アナログバイリンガル

 ”アナログバイリンガル”、それが皮肉を込めた言葉として使われるようになって20年以上が経つ。


 23世紀の後半になった現在、全人類が電脳化しており、地球上のコミュニケーションはデジタル言語に統一されていた。


 昔は多言語を話せるというのは特技と見なされていたが、その必要性がなくなった現代では”デジタル”との対比として”アナログバイリンガル”なんて呼ばれるようになった。


 まったくひどい話だ。



 そんなある日、私は道端で倒れて叫んでいる男に出会った。周りに人が囲んでいるが誰も彼と話が通じてないようだ。


「タスケテクレ」


 私には偶然それを聞き取ることができた、M国の言語だろう。


「どうしました?」

「助かった。電脳が壊れたのか喋れなくて。鞄から薬を出してほしいんだ」

「なるほど持病ですね」

「あぁ、お前みたいなアナログバイリンガルが居たおかげで命拾いしたよ」



 私は周囲にデジタル言語でこう伝えた。


「ご心配なく。ただの酔っ払いです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る