第13話 魔法創造

「お前達に1つ話しておきたいことがある。というか相談がある」


俺は、天使3人と向き合い、真剣なまなざしで発言する。

俺の発言を聞いていた3人はそれぞれで真剣な態度で息を吞みながら次の俺の言葉を待っている。本当はサタンとメフィストも呼びたかったが、どこにいるか所在が掴めないので仕方ない。まあ呼べば来るだろうが…


「俺は引きこもりだが、ファンタジーっぽいことがしたい」


「ファンタジーっぽいこと…?」


そんな俺の発言をぽかんとした顔で青髪の少女が答える。


「こら失礼ですよ。ガブリエル。発言が許されるまで黙っていなさい」


隣に座っていたベージュ色の髪が眩しく、胸元に実った立派な果実を揺らした少女が、ガブリエルを小さく叱る。


「いやいいんだ。ミカエル。今は意見を言ってもらったほうが助かるから」


俺がそう言うと、ミカエルはすっと顔を正面に戻す。

ガブリエルがミカエルのほうをちらっと見ながらニヤリと笑っていると、ガブリエルの右側に座っていた、ショートの黒髪の少女がその釣り目を俺のほうに向け発言する。


「ガブリエルが言うように、ファンタジーっぽいこととはなんでしょうか?」


「うん。まあ簡単に言えば、魔法が使いたいのよ俺も」


俺の発言に3人が顔を見合わせる。


「お言葉ですが神様。魔法と仰られても、私達のように神様は創造されたわけではないので使えないのではないでしょうか」


ミカエルの言う通り、最もな話である。

しかし、可能性を捨てきれない俺は発言しようとするが、ルシファーがそのミカエルの発言に何か思うところがあったのか俺より先に口を開く。


「主様は全知全能。出来ないことなどない。その発言は意見ではなく罵倒である。即刻取り消しなさい」


「そ…そうですね…失礼致しました。神様」


ルシファーのその発言にしょぼんとするミカエル。

いやミカエルが言ったことが大体正しいと思うが…俺ただの人間なんだし…


「で…続けると、本の力を使えば、肉体改造なんかもできちゃうかなぁって思ったんだよね。俺」


「さすが神様!頭いいですね!」


ガブリエルがすかさず俺のことを褒めてくる。

明らかに俺に媚びを売っている様子のガブリエル。

ガブリエルはどうやらルシファーのことを恐れているみたいに、その発言の最中もちらちらと様子を伺っているのが証拠だ。

ルシファーはそんなガブリエルに気づいているのかいないのかわからないが、黙っている。


「それで、もう試した後なんだけど、使えないんだよね。魔法」


「なるほど。それで私共に使い方を聞こうというわけですか」


さすがルシファーは察しがいい。というか頭がいいのかな。

切れ者の設定はしているからきっとそうなんだろう。


「でもオレ達もよくわからないですよ?なんとなーくブワッて感じで使ってますし…」


ガブリエルはそうなんだろう…。イメージ通りだ。

アホというかベタというかなんというか…。


「ほら、ラノベとかでもよくあるじゃん?イメージを具現化するとかなんとかさぁ。やってみたけどできないんだよ。カメ〇メ波くらい撃てるかなって思ったんだけどさ」


ガブリエルの言葉を半分無視し、言葉を続ける。

そう俺は既に自分に魔力の設定と、それに見合う魔法や設定を本に書き記し、一通り試してみたがうまくいかなかったのだ。


「こんなことを聞くのも、おこがましいとは存じますが、どういった風に魔法の設定を創ったのでしょうか?」


立ち直ったミカエルが俺に質問をする。

確かに魔法が使えない理由として考えられるのであれば、1つは設定のミスだろうな。もう1つはこの世界の神?である俺には本の力は適用されないとかだろう。


「なんとなく、自分の設定を書き込んだだけだよ。イケメンとか…身長が180㎝とか…魔法が使えるとか…あと歳は23歳とか…」


自分に対してのこれでもかというほどの欲張りセットを描いたつもりだ。

まあ自画像は描いていないので、なんとも言えないが…。

ちなみに本のページを確認するも、自分の設定は白紙になることがなかったので、今までのことを考えれば、うまくいっているはずなんだけど…。

俺が本を捲り自分のページを確認しているとルシファーが1つ興味深いことを言ってくる。


「これは推測ですが、魔法の存在があやふやになっていることが原因かと思われます」


「あやふや…?雑ってことか?」


「雑…いえ…そのようなことは…」


今の自分の発言がとても失礼なことに気づいたのか、ルシファーは口を紡ぐ。

いちいち止めるのも面倒になってくるので、そのまま思ったことを口にすることを許し、続けるよう促す。


「つまり、魔力とはどういったものか、どこから沸いてくるのか。魔法とはどういう風に発現し、どういう風に消えていくのか。そういったところまで考えなければならないのではないでしょうか」


「ふむ…一理ある…」


つまりより具体的に書けということなんだろうな…

俺はルシファーの意見を参考にし、詳細を書き終えると本を閉じる。


「で、これで魔法が使えなかったら、本の力は俺に適用されないってことになるけど。まあそれならそれで諦めるしかないな」


「いえ、それはあり得ません。私の主様ですから」


どこからその自信が沸いてくるんだろう。ルシファーは凛とした態度を崩さない。

しかし、どこからか沸いてくる自分の身体の違和感に、確かにルシファーの言った通り魔法が使えるような気もしてくる。


俺は自分の人差し指を立て火が出るよう念じると、ライターほどの小さな火が手から出てくるのが見える。


「お…おおぅ…」


俺は思わず一人で驚く。その光景をまじまじと3人の天使が見つめてくる。


「おめでとうございます」


ミカエルとルシファーが火を見ながら口を揃えて拍手をする。

ガブリエルは俺の火をまじまじと見つめたままだったが、2人と同じく手元では拍手をしていた。

なんだかこんなことで褒められているのがひどく恥ずかしく思え、火をふっと息で消すと、俺は少し咳払いをした。


「でもさ。俺がこう設定を書き込まないと魔法が使えなかったってことは、お前達の魔法も使えないのが道理じゃないのか?」


「それだけ、この世界が乱雑なのでしょう。世界の法則がまだ定まり始めたばかりですから」


ルシファーが答える。

うーん。そう考えればそうなのかもしれない。

少しの間、その出来事が腑に落ちずにいたものの、魔法が使えた喜びに、

そんな小さなことはいつしか頭の隅から抜け落ちて行った。













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