第4話 犯人の調査
夕暮れ時のオズパーク国。ちらほらと電灯に光がつき、国民は一日の終わりを告げられる。
だが最後まで明かりがともっていたのは、街の中心にある闘技場であった。
ちらほらと観戦を追えた客が外に出ていく。それでも場内の歓喜は衰えない。
対戦カードは、他国で全戦全勝を豪語する、
「うおおおおお!」と弱々しい声で剣を振りまわす。
だが
さらに歓声が上がる。もはや
「気はすんだか」
トーヤはふてくされているのか、手のひらの上に顎を乗せている。
「もぐもぐ……」
「お前が見たいって言ったんだぞ。あと食べるのを止めろ」
「クリームデニッシュだって、食べる?」
「……俺は何してるんだ」
トーヤは大きくため息をつく。
彼が付き添いなどという面倒ごとを引き受けることはほぼない。護衛するものであるとか、誘導、保護を意図としたものが職務であるからだ。
だが総帥はトーヤに一言だけ告げたのだ。
『彼と一緒にいてやってくれ』
トーヤは渋々受け入れざるを得なかったが、条件として『観察者』と『徳地カルマの行動に対し、現場判断で処置を行う』と提示し、三者の同意を持って闘技場を見学しに来ていた。
「ネロって人に色々聞かれて疲れた……」
「お前に付き合ってる俺の方が疲れている」
オズパーク国へと来る前、カルマとネロは残されて長い面談が行われた。情報提供ということで協力が始まったのだが、ネロの好奇心とズケズケと踏み込んでくる積極さに苦労したのだろう。
カルマは立ち上がろうとすると、トーヤに小さなナイフを向けられる。
「……トイレに行こうかと」
「忘れてもらっては困るが、お前は執行部隊で預からせてもらってる。それはいつでも討伐対象として処刑できるってことだ。今でも隊員たちがお前の行動を監視しているし、逐電は考えても無駄だ」
「すぐに戻ってくるよ。逃げたりしない」
カルマは脅しも気にしていないようにすたすたと歩いていった。
「……アイツの監視を続けろ」
『はっ!』と無線越しに声が聞こえる。
執行部隊の監視役として甲冑を纏った兵士ではなく、暗殺部隊を任命している。気配遮断や、スニークの技術を持った討伐部隊で、室内や一騎打ち戦、奇襲に特化している。
彼ら数名は連絡を取り合い、徳地カルマの行動を監視していた。
それに気づいてはいるものの、あまり気持ちのいいものじゃないなとカルマは思った。カルマはトイレに入ると、個室になっている便所に籠った。
「気が抜けないなぁ……」
流石にトイレの中までは覗きに来ないだろうと、感嘆交じりに呟いていた。
カルマが席を外している間、
退屈しのぎにもならないどころか、のうのうと闘技場に参加している”転生者”と、トイレに行っている”
「今頃……」
斜め後ろに座った灰色髪の老婆がぽつりとつぶやく。
「あの子が元気だったら、ここで戦っていたのかもしれないのにね」
老婆は手元にとげとげしいものを抱えている。確か、オズパーク国の被害者のつけていた髪留めではないだろうか。涙も出さず、老婆は『彼』がいたはずの闘技場を眺めていた。
(あなたの立ちたかったところ、二度と汚させないからな)
突然、手元の通信機に連絡が入り、トーヤは耳を傾ける。
『出てきます! あ、ちが、その、そう意味じゃなくて……』
「わかってる。徳地カルマの行動に問題はないか?」
『依然と、変わりはないですが……あ! 突然走り出しました!』
「逃亡か! クソ、これだから”転生者”は!」
「いえ、トーヤ隊長のいる席に戻っていきます!」
「なんだと?」
カルマがトーヤの座った席まで走ってきた。息を切らして手を膝についてる。
「ね……すぐに来たでしょ」
「勝手な行動するなと言ったはずだ。最悪、暗殺部隊がお前を処刑してたところだ」
「トーヤの言う通りにしただけだよ」
舌打ちをして席を立つと、カルマの横を足早に通り過ぎていく。
「どこ行くの?」とカルマは訊ねた。
「昼間話しただろ。作戦準備だ」
トーヤは頭の中で自分が作戦で伝えたことを思い返していた。
『
『対転生者用防衛壁』、通称『フィールド』は転生者討伐に際し、魔法や攻撃などによる外界への被害を最小限に抑えるためのものである。
転生者自体のインフレーションが凄まじく、完全防御とまではいかないため、強度限界に達するまでに彼らを討伐しなければならない。
『戦闘動画を見た通り、接近戦にはなるが戦闘経験はてんで素人だ。クリティカルのスキルもヒット時に攻撃倍増となることから回避可能だ。だが曲がりなりにも”転生者”だ。万が一に備えて俺が奴を所定の場所に誘い出すため待機する。だから前線はエミリアに行ってもらう』
赤いポニーテール髪の女性──エミリアは首を縦に振る。
エミリアは席を立ち、スクリーンの横まで歩くと、振り返って会議室全体を一望する。
『では本日深夜、作戦決行とする。皆、取り掛かってくれ』
職員や隊員たちが敬礼をして移動を始める。
カルマも彼らに合わせて構えてみたが、
『戦闘動画、見てない……』と呟いたのだった。
あの時、動画を見せていれば闘技場まで足を運ぶなどしなかったのに、と後悔がよぎっていた。
ところ変わって、オズパークの闘技場内トイレ。外は日が沈み、紫色の空模様が黒色に染まりかけていた。
そんな仲、一人の青年が腹を抱えて個室に籠っていた。
「あの野郎……でかい拳で腹殴りやがって……いたたた」
痛みに訴えながら青年は顔を上げると、一枚壁にくっつけられた用紙がゆっくりと発行して現れた。
「え、なにこれ、レポート用紙!? そういえば、あっちの世界の時もレポート用紙に単語書いて暗記してたな……」
暗くなった外に反応してか、突然トイレの電灯がついた。用紙に書かれていた文字を読み上げる。
「
腹の痛さも忘れ、勢いよく立ち上がった。
「僕は君の辛い過去を知っている……僕の言う通りに動くこと……なんなんだよ、これ!?」
誰かから当てられた手紙に、膝はがくがくと震え始めた。
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