第22話 部屋創造
極寒の中、人影が2つ。
そして、動物達の声が1つの人影に集中していた。
「あははっやめろって」
俺の後ろで動物達に揉みくちゃにされている青髪の天使。いやアホがいる。
前には氷山の入り口があった。
「おーい。フフー!」
俺は大声で、山の上へ呼びかける。
いやよく考えれば、聞こえるはずもないな。
俺は自分のペンダントに手をかけ、フフを呼ぼうとしたが、大きい羽音が耳に入る。
俺は手元のペンダントから目線を氷山に戻すと、竜が山の山頂から飛び出してきた。
その竜は、ゆっくりと近づいてきて、いつしか山の麓まで辿り着くと、その竜は、人の姿に化けた。
俺がその人の姿に手を振ると、そいつは走ってこちらに向かってくる。
その気配に、後ろで天使のことを揉みくちゃにしていた動物達は一目散に立ち去って行った。
「ああ…みんなぁ…」
ガブリエルは残念そうに去って行く動物達を見ていた。
人に化けた竜が俺の元へと辿り着くと、俺はその竜に話しかける。
「久しぶり。フフ」
「うん。でもそんなに久しぶりじゃない」
透き通った声で、俺の言葉に返事をするフフは、積もっていた頭の雪を頭を振って払っていた。
「ここ、人間には寒い。うち来る」
「家?あるのか?」
「ある。作った。フフのおうち」
フフは、竜の姿に戻ると、俺たちに背中に乗るよう促した。
木々を傷つけまいと、少し上空で停滞している竜に、俺たちは、その指示に従い、フフの背中に飛び乗る。
俺たちが、乗ったことを確認したフフは俺たちが振り落とされない程度のスピードで、山の山頂を目掛けて飛び立つ。
「なかなかいい心がけでしたね。神様」
フフの背中に乗っていたガブリエルが俺に一声かける。
「なにがぁ!?」
俺はガブリエルに聞こえるよう極力大声を出す。
「さっきのフフの行動をみれば、フフはいい子だとわかります。」
「はぁ!?よく聞こえないわ!」
まだ、ガブリエルは何かしら、俺に言おうとしていたが、風の音が強すぎて、俺の耳には入ってこなかった。
フフが氷山の山頂へ降りると、竜の姿から人間の姿に変身をする。
俺達も山頂へ降り立つと、辺りを見回す。
寒すぎる。麓に比べて山頂の辺りは、吹雪いていた。
そんな俺達を見てフフは、目の前の山の窪みに入るよう俺達に手招きをする。
導かれるがまま、窪みに入ると、洞窟のような長い通路がそこにはあり、両脇に松明が灯っていた。
洞窟の奥へと歩を進めると、木で作られていたドアが突き当りにはあった。
そのドアをフフは開けると、中は誰かが暮らしているかのような空間が広がった。
真ん中には大き目の丸いテーブルと、椅子がいくつか並べられ、角のほうには、棚とランタンが置かれ、灯っている。
俺は、目の前にあった椅子に腰かけると、フフに話しかけた。
「これ、全部フフが作ったの?」
「ん。違う。動物達と一緒に作った」
「え?動物?器用なのがいたもんだな」
「神様が動物も作った」
うん。それはそうなんだけど、数が多いし、俺あんまり記憶力よくないからな…
何回か見た映画もすぐに内容を忘れてしまうくらいには記憶力に自信がない。
「へぇ。フフもやるもんだね。褒めてあげよう」
ガブリエルは素直に賛辞を送り、フフの頭を撫でた。
フフはガブリエルの行動に嫌がる素振りを見せず、ただ気持ちよさそうに目を閉じていた。
ガブリエルが撫で終わると、フフは俺の方を見る。
「で、神様、どうしてここ来た?」
フフは俺の正面に腰かけると、俺に質問する。
ガブリエルはフフが座ったのを見ると、俺の隣に腰かけた。
「元気にしてるかなって思ってさ」
「神様、心配症。フフ、1人で大丈夫」
設定上、氷竜なんだから、そうだろうけど見た目はただのか弱そうな幼女だ。
