第10話 大型特番


 空腹で目が覚める。

ふと時間を見ると、もう夕方だ。


 今日は凛が出演する大型特番がある。

ドラマの出演者がたくさん出てゲームを行いながら自分たちのドラマの番宣をする。

凛はこの前、家にマネージャーがきた時に話したドラマの番宣として出演するようだ。

大揉めしたキスシーンは結局なくなったみたいだ。


 もうすぐ始まるな。

凛が作ってくれた晩飯を食べながら見るか。

テレビを点けるとちょうど大型特番が始まったところだった。



「さぁ!始まりました!」



 司会者が大きな声でタイトルコールをしている。

それに合わせてカメラがぐーんと引いていき、スタジオ全体が映し出される。

すごい数の出演者だ。

総勢50人はいる、いやもっといるかも。

スタジオに並べられたひな壇にはぎっしり出演者が座っていて、

それぞれの前に自分の名札と出演しているドラマの名前が書いた立て札が置いてある。


 凛はその真ん中あたりの一番前に座っていた。

隣にはドラマで凛の相手役の人気男性アイドルが座っている。


 ・・・なんか距離近くねーか。

目を細めてじっくりと凛の相手役の人気男性アイドルを見定めする。

髪型は今流行りのマッシュで綺麗にセットしてある。

・・・チャラついた髪型しやがって。

まあ、イケメンなのは認めてやる。

でもまだまだだな。

顔のかっこよさだけでゴリ押ししている気がする。

それじゃあこの先持たないぞ。

謎の評論家目線で分析する。

司会者が凛に話しかける。



「さあ!こちらにいるのは人気アイドルグループ、ヴィーナスのメンバーの姫野凛さんです!」



パチパチ、とスタジオで拍手が起こる。



「姫野さん!何かゲームの意気込みをお願いします!」



「そうですね、こんなに多くの俳優・女優さんに囲まれて緊張してるんですけど、初主演なのでしっかりドラマの番宣をしたいと思っています!」



 パチパチ、とまたスタジオが拍手に包まれる。

俺もテレビの画面の前で爆音でバシバシ大きく拍手する。

一通り出演者の紹介が終わると、なにやらゲームが始まった。



「さあ!最初ゲームはテーブルクロス引きです!」



 司会者が大きな声で言う。

各ドラマから出演者が代表で出ていき、テーブルクロス引きに挑戦するようだ。

スタジオに透明のグラスが何段にも積み上げられたものが運ばれてくる。

少しでも揺らしたら今にも崩れ落ちそうだ。


 ドラマの出演者が挑戦していくが、

次々と失敗してグラスを床にガッシャーン!とぶちまけている。

ついつい晩飯を食べる手を止めて見入ってしまう。

結構難しいもんなんだな。

凛のドラマからは男性アイドルが挑戦するようだ。



「頑張って〜」



 おい凛!応援するんじゃねぇ!

前の挑戦者が失敗して床に散らばったグラスをスタッフさんが片付け、

次の積み上がったグラスが運ばれてくる。



「いけるかな〜」


 

 男性アイドルがそう呟く。

お前には無理だな。

準備は進み、いよいよ男性アイドルの挑戦だ。


 失敗しろ失敗しろ。

俺はテレビの前で手を合わせて願いながらブツブツ呟いている。


 スタジオが静まり返っている。

全員がじっと固唾を飲んで見守っているようだ。


 俺も集中して見ていると男性アイドルがバッと勢いよく布を引っ張った。

布は綺麗に引き抜かれ成功したと思ったが、

一番上のグラスがグラグラ揺れて落ちてしまい、

それが他のグラスにもぶつかってガシャーン、と床にグラスが大きな音を立てて散らばった。


 よーーーーーーーーーーーし!

テレビの前で大きくガッツポーズをする。

自分でもなんて性格の悪いやつなんだと思った。

多分今の失敗を見て喜んでるのは俺だけだろうな。


 ふっ、まだまだだね。

俺なら綺麗に布を引いてグラスを1ミリも動かさずに成功できるぞ?

根拠もない自信で男性アイドルに勝った気になる。


 番組は次のゲームに移った。

激辛料理を食べているかどうかを見分けるゲームらしい。

さっきのゲームと同じように各ドラマから出演者が代表で出ていって挑戦するようだ。

おっ!凛が席から立ち上がって移動した。

ゲームに挑戦するようだ。


 1人だけ激辛料理を食べているの当てる。

凛の他にもベテランの女優さんが並んで挑戦するようだ。

1人、また1人と激辛を食べていって辛いです、とリアクションする。

ついに凛の番だ。

凛が一口、料理を口に入れる。



「どうですか!?姫野さん!」


「ごほっごほっ、か、辛いです〜」



 凛がそう答えた。

が、これは演技だな、俺にはわかる。

凛が本当に辛いものを食べた時は。



「辛っ!なにこれ辛い!」



みたいな反応をするし、

貧乏ゆすりが止まらなくなる。

俺が思うにこれは演技だぁ!


 意気揚々とテレビの前で踏ん反り返る。

その後誰が激辛を食べていたか発表されたが案の定、凛じゃなかった。



「それでは休憩タイムです!」



 司会者がそう言うと、カメラが違うスタジオに切り替わった。

そのスタジオにはテーブルがたくさん並んであって、

スタジオの端にはたくさんの屋台がならんでいる。

寿司から焼肉、さらにはデザートまでなんでも揃っている。

さすが大型特番だな。

スタジオにどんどん出演者が入ってきてみるみるうちに人でいっぱいになった。


 出演者はスタジオにある屋台から好きなものを取って食べている。

凛たちドラマチームも同じテーブルで談笑しながら料理を食べている。


 凛と男性アイドルは同じテーブルだが一番離れたところにいる。

よしよし、この前俺が拗ねたのが効いてるみたいだな。


 すると男性アイドルの方から凛に寄ってきて何か話している。

おいてめぇ!なに凛に近づいてるんだ!

離れろぉぉぉぉぉ!

俺の声が一人、部屋に響いていた。

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