呼ばる低難易度のステージをひたすらに周回するだけ、炭鉱夫のような存在だった。


だって仕方がない。


高難易度ステージはより多くのスコアやコインが手に入るがその分危険だ。


実際にまだ混乱が収まっていなかった時期に大量の死者を出しており、政府がそんなどころにホイホイと一般の人達を立ち入らせるわけがない。


だから政府は攻略者専用のライセンスとその取得試験を作られせ、これがないものは高難易度の……言い換えると旨味のあるステージへの立ち入りを制限した。


そして俺も過去ライセンス試験に挑み……あっさり落ちた。


「……そこから転げに転んで炭鉱夫の生活だ。やってられないよ、まったく」


それでも俺は今日もステージの門を潜る。


ブラックホールみたいな入口に吸い込まれて、そそくさと持ち場に着く。


邪魔してくる、これまた見覚えのある鈍い茶きのこを器用に避けながら。


資源のコインが尽きるまで、ブロックに隠れているものまで隅々と取り尽くし。


ステージのゴールを通り入口の前に謎の転移現象で放り出される。


それでステージの状態がリセットされるからまたブラックホールみたいな門を潜って……さっきの過程をエンドレスだ。


「ほんと嫌になるよ」


世界がファンタジーに変わったからって、そこに人全員がファンタジーの住民になれるわけではないと俺は遅まきながらも思い知った。


それでも今日も俺は走る。


コインはぶつかれば自動で回収されゲーム仕様で、ステージの外に出ると近くにズラーっと並べられる。


だから業務内容は言ってステージを走ってコインを取引窓口に納める。それだけだ。


どんな季節であろうと環境が不変であるがため、あまりにも代わり映えしないステージの風景に辟易とした感情が湧き上がる。


それでも今日も明日も俺は走り続ける。


「昨日のあれ聞いた? 隣のクラス天野くん死んだって」

「校門に挟まって死んだやつな! キャハハ! マジウケる」


「ニュースです。最近の不法収命者はよる自爆テロが活発になっており……」


「さぁ、本当にタネも仕掛けもない世紀の大脱出マジックショーが始まります! 果たして今回は死者を出さず終われるのか!?」


どれだけ世界が狂いにグルっても……俺は走る。 


「だたいま、母さん。父さん。妹よ」


返事のないお帰りの挨拶を虚しく響かせ家の玄関に上がる。


それから仕事の汗を流し、諸々の用事を済ませ……皆の居る寝室にまで階段を伝い登る。


大きなベットに並んで……複雑な機械と管に繋がれている家族をひとりひとり見てから。


最後にまだ年若い妹のそれこそ、中学生ぐらいしかその子の前に止まる。


「残機が買えるまであと千万ポイント……あと1年は掛かりそうかな。その時には高校生の年になっちゃうかー……。ごめんな。でももう少しの辛抱だから、みんな待っていてくれ」


俺は今日も明日も……この先も走る。


このゲームという名で狂いにグルった世界を歪みをただひたすらに……。



――――――――――――――――――

・追記


作者の人生初の短編を読んでくれた読者の皆さま、本当にありがとうございます!


アイデアだけあった設定を短編としてまとめみたやつです。

『命のストックが作れる』って最近よくあるショートアニメにあるみたく怖いホラー的な想像が先に来がちですが……やっぱり出来ることを考え出すと色々と夢がありますよねー。

というのを伝えたかったのもこれを書いた理由のひとつですね。あとプ◯ットアニメ最高(ボソッ)


今回のようになんかふと思い付くとまた短編をとか書くかもなので、出来るればそのよろしくお願いしますm(_ _)m


※作者の別作品


ホームダンジョン!~新作ゲームで狙ってた強ジョブが削除された男の奮闘記~

https://kakuyomu.jp/works/16816700426874038337

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