第24話 悪魔の一日創造

我の名前は、メフィスト。偉大なる元祖の悪魔である。

皆の者はきっと、我が野垂れ死にしているのであろうと考えているであろうが、実はそうではない。我は、悪魔として自由にこの世界を探検しているのだ。

あの天界にいるクソ天使共とは話が違う。悪魔は自由である。


この世界に飽きは来ない。日に日に溢れていく動物や植物や魚。…あと虫。

我はこの何もない世界に新たな生命が生まれる瞬間に感動しているのだ。


そんな中、今日も今日とて世界を歩き周っていると、いつの間にか辺りは、雨雲で覆われていた。自分の中に言い知れぬワクワク感が生まれ、その雨雲の先へと羽を進める。急いで散策する必要もない。しかし、自分の中にある好奇心を抑えられるほど理性は保てない。

猛スピードで飛んで行くと、次第に、雷雨が降り注いでくる。ここら一体には、動物の影が少ない。

暗く、先が見えない最奥へと進んでいくと、思わず飛ぶことをやめ、地面へ降りた。

今、目の前には山のような生き物が一体、寝そべっている。


「おい。そこの者。邪魔であるぞ」


我はその生物に物怖じすることなく、罵声を浴びせた。

もちろん飛んでいけば、この山のような生き物を飛び越えて進むことはできるだろうが、我のことを認識しようとしないこの生き物がなんとなく不愉快になってしまったのだ。

しかし、我が声をかけたというのにも関わらず我のことに気が付かないのか相変わらず寝ている様子のその生物に蹴りを入れる。


「おい!起きろ!邪魔だと言っておろうが!」


そう言いつつ何回か蹴りを入れると、そいつは目を開け、こちらの様子をちらっと伺った。


『何のようだ。下賤の者よ』


「ぬ!?」


我は、自分のことを下賤とバカにするそいつに、魔法を食らわしてやることにした。

精一杯の力を右手に集約させ、魔法を纏わせるとそいつにパンチを繰り出した。

その生き物は、そんな攻撃ではダメージなど通らないと言った様子で、避けるどころか再び目を瞑り、また眠り始めてしまう。


(今に見ておけ…)


我の強烈なパンチは、その生き物の首の辺りに見事ヒットすると、ジュウと音を鳴らし、その部分を焦がした。

思わず、その光景を見て満面の笑みが零れる。

やっとその生物は我のことを認識したのか目を開けこちらを見る。


『貴様、よほど我を怒らせたいらしい』


そいつは我の行動に、身を起こした。

山のようなその姿に一瞬、身が強張るも、やっとのことそいつの全貌が見えてくる。


「お前が我の言うことを聞かないからだ。どけと言っている」


ここでびびったら負けだと言わんばかりに、我はそいつに罵声を浴びせる。


『我に攻撃を加えるとは、よっぽどの大馬鹿らしいな』


そいつは、そう言い、大口を開けると、口から雷を纏ったブレスを思い切りこちらに放った。我は、そのブレスを避けることはせず正面から受ける。


「ふん。毛ほども効かんわ」


我は、嘘をついた。自分の中の精一杯の魔力をフルに使ってやっとのことブレスを防いだのだ。いわゆるハッタリというやつである。


『ブレスを防ぐとは、少しはやるようだ。お前の名を聞いといてやろう』


「ふん。いいだろう。我が名はメフィスト元祖にして最強の悪魔である」


『なぜ、我にこの場から去れと言う?』


「我は邪魔だと言っただけだが…ぐっ…」


思わず膝をついてしまう。ブレスを直に受けた弊害だ。


『強気な態度はハッタリか。つまらん』


膝を思わずついてしまった我に失望したのか、その山ほどある竜は、再び我に向けてブレスを放とうと口を開ける。今度、このブレスを直に受ければ、死ぬだろう。

そうわかった我は、今度は受け止めずに躱す体勢に入った。

その瞬間ブレスは、我を目掛けて飛んでくる。

それを予測し、左に精一杯避けると、完全に座り込んでしまう。


『我のことを邪魔だと言う。その理由を述べよ』


「わからん」


竜の問いかけに、正直に答える我は、1発目のブレスを避けていればよかったと今更ながらに後悔をする。しかし、敵の攻撃を一回受けるというのは性分というやつなのだ。絶対に躱せない。


