第6話 カルマ VS トーヤ
月明かりが彼らの居場所を照らす。
トーヤは眉間にしわを寄せて、立ちふさがったカルマを睨みつけていた。
「テメェはそいつが何をしたか知らないわけねぇよな。懇切丁寧に忠告した上で、作戦を妨害したことを理解してるよな?」
怒りのこもった声色が風に乗る。カルマも目つきは変わらず、トーヤをじっと見ている。
「わかってる。でも彼を逃がして、君をおびき寄せるにはこれしかなかった」
「そうか。それを聞いて安心した」
突如、トーヤはたった一歩踏み出す動きだけで、カルマの目の前に現れた。
「心置きなくテメェを、ぶち殺していいってことだからな」
右から横なぎの蹴りが迫ってくる。
カルマも瞬時に土壁を出して防御しようとする。だがその壁は破壊というよりは脆く、砂塵というよりは破裂するように散っていく。
「壁が作れない……力を使いすぎたのか」
「どうした? 俺を騙すくらい、よほど技に自信があったみたいだな」
カルマは自分の立っている地面を隆起させて距離を取る。だがそれすらもトーヤは駆け上っていく。
「ジアース……!」
大人二人分ほどの体格を持った白い仮面の生物──ジアースはトーヤの前に出て剣を構える。
「はいはい。誰かに守ってもらえてよかったですね」
身軽な跳躍でジアースの腕、肩へと乗り、踏み台のごとくカルマの元へ越えてきた。
剣先が月光に照らされて輝く。冷気とともに突きを放った剣はカルマの横を通り過ぎて、隆起した地面に刺さる。
カルマはジアースに体を掴まれて空中に放り投げられていた。間一髪回避できたと安堵しながら、ジアースを引き戻して右手を構える。
「スリーウェイシード! シャドウシンク!」
緑色の種が三方向に射出され、地面に紫色の円が出現してトーヤの元へ接近する。
「あれがネロの言っていた能力か」
トーヤは燃一前が泊っていた宿を発つ前、ネロから伝えられた言葉を思い出す。
『カルマの使うヌース──ジアースは大地の能力が使える。土にまつわるものを構成したり補強したりできるみたいだ。けどそれ以外にも炎、水、雷、木、闇、五つの属性を使うことが出来るみたいだ。といっても、教えてくれたのはカルマ本人なんだけど』
ネロは指を顎に当てて話し続ける。
『そもそも彼が能力について嘘をつけば不利にはならないはずだ。解析もできたし結果は同じことなんだけど、わざとボクたちに言う必要はないだろう? けど包み隠さず言ったのは何かしら裏があると思うんだ…………キミはいやがると思うけど、もし対峙するなら、その“特異体質”を使うのもやぶさかじゃないと、ボクは判断する』
そうネロは言った。
トーヤの『特異体質』は、この世界に組み込まれた、職業補正、レベルアップ、習得スキルなどのシステムを受け付けないというものだ。
オリジナルのスキルや生まれ持って備えている固有スキルなどには影響がないのだが、“転生者”の過剰なステータスに対して一矢報いることが出来る。
だがその能力を利用して戦うということは、スキルを利用して横暴を働く“転生者”と同じであるとして矜持に反してしまう。
(個々の技は目で追える速度だ…………一気に勝負をしかける!)
五感を強化してカルマが放った技を見極める。
修練と戦場で磨き上げた察知能力で、カルマの多彩な技をスローモーションのようにとらえ、軽やかな左右移動により避けていった。
「ハイパワーミュージック! ボルトルネード!」
ジアースが電気を帯びたクリーム色の剣に強化を施し、回転させながらトーヤに向けて投げた。
トーヤは加速スピードを一瞬弱めてサイドステップをすると、雷の剣は当たらないまま地面に突き刺さった。
カルマは地面に着地して、今度は両手を構えて叫ぶ。
「連続火炎弾!!」
ジアースの両手から放たれた火炎弾が何発も飛んでいく。
剣で火炎弾を叩き割りながら突き進むトーヤ。その剣を地面に差して柄を軸に、体で弧を描くようにして開店する。蹴脚と同時に氷のつぶてを飛ばし、火炎弾を打ち消すと同時にジアースの体へと突き刺していく。
「ぐっ……あ──」
「せっかく見せた技が壊されちゃったな。自慢のヌースで防げなくてさぞ辛いだろうな」
ジアースが受けた氷のつぶてが、カルマへの攻撃として返ってくる。
膝をついてもなお、カルマは顔を上げて口を開こうとする。
「僕は────」
「“僕は……諦めない”と言いたげだな」
カルマは目を大きく開いて、驚きを隠せないでいた。
言い放ったのはカルマではなく、剣を突き付けたトーヤだったからだ。
「なんで読めるのかって顔だな。テメェのくだらない正義感なんてお見通しなんだよ。わざと攻撃を外してくるのもな」
「……気づいてたんだね」
「おおかた火の玉も、後ろにいる燃一前の氷を溶かすためだったんだろう。ヒーローみたいに救えなくて残念だったな。出し抜けたと思った気分はどうだ“転生者”サン?」
「…………僕はただ、彼を助けたいだけだ!」
氷がカルマの下半身から登ってくるように固まっていく。
頭をわしづかみにしてトーヤはぐいと顔を近づけた。
「アイツに殺された選手は、二度とあの舞台に立てねぇ!! 親族はもう自分の子供の活躍を見ることが出来ねぇんだよ!!! どれだけ通っても、いつも目にするのは、“転生者”っつう、のうのうと生きて戦ってる仇なんだ!!! それを、知らないまま見てんだよ!! テメェは遺族の馳せる想いさえ踏みにじってんだ!!!」
カルマは凍える右手を伸ばし、頭を掴んでいるトーヤの手首を掴み返す。
「…………救えなかった命があるのはわかってる。その人たちの幸せだって願ってる。けど、僕は救える命が目の前にあるなら、その手を伸ばしてあげたいんだ」
トーヤは頭からゆっくり手を離す。掴まれていたカルマの腕も寒さのあまり、宙に浮いている。
ぴんと背筋を伸ばし、剣の柄を握る。
「話にならねぇな。だが現場判断だ────徳地カルマ、お前を処刑する」
「
カルマは叫ぶのを止めた。
必死に抵抗するのかと踏んでいたトーヤは、燃一前の方へ顔を向ける。そこには、頭を塞いでガタガタと震える燃一前の姿があった。
「怖い……火事……もう……いやだ……」
視界が安定せず、ただぶつぶつと言葉を続ける。
「いったいなにが起きてる……」
「彼はね……死に間際に連れて来られた『転移者』だ」
トーヤは目だけをカルマの方へ配って話を聞く。
「とある街のアパートで火事が起きた……一人逃げ遅れて、呼吸もできず彼は死んでいく運命を呪った。でも、そこに現れたんだ、神が」
「神……?」
まさかとは思ったが、以前“転生者”を召喚してゲームのような享楽を続ける『神』と対峙したことを思い出す。
カルマは凍えた体のまま、語り続けた。
「彼の転移方法は『絶望』だ。もし……この世界で死んでも、再び火事の世界に逆戻り……また絶望すれば『神』の力で、この世界に連れて来られる……」
「なら、このままコイツを処刑しても、また繰り返されるのか!?」
『そのとお~~り』
トーヤとカルマが正面に顔を向ける。
ぱちぱちと手を叩きながら、赤いオーラを纏った男が近寄ってくる。
月明かりに照らされた彼の顔は、
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