異世界転移したらあんまり面白くなくて絶望したんですが...

KOYASHIN

織田川 信

 「詰まんなくなった...」


 勉強は、昔から人並み以上にはできた。

運動も苦手ではないし、やれば人並み以上に直ぐに、できるようになった。家も裕福ではないが、生活に困ると言う事は、なかった。


 「詰まんなくなった...」


 小学校から高校まで、特にいじめは受けず、友達もたくさんできた。教師とも問題なく、上手く関係を作れていた。


 「詰まんなくなった。」


 周りが必死に勉強している。だが、特にいつも通りで大学受験も国立大学に合格した。

 

 「急に...詰まんなくなった。」


 大学生活でも勉学に交友関係に、彼女だって普通にいた。皆が嫌がっていた就職活動も大手へ内定を貰えた。


 「急に...詰まんなくなった。」


 就職してから、人間関係も仕事も問題ない。


 『




 ある日、いつも通りの通勤時。いつも通りの商店街を歩く。突然に白い光に包まれた。視界が回復した時には、目の前に、1人の老人が立っていた。


 黒いローブに身を包み、顔は、白い長い髭しか見えない。“魔法使い”。そんな印象しかない。


 (ここは、どこだ?)


 童話に出てくるお菓子の家。そう表すのがピッタリだと思った。違うのは、菓子ではなく、木でできている事だけだろう。


 「ようこそ。勇者様方。よくぞ、おいでになりました。早速ではございますが、魔王を倒していただきたい。」


 唐突にファンタジーやゲームを感じさせる言葉。

織田川 信オダガワ シンは、嬉しい気持ちになった。


 周りには、4人の見知らぬ男女がいることに気付く。普通なら、現実世界に帰りたい。いや、ここはどこだ?と叫ぶだろう。

 だが、4人とも平然として老人の言葉を聞いている。。そう織田川 信は、直感した。


 老人は、水晶の乗った台座を指差し、触れと言う。触ると自分のこの世界での能力値、ステータスに職業、スキルと言った項目が浮かび上がってきた。


 まるで、ゲームのウインドウ。どういう原理かは知らないが、織田川 信は、詰まらない退屈な人生。それが崩れる予感がして、心の中で歓喜した。


 (俺のステータスは、オール“200”。職業は、“勇者”。この200という数字が、多いのか少ないのかは、まだ判断できないな。)


 他の4人も続々と水晶に触っていった。眼鏡を掛けた金髪の男。長身に細身で顔は、整っているが血の気のない青白い顔色。知り合いなのだろうか、短髪で明るそうな女と艶のある長い黒髪のどこかのお嬢様のような女が喋っている。


 「では、勇者様方、魔王討伐宜しくお願いいたします。ご武運を。」


 老人は、一方的に話を終わらせて、扉から出て行った。普通の感性であれば、喚き散らしても可笑しくない。もしくは、老人を追いかけ、掴みかかって怒鳴っていても何らおかしくない状況である。


 しかし、その場にいた5人は、誰一人として老人を追いかける者はいなかった。とりあえず、魔王を倒す。ただそれだけの理解しか与えられていない。


 「ほな、この5人がパーティーっちゅうこっちゃな?自己紹介させてもらいますわ。わいは、戸夜富 秀満トヨトミ ヒデミツ」。今年で22歳や。」


 金髪の眼鏡が悪そうな顔に笑みを浮かべて、織田川を見ている。


 「ああ。宜しく、戸夜富くん。俺は織田川 信オダガワ シン。シンでいいよ。俺も22歳だ。」


 「シン。よろしゅうなぁー。わいも友達には、ヒデ呼ばれてるからヒデと呼んだってや。」


 「僕は、岩畑 三成イワバタケ ミツナリ。33歳だ。みんなより年上だが、気にしないでくれ。呼び方は、好きに呼んでくれて構わないよ。」


 「宜しく岩畑さん。」

 

 「次は、私たちね!私は、ガルシア・ホソカワ。ガルシアでいいわ!今年で17歳の高校2年生よ!宜しくね!そんで、こっちが......」


 短髪の明るい女性が隣のお嬢様も紹介するようで、お嬢様は、照れ臭そうな顔を浮かべていた。


 「こっちが、市 麗華イチ レイカ。私の同級生よ!あの“市グループ”の御令嬢なんだから!」


 「皆さん、市 麗華と申します。宜しくお願いします。」

 

 育ちの良さを感じさせる綺麗なお辞儀をする麗華。織田川 信には、そんなお嬢様がこの状況に平然といられる事を不思議に思っていた。不思議より奇妙という表現の方が的を得ているかもしれない。


 「ほお!“市グループ”言うたら大企業やん。すごい大物がいたもんだ!」


 戸夜富 秀満は、机に腰をかけて市 麗華を見る。浮かべる笑みは、下心とは違う不気味な雰囲気であった事を織田川は、感じ取った。


 「さて、自己紹介も終わったことやねんし、出発しまっか!」


 戸夜富 秀満が、机から降りると背伸びをしながら出口へと向かう。それに続くように他4人も出口に向かった。

 戸夜富は、急に後ろを振り返り、織田川を見る。


 「シン。改めて宜しくな。ワレとは気が合いそうや。」

 

 握手を交わし、ニコッと笑みを浮かべる織田川に対し、突然、表情を険しくして言葉を放つ。


 「君、笑顔作るの下手やね。ほんまに笑っとれへんのがわかんで。」


 「!?」


 織田川が、一瞬顔をしかめた事に戸夜富は気付いたのだろう。


「そんな本気にせんってよ。冗談がわかれへんやつやな。まあ、そないに気にせんとって。シンと気が合いそうやと思うたのは、本当やさかい。」


 戸夜富は、他4人と共に外へと足を踏み出して行く。


 (作り笑顔がバレた事なんて今までなかったのに....)


 織田川は、今までの詰まらない世界での生活から脱却する予感を改めて感じ、心の内で満面の笑みを見せた。


 「楽しめそうだな。この世界。」




 




 



 








 




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