心配にもなってしまうのは当然のことだろう。
「もし、心配なら、このペンダントで見て」
忘れていたが、呼びかけ機能の他にも、映像機能が備わっていることをすっかり忘れていた。
しかし、そのペンダントはガブリエルに見せるとまずいんじゃ…
俺は、ガブリエルのほうを見ると、俺のその目線に気づいたのか、ガブリエルはフフに話しかける。
「フフ。そのペンダントの色、何色?」
「?見てわかる。水色」
ガブリエルは、その言葉を聞き、安心したのか俺の方にペンダントを見せた。
そのペンダントは、深い青色をしており、フフのペンダントとは明らかに違うぞとガブリエルは俺にアピールしてくる。
いや、そのペンダントで乱心したのはお前だろうが…。
俺はフフに仕切り直し、話しかける。
「まあ、話は置いといて。俺らがここに来たのは迷惑か?」
「迷惑、違う。ただ、今は山が危険」
「ああ…確かに吹雪いてましたもんね。外」
ガブリエルが言うように外は猛吹雪といっていいような降り方はしていたが、フフがいれば安心なのではないかと思う。仮にも最強設定の竜なわけだし。
「地界から、悪魔出ようとしてる。フフそれ止めてる。そのせいで吹雪すごい」
あぁ…コキュートスだからそんな設定にしたのを思い出した。
俺は、この幼女に使命を与えすぎてしまったんじゃないかとまた後悔する。
ガブリエルは、俺の考えていることを読み取ったのか、ちょっと呆れていた。
(お前、後で覚えとけよ。お前の絶対に勝てない竜をけしかけてやるからな)
俺は心の中でそう決意すると、本を取り出す。
目の前の竜に鑑定の魔法を使ってもいいのだが、鑑定には、地域の設定や、世界の設定を読み取る機能はない。
まとめて読む場合には、こっちのほうが今は都合がいいのだ。
「地界って言っても、今はサタンぐらいしかいないんじゃないの?」
「いる。たくさん。特にうざったいのが、最近サタンから生まれた上位の悪魔達」
「あいつって結構トラブルメーカーだよな…」
サタンにそう思いを耽ると、地界の設定を見直す。
地界…地獄。全ての悪魔がそこに集約されていると言っても過言ではない。
地界への入り口の一つは、氷山の一角にある。
冥界の神からの判決が下されると、人間の魂もそこに送られ、悪魔たちに拷問をかけられる。
俺は、そこまで文章を読むと、本を閉じた。
え?冥界の神って何?俺そんなキャラまだ生み出してないよ。
まだ人間もアダムとイヴと俺くらいしかいないから仕事なんてないけどさ…
それに文章短くない?地界の設定雑すぎるんだけど…
俺は自問自答を繰り返す。
きっとまだ探せば、地界に纏わる設定は書いている覚えは確かにあったが、今は自分が書いた文章に頭が痛くなっていた。
「フフ。このまま止められそう?」
「ん。平気。いつもより早めには収まる。ルシファーが今地界にいるから」
そういえば、地界に行くと言ってたっけ。
なんか勝手な想像で、姉のサタンにご飯でも恵んでるのかと思ったがそうではないらしい。
「どれくらいで抑えられそうなんだ?」
「3日。いつもは5日」
2日も早くなるなら御の字だろう。
というかそんな大変な時期に来てしまって申し訳ない。
そもそもサタンは俺のせいでもあるんだけど…
「で、神様どうする?帰る?それとも泊まる?」
「んー…まあ泊まって行くか。迷惑じゃなければだけど」
「ん。わかった。そこに部屋ある。そこで寝て」
「フフはどうするんだ?」
「ん。地界でブレス吐く。これ、1日1回の仕事。これで悪魔達収まる」
おおう…本当にすまない。俺が設定したばかりに、1日1回とはいえど仕事を押し付けてしまって…。
というか1日1回ブレス吐けば、大丈夫なのか。
それはそれで雑魚すぎないか悪魔達…。
いやでも竜のブレスだし、強いのか…?