『ふんっ。勝手にするがいい』


2回ブレスを打った後の竜は、その場から離れようと翼を広げている。


「待て。我はもう一つお前と戦う理由が今できたのだ」


今にも飛び出しそうにしていた竜にそう言うと、精一杯の力を振り絞り立ち上がる。

そして、竜に指を刺すと、竜の鼓膜を破ってやる勢いで声を張り上げた。


「貴様!我と一人称が被っておるのだ!!」


そう我が竜に向けて言い放つと竜はぽかんと口を開けた。


『何を言っているのだお前は…。さっきから滅茶苦茶だぞ』


我は、その竜の言葉を聞き流し、竜の顔に殴りかかった。





ふいに目が覚めると、そこには、一面の暗闇が見えた。

何か少し柔らかい床の感触に違和感を覚えた我は、上体を起こす。

目の前には、先ほどまで我と竜が戦っていた場所があった。


『助けてやる義理はないが、暇だったのでな』


近くにいるようである竜の声が聞こえてくると、再び寝ころんだ。

我はこの竜に負けたのだ。もう抵抗する気も起きない。

相変わらず雷雨が降り止んでいないはずなのに、自分に雨が当たっていないことに気が付き、自分の目線の天井をじっと見つめる。よく見るとそれは、竜の羽根であった。竜は我を雨ざらしにしまいと、羽根で我を庇っていたのだ。


「我を食うのか?」


『食うか。悪魔なぞ、病気にかかるかもしれん』


「回復すれば、我はまたお前に攻撃するぞ」


『何度挑まれても結果は変わらん。次は助けてやらんぞ』


そもそもこいつに突っかかった理由の最初は、ただ邪魔だっただけなので、もう戦う理由なんて一人称の取り合いくらいしか見当たらなかったが、つい好戦的な態度をとってしまう。悪魔の性分というやつだろうか。


「お前、名前はなんていうのだ?」


『今更、私の名前が気になるのか?本当に変な奴だ』


我が突っかかった理由の1つであった一人称を変えて話す竜の様子を見るに、こいつは悪い奴ではないことは、もう我にもわかった。


『私の名前は、雷竜ラドン。この地を統べる竜である』


「やはり竜か。初めて会った」


『だろうな。私以外であったのなら、殺されているであろう』


「お前の他にも竜がいるのか?」


『ああ…竜は私のほかに3体いる』


我が聞くまでもなく、そのラドンは他の竜達の話を始める。


『東にいる火竜は、かなり好戦的でな。お前なぞ見た瞬間に灰になるだろう』


「じゃあ、西には?」


『西は風竜がいる。あいつも火竜と似たようなものだ。好戦的で好かん』


「南は?」


『南には氷竜。あいつが一番大人しい。まあ他に仕事があるようだからな。私達竜に構っている暇はないのであろう』


「南といえば、地界の入り口があったか…」


我は、生まれてきてこの方、地界に足を踏み入れたことはまだない。

しかし、あまり行きたい場所ではないということだけは頭にあった。


『それで、お前はどうして私に挑んだのだ』


最もな理由である。

少し心地いいこの床を手で摩って確かめながら答えた。


「本当に目障りだっただけなのだ」


『お前…』


竜は我の答えに呆れた様子を見せた。

我はそんな竜に構わず質問をした。


「お前はここで何をしているのだ?」


『特に何もしておらん。寝ているだけだ』


つまらなそうに答える竜を見るに、それは真実なのだろう。

我も世界を見て回ることをしていなければ恐らくそうなっていた。

少し竜に同情する。


「いつ止むのだ?この雨は」


『知らぬ。もう10日は降っている』


「この先には何があるのだ?」


『さてな…ここから動いたことはない』


「なぜだ?世界を見て回ろうとは思わんのか?」


『お前は質問ばかりだな…メフィスト』


我の質問にうんざりしたのか竜は、今にも眠りそうな声でこちらの質問に答えた。


『もうどこかへ行くがいい。そして二度と来るな』


「もう少ししたらな。我はしばらくここで休ませてもらう」


『お…おい。ちょっと待て。私は暇だがそこまでは…』


我は、目をその場で目を瞑ると、すぅと寝息を立てた。


『ぐ…これも神…お前の仕業か…許さん…』


そう横で愚痴を垂れている竜。

この事件に神も天使も介入していないことは、誰も知る由もなかった。















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異世界創造記 けーあーる @k_kuru

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