第5話 向かう

実は休みの日に学校以外の場所で

友達と会う事が何となく苦手だった。

制服という共通項のない状態で会うのが

何となく気恥ずかしいような。


自分から寺西君を誘ったのに

明日の事を考えると今から落ち着かず

そわそわする。



何を着て行くか迷いながら、

ベッドに数着並べてみた。


ノックの後、お姉ちゃんがドアを開けた。

「千里、お母さんが呼んでるよ」

「うん、すぐ行く」


お姉ちゃんがベッドに並んだ

右端の一着を指差した。

「明日楽しみだね」 笑ってドアを閉めた。


見透かされてすごく恥ずかしかったけど

明日は右端のそれを着て行こうかなと思った。


私にもそんな気がした。





改札を抜けエスカレーターを登る。

待ち合わせの時間には充分間に合う。

何故か気が急いる。ホームを急行が通過した。

いつもの光景だ。


フリスクを続けざま口に放り込み

音を鳴らして噛む。

程なく到着した電車に乗る。


いつも聴いている曲がイヤホンから

耳に入ってこない。緊張とは違う何か。



馬鹿だな、俺達は。

携帯番号はおろかLINEさえ交換せず

時間と場所だけ指定して今から会おうとしている。

本当に会えるのだろうかと

引っかかりが焦りに変わっていたのかも知れない。

 

俺にはそんな気がした。


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