その光景を見てみたくもあるが、フフの邪魔はできない。
「じゃあ行ってくる」
フフはそう言うと、俺達が入ってきたドアを開け、どこかへと行ってしまった。
「フフ。忙しそうでしたね」
「そ…そうだな…まあ俺達はお言葉に甘えるとしよう」
「そうですね。部屋こっちにあるって言ってましたよね?」
ガブリエルは、立ち上がり、奥の部屋らしき場所がある扉を開けた。
俺もそのガブリエルに着いて行くかのようにその部屋に入ると、先ほどの空間よりさらに大きい空間が広がっていた。
その大きい空間の真ん中には、大きめのベッドらしき木製の骨組みだけが置かれている。
布団らしきものは見つからなかったので、どうやら寝る時には、この骨組みに寝転がって寝ているんだろう。
俺は、勝手なことをするなと怒られるのも承知で、マットレスと、布団、枕を本に記入し、創る。
俺はその完成したベッドに腰かけると、マットレスの具合を確かめた。
「俺の寝てるベッドより快適になったかもしれない」
そう呟くと、近くで佇んでいたガブリエルが、その大きめのベッドに飛び込む。
「確かにそうですね。うちにもほしいですよっ!」
ゴロゴロと転がりながら布団を堪能しているガブリエルに、ちょっと引いた俺は、他の場所を探索してみることにした。
ここにも先程の部屋と同じように、棚が並んでいたが、その棚には、何も入っていない。
というより使われていなかった。
俺は、味気ない棚にも、装飾をしようと、また制作を始める。
(棚には本だな。あとドレッサーらしき場所には服を入れとこう)
俺はどんどんとフフの部屋を改造して行ってしまう。
あとで怒られたら元に戻せばいいんだ。
そう思いつつ、装飾をし終わると、ベッドに再び腰を下ろした。
「なんかすごいですね。別の部屋みたくなっちゃいました」
確かに見違えるほど、物を創ってしまった俺は、
今更自分がしてしまったことに焦りを覚える。
「うん。まあ疲れたから寝るわ」
俺は、もう修正がきかないような部屋に、見て見ぬふりをして、ベッドに横になった。
おそらく、深夜の時間帯であっただろう。
灯してあったランタンの火は消えている。そんな中、1人の少女が俺の寝ていた部屋に入ってきた。
「お疲れ様。フフ。大丈夫か?」
特に疲れた様子もないその少女に、言葉をかけた。
「ん。平気。何も疲れてない。それより部屋変わった」
「ごめん。ちょっと素っ気なかったから、色々増やした。嫌なら片づける」
「いい。こっちのほうが楽しい」
フフは魔法の明かりで部屋を一通り見回すと、部屋に入ってくる。
俺は、フフが部屋に入ってくると同時に身体を起こし、ベッドからどいて、フフに空いたスペースに来るよう手招きした。
ベッドには、ガブリエルが1人寝ていたが、まだまだ十分に空きはある。
「?何してる?」
「何って…フフが寝るべきだろ?ここ」
「ん。神様今お客。そこで寝る」
そう言って聞かないフフを思わず、お姫様抱っこで持ち上げる。
軽いな。竜の質量はどこに消えたんだか…。
俺はそう思いつつも、フフをベッドにそのまま寝かせる。
フフは起き上がろうとするも俺が手で体が起きないようフフを固定するとフフは諦めたかのように、俺から目線を外し、天井を見上げた。
俺は床に腰かけると、フフに話しかける。
「ずいぶん、遅かったけど、何かあったのか?」
「サタンが襲ってきた。ブレス1回が2回に変わった」
「それだけか?」
「ルシファーと一緒に、地界入り口直してた。いつもは壊れない」
俺はその様子を簡単に想像することができた。
きっとサタンはまた、今頃、駄々をこねた子供のように膨れているのだろう。
フフにはだいぶ苦労をかけているらしい俺は、
帰ったらフフのために冥界の神を創ることを決意した。
俺が物思いに耽っていると、フフが俺にベッドに来るよう促している。
「神様、一緒に寝て」
俺はその言葉に従い、フフの隣の空いていたスペースに寝そべった。
「フフ。色々すまん」
「?なんで謝る?」
「いや苦労をかけさせてるなと思って」
「苦労違う。フフのやることたくさん。それが楽しい」
「そうなのか?」
「うん。神様。ありがとう」
フフは、その時にやっと、俺に笑顔を見せてくれた。
そうか。俺は勝手に苦労をかけさせているんじゃないかと思っていたが、やることがないって暇だもんな。
俺はそんなことをフフと話しているといつの間にか、眠りについていた。
朝、左手のほうに重みを感じ、俺は手をどけようと寝ぼけながら腕を動かす。
指の先に、ぷにんという感触があり、俺はその感触に気持ちよさを覚え、何回も繰り返し触っていると、その腕のほうから息が荒くなる声が聞こえてくる。
「ダメ…神…様…」
俺がそちらの声のほうに目を配ると、顔を赤くしたフフが、もじもじと俺のほうを見つめていた。
これが俗に言う、ラッキースケベというやつだろうか。
俺の目は完全に覚めているはずなのに、指を動かすことを止められそうにない。
俺が触るたびフフが気持ちよさそうに身をよじる。
(身なりは幼女だが、身体はすっかり女のようだな…ぐへへ…)
思わずゲスのような声が出そうになる俺に、冷たい目線が突き刺さった。
それは、フフの後ろで一緒に寝ていたガブリエルだった。
「神様ってロリコンなんですか?」
その一言に、俺は左手を思わず離すと、何もなかったと上体を起こし両手を挙げた。
左手の先には、何か液体が付着していたが、俺にはなんのことがよくわからない。
フフは俺の手が離れると、寂しそうにこちらを見ていた。
フフは設定上、竜だし、設定年齢上は大丈夫だけど、俺にロリコンの気はない。
見た目が幼女の女の子に手を出すはずもないのだ。
俺は起き上がり、何事もなかったように伸びをすると、寝室を出て、昨晩座っていた椅子に腰かけた。
そのうち、フフとガブリエルもやってきて、椅子に同じく腰かけたのを見たのちに、俺はフフに話しかける。
「昨日、言おうとしてたことなんだけど、フフにも聞いといていい?」
「ん。なに?」
「この世界の名前って、まだないだろ?何かいい名前ってあるか?アイデアとか…」
「…ノイズ」
「お…おう…その意味はわかるか?」
「音がうるさい。っていう意味。神様が教えてくれた。山頂は、音、うるさいから。」
少し意味合いが違う気もするが、概ね合っている。
俺が教えたつもりは、毛頭ないが、心当たりはある。
恐らく、これは氷竜を設定する時に、面倒で、“最低限の知識がある”と雑に書いた効果なのだろう。
フフと話している感じではかなり有用な単語ではないだろうか。
次に何かを創る時に参考にしよう…。
「なかなかいいかもしれないな。このアホなんかよりも」
「えーいいじゃないですか。ヒエヒエ…」
「ガブリエル。センス。ない」
「うぇ!?」
そうフフに言われ、バカにされて落ち込んだのか、ガブリエルはテーブルにガンッと頭を打ち付け、少し泣いている。
「じゃあ、ここら辺の地域の名前をノイズにするか。まあ世界の名前にするにはちょっと仰々しいし…」
「ん。わかった」
「じゃあ俺らはそろそろ帰るよ。迷惑だろうし」
「気にしないで。また来て。送っていこうか?外まだ吹雪」
「いや、大丈夫。ミカエルに言って帰るよ。また近いうちに遊びに来る」
俺はまだテーブルに項垂れ、涙を滝のように零しているガブリエルに声をかける。
何回か声をかけても立ち直りそうにないガブリエルを俺は抱えると、ペンダントでミカエルを呼んだ。
俺の声に反応したミカエルは、俺の元にゲートを出した。
「んじゃあ、またな」
「待って。しゃがんで」
「お…おう。どうした?」
俺はガブリエルを抱えながら、フフの目線まで体を下げた。
フフはそんな俺を見ると、唇に軽くキスをした。
「ん、また来るの、楽しみに待ってる」
その言葉を後にして、俺はゲートへと入って行った。